江戸中期の国学者、歌人。「~なびこ」ともいう。楫取魚彦は雅名で、本姓は伊能、名は景豊(かげとよ)、のち景良。青藍(せいらん)、茅生庵(ちぶあん)などと号した。享保(きょうほう)8年3月2日、下総(しもうさ)国香取(かとり)郡佐原村(千葉県香取市佐原)に生まれ、6歳のとき父を失い、祖父に養われた。若いころ俳人として知られ、建部綾足(たけべあやたり)と交渉をもって画道や片歌にも親しむ。1760年(宝暦10)賀茂真淵(かもまぶち)に入門して、国学や和歌を学んだ。65年(明和2)には家業を子に譲って江戸に出、真淵の近くに住んだ。入門は遅かったが、よく真淵の学風を体し、万葉調の作歌にも秀でて、県門十二大家の一人に数えられる。真淵の没後、県居(あがたい)派で魚彦に従学する者が多く、とくに豊前(ぶぜん)中津侯からは夫妻とも眷顧(けんこ)を受けた。『古言梯(こげんてい)』『楢(なら)の嬬手(つまで)』『続冠辞考(ぞくかんじこう)』『冠辞懸緒(かけお)』『万葉集千歌』などの学書のほか、歌集『楫取魚彦家集』(県門遺稿第4集)『大船楫取雑集』や歌文集『楫取魚彦遺稿』(香取四家集)などの著がある。天明(てんめい)3年3月23日没。
[井上 豊]
『木村捨三著『楫取魚彦』(『国学者研究』所収・1943・北海出版社)』
(久保田啓一)
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江戸中期の歌人,国学者。本姓は伊能だが,生地(下総国香取郡佐原)にちなんで楫取を名のった。名は景良。通称茂左衛門。別号青藍など。30代に賀茂真淵に入門,真淵を継いで万葉調の歌を得意とした。家集に《楫取魚彦家集》(清水浜臣編)がある。古語古句を自在に駆使した長歌や催馬楽調などをはじめ独特の歌風に特色があるが,古語研究に興味と才能を示し,《古言梯》《続冠辞考》《冠辞懸緒》等を著している。絵にもすぐれ,梅と鯉を得意とした。
執筆者:佐佐木 幸綱
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…谷川士清(ことすが)の《和訓栞(わくんのしおり)》93巻(1777(安永6)以後の刊行)は古語のほか俗語方言なども収め,五十音順であり,太田全斎の《俚言(りげん)集覧》(増補本は1900)は俗語を集めたもので,アカサ…イキシ…の順で並べてある。 このほか特殊辞書には,語源辞書として松永貞徳の《和句解》(1662∥寛文2),貝原益軒の《日本釈名》(1700∥元禄13),新井白石の《東雅》(1717(享保2)成立),契沖の提唱した歴史的仮名遣いを整理増補した楫取魚彦(かとりなひこ)の《古言梯》(1764(明和1)成立),方言辞書で越谷吾山《物類称呼》5巻(1775∥安永4),類書として寺島良安の《和漢三才図会(ずえ)》105巻(1712(正徳2)成立),山岡浚明の《類聚名物考》(1903‐05)などがある。
[明治時代以後]
ヨーロッパの辞書の影響を受けて,その体裁にならった辞書が生じた。…
※「楫取魚彦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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