ネムノキや路傍のカタバミの葉は昼間開いているが,夜には閉じて“眠る”。小鳥は朝からさえずり,ネズミは夜になると活発に動き回る。このような生物の日周リズムが,外界の光や温度の直接作用の結果ではなく,生物に内在する内因性リズムに基づくことを初めて(1729)実験的に示したのはフランスの天文学者ド・メランde Mairanである。彼は植物の葉の運動が暗黒下でも持続することを発見した。その後多くの動植物で同様の現象が見つけられたが,それが生物自身のリズムに起因することに懐疑的な学者もいた。アメリカのブラウンF.Brownは,暗室実験では重力や地磁気といった微妙な外的要因の日周変化は除外できないので,こうした要因が生物に作用している可能性があると主張した。しかし,暗室や洞穴のような恒常条件下で生物の周期を正確に測ると,ちょうど24時間にならず,地球の自転周期よりややずれることや,その周期に個体差があることなどから,ブラウンの主張は現在ではあまり認められていない。恒常条件下で見られるリズムの周期が,正確に24時間でなくわずかにずれることから,ハルバーグ,F.Halbergはこのリズムをcircadian rhythm(ラテン語でcircaは〈おおむね〉,diesは〈1日〉の意)と呼ぶことを提唱し(1959),日本ではこれを訳して概日リズムといっている。自然光下で見られる24時間周期の日周リズムは多くの場合,生物の内的な概日リズムが外界の光や,温度周期と同調したものである。概日リズムは単細胞生物以上の動植物に広く見られ,その現れる現象も前記以外に単細胞生物の発光,走光性,細胞分裂,昆虫の羽化,脊椎動物の体内のホルモン分泌など種々の機能に見つかっている。このように概日リズムは生物一般に広く見つかっていて,いくつかの共通性がある。概日リズムは外界の光周期に最もよく同調するが,その光周期がたとえば12時間とか36時間というように,24時間から極端にそれると同調できないこと,恒常条件下で見られる周期はある温度範囲内では高温でも低温でもあまり変わらないこと,また代謝阻害剤などの化学物質に対して比較的安定なことなどがあげられる。以上のことから,種々の生物に見られる概日リズムには共通のメカニズムがあり,それが生物時計に基づくものであると仮定されている。生物が概日リズムをもつことは,たとえば洞穴内のコウモリが洞穴内にいて日没時を予測したり,ショウジョウバエが朝の高温時に羽化するのを保証したりするというように,適応的意味の明確な場合も多いが,先に述べた植物の葉の運動のようにその意味の不明りょうな場合もある。ヒトにおける概日リズムは医学的に重要で,ジェット旅行による時差ぼけや夜勤の問題などにはこれがかかわっている。さらにネズミの上皮細胞の分裂は明りょうな日周リズムを示すが,その癌細胞の分裂は無周期であることや,薬剤に対する感受性に日周リズムがあることがわかっているので,制癌剤をどのような時刻にどの程度投与するのが最も有効かといった研究も近年注目されつつある。
→生物時計
執筆者:今福 道夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物が示す諸現象のなかにみられる、おおよそ24時間周期で繰り返される変化をいい、サーカディアンリズムcircadian rhythm(circaはおおよそ、diesは日の意味)ともいう。このリズムは外界の日周性リズムとは異なり、生得的、内的な体内時計のようなもので、細胞の代謝のリズムに基づくものと考えられる。このリズムは一つの種または個体に特有であり、生物が外界の周期的変化に適応して生じたものであろう。植物ではベニバナインゲンの葉の上下運動がよく知られている。
[勝見允行]
…広義には生体が示すすべてのリズム(周期的変動)を指すが,狭義には,睡眠―覚醒,体温,尿量,代謝,ホルモン分泌,月経など,生体に備わったとくに自律性をもつ内因性のリズムをいう。約24時間の概日リズムcircadian rhythmをはじめとして,表のようなリズムがある。生体にはこれらのリズムをつかさどる生物時計があって,環境から刺激を受けて徐々にリズムを調整するが,一方,固有のリズムがあまり乱されないように自律的にも働く。…
…ホルモン
[体と日周リズム]
体の多くの活動は体に内蔵されている生物時計の支配下におかれ,25時間に近い周期をもっている。この周期は概日リズム,または日周リズムと呼ばれる。そのリズムは生後8週に完成する。…
…生物の活動は1日を通じさまざまな変動を示す。動物では昼行性あるいは夜行性といわれるような明りょうな日周性が広く知られている(約24時間の周期性をもつので概日リズムと呼ばれる)。植物では葉の昼夜運動がもっとも古くから知られているが,サヤミドロの遊走子放散,ベニインゲンの花弁の開閉運動,ニセウズオビモの発光なども日周性を示す。…
…広義には生体が示すすべてのリズム(周期的変動)を指すが,狭義には,睡眠―覚醒,体温,尿量,代謝,ホルモン分泌,月経など,生体に備わったとくに自律性をもつ内因性のリズムをいう。約24時間の概日リズムcircadian rhythmをはじめとして,表のようなリズムがある。生体にはこれらのリズムをつかさどる生物時計があって,環境から刺激を受けて徐々にリズムを調整するが,一方,固有のリズムがあまり乱されないように自律的にも働く。…
※「概日リズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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