資本主義が独占段階に進んだ20世紀に入ってからの失業の形態をいい、失業の大量化、慢性化を特徴とする。景気変動による失業(景気的失業)の場合は好況期には失業は減少するが、構造的失業の場合には好・不況にかかわらず存在する。第二次世界大戦後の高度成長期には、国家が経済過程に全面的に介入することによって資本の高蓄積が持続化し停滞傾向をしのいだ結果、資本と労働力の慢性的過剰は顕在化せず、逆に「労働力不足」「完全雇用」現象すらみられた。しかし1970年代に高度成長が破綻(はたん)して以降、先進諸国はふたたび構造的失業に直面し、21世紀に入っても高失業状態から脱することができないでいる。
今日の構造的失業の背景には次のような要因が存在している。これらの要因は相互にからみあいながら失業の大量化、慢性化を生み出している。
(1)産業ロボット、OA機器や情報ネットワークに象徴される高度に発達した現代の生産技術・情報化技術は、それ自体としては労働者の負担を軽減し、労働時間の短縮を可能にする基盤を提供するが、これらが資本主義の経済システムの下で充用されている結果、労働者数を減らし、労働密度を高める技術的基礎ともなっている。このことによって職を失った労働者は、生産の新たな拡大や新規産業が創出されることによって吸引されるならば失業者として顕在化しないが、たえずこのような条件が用意される保証はない。
(2)前述の発達した生産技術・情報化技術を基礎とする生産力の飛躍的拡大は、限られた消費との矛盾を深め、恐慌となって顕在化する可能性を絶えずはらんでいる。国家は財政・金融政策を駆使して恐慌の回避に努めるが、根本的にこの矛盾を除去することは不可能である。資本の過剰蓄積の整理は容易でないため、不況局面からの回復はしばしば長引き、失業者の増加は慢性化する。
さらに、不況が長期化する下で、資本は労働コストの削減を目ざして人員削減を強めており(リストラ)、このことがさらに失業者増加に拍車をかけている。
(3)現代の国家財政に対する資本の依存と社会保障費用の膨張は、財政危機を引き起こしている。このため国家は失業者の生活保障に伴う財政負担を極力避けるために、失業者を短時間就労者や不規則・不安定な非正規雇用に転換する方策をとっている。その多くは部分的に就労している半失業(部分就労)状態にあるが、働いている限りは失業保障の対象から除外することができる。これらの半失業、部分就労者の拡大は、表面的には顕在的失業者の減少となるが、失業問題の解決を意味していない。
(4)現代資本主義のグローバリゼーション(世界一体化)の下で資本は自由に国境を越えるようになった。「最適地主義」に基づく多国籍企業の経営戦略の結果、国内雇用の縮小、産業の空洞化を引き起こし失業増加に拍車をかけている。さらに1990年代以降は、多国籍企業が情報通信網を利用することによって、開発途上国の現地技術者をいながらにして動員する体制を構築するに至っている。
(5)多国籍企業の海外展開は進出先の開発途上国に過剰人口(失業者)の蓄積をつくりだし、外国人労働者として先進国に流入する一因を形成している。合法または非合法のルートを通して先進国にやってくる外国人労働者は、労働市場の最底辺に編入されるか、あるいは顕在的失業者として滞留し、先進国の失業問題を複雑化している。
なお、近代経済学に基づく労働経済学では、年齢・性・職種・技能・地域などに関して企業が求める人材と、職を求めている労働者のタイプが異なること(ミスマッチ)によって生ずる失業を構造的失業と定義している。
[伍賀一道]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…つまり総需要増加政策による失業率の低下には限界があるということである。
[構造的失業とそれに対する政策]
ところで,この水準での失業者の中身をみると,産業構造上,技術上の変化が起きたために旧来の熟練が役立たなくなったために生じた技術的失業者,高齢になって体力が減退し持病があるために適職を見いだしにくい失業者,身体上の障害など労働市場でハンディキャップをもっているため就職困難な失業者,産業立地上の変化が起きたことが原因で不況地域となり失業が発生したが地域移動が困難なため停滞している失業者などである。これらは,産業上,職業上,産業立地上の変化の結果,労働需要の構造的変化が起きたにもかかわらず,失業者の年齢,性,資格要件など,労働供給の質的構造がこれに適合しないために生じた失業で,前述した有効需要増加政策によって吸収される需要不足失業と区別して構造的失業と呼ばれる。…
…これはケインズのいう〈非自発的失業〉とほぼ一致するもので,景気の下降局面において,総需要,すなわち個人消費,投資需要,輸出などが減退するために生産が下落し,労働の超過供給(失業)が発生するのである。 もう一つは,摩擦的失業,構造的失業と呼ばれるタイプである。これは総需要の不足によって起こるのではなく,〈労働市場の不完全性〉が主たる原因となって起こる失業である。…
※「構造的失業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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