日本大百科全書(ニッポニカ) 「標準労働日」の意味・わかりやすい解説
標準労働日
ひょうじゅんろうどうび
Normalarbeitstag ドイツ語
国家の法律か、一般的拘束力をもつ労働協約によって規制された1日の労働時間のことをいう。産業革命以前の社会においては、慣習的な労働時間の長さは日の出から日没までの時間であり、1日の労働時間は労働する昼間(日)という意味から労働日とよばれていた。したがって、この場合はほぼ12時間が慣習的な労働日であった。
産業革命の進行はこのような慣習的な労働日の限界を取り除き、工場で働く労働者を昼夜の区別なく長時間働かせるようになった。労働者の肉体的・精神的限界を超えた労働日の延長は、その肉体的・精神的荒廃を進めざるをえない。とくに、大量の児童や婦人が工場に雇用されたため、その弊害はいっそう甚だしくなった。このため、1日の労働時間を法律によって規制し、標準労働日を確立しようとする運動が、労働組合をはじめさまざまな社会階層によって活発に展開されるようになった。このような運動の結果成立したのが工場法である。
世界各国の労働運動は、このような標準労働日の確立と労働時間の短縮を、労働者の健康を守り、また知的な発達や文化的生活を保障し、社会的・政治的活動に従事するために必要であり、また、それなしには、いっそう進んだ改善や解放の試みがすべて失敗に終わらざるをえない先行条件をなすものと位置づけ、非常に重要視して運動を行ってきた。
歴史的には、まず10時間労働日が確立し、ついで9時間労働日へと進み、第一次世界大戦後には8時間労働日が、さらに第二次大戦後になると週休2日制と結合した週40時間制がほとんどの先進国で確立し、現在では週38~35時間制が要求されている。1947年(昭和22)に成立したわが国の労働基準法は、1日8時間、週48時間を標準労働日として定めたもので、国際的にみて非常に低い水準にある。このため労働基準法の改正が重要な国民的課題となっている。
[湯浅良雄]
『藤本武著『労働時間』(岩波新書)』▽『K・マルクス著『資本論』(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』