音楽において音の絶対音高を規定する際に基準となる音。音名とその周波数(振動数ヘルツHertz(Hz))で示す。どの音を標準音とするかは民族や時代によりさまざまで,ジャンルによって異なる場合もあった。ヨーロッパ音楽では伝統的にイ音が標準とされ,1939年のロンドン国際会議以後はイ=440Hz(室温20℃のとき)が国際標準音international pitchとして認められている。日本では1948年に文部省が440Hzを採用し今日にいたっている。しかし,実際の演奏においては必ずしも440Hzとは限らず,むしろこれより高めの音に合わせることが多い。また演奏中に楽器の温度変化により全体の音高も変わっていくのが普通である。
標準音高は歴史的にかなり複雑な経緯をたどってきている。ヨーロッパ音楽の場合,ある音を特定の絶対音高に結びつける考え方が本格的になったのは19世紀以後で,それまでは標準音高そのものも相対的に把握されていた。古い時代の標準音高は,現存する古楽器(とくに音高が容易には変えられないオルガン)や各地に残された音叉(1711発明)などからかなり正確に把握できるほか,16世紀以後盛んになった音律論関係の理論書からも推定することができる。16世紀以後今日まで,同じイ音でも440Hzを中心に上下におよそ短3度ずつの変動の幅があったことが判明している。古い時代ほど音高が低いとは決していえないが,19世紀以後はしだいに高くなる傾向があったことも事実である。それは一つにはより輝かしい音色とより浸透力のある音質を求めた結果であり,またそのために楽器の改良や近代化が行われたからでもある。今日では,使用楽器や演奏様式,音高などに関して,それぞれの時代に忠実な再現を試みる歴史的演奏が一部で本格的になりつつある。なお,日本の伝統音楽では壱越(いちこつ)を標準音としている。
執筆者:土田 英三郎
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音楽に用いられる音の絶対的な高さ(ピッチ)の標準。ヨーロッパでは古くから「イ」の音が標準音として採用されており、現在は(一点イ)が440ヘルツと定められている。これは、1939年のロンドン国際会議以来、世界的に用いられているものだが、日本では1948年(昭和23)に文部省(現文部科学省)が規定するまでは、=435ヘルツの古い標準音を用いていた。標準音が振動数によってはっきりと示されるようになるのは、19世紀以後のことである。
18世紀以前には国際的な標準音の規定がなく、時代や地域、また音楽の種類や演奏の場によって、まったく別のピッチが用いられていた。19世紀に入ってからは、イギリスやドイツなどで標準音の規定が試みられ、1859年にフランスが定めた=435ヘルツは、国際標準音としてヨーロッパでは比較的普及した。しかし、アメリカでは440ヘルツのほうが一般的であり、またイギリスでは19世紀後半には439ヘルツが標準音としてもっとも普及していた。国によっては450ヘルツ以上の高いピッチが用いられたこともある。現在では=440ヘルツが国際標準音として世界的に用いられているが、実際の演奏にあたってはこれより高めに調律されることが多く、また古い音楽の演奏の場合には、その時代の楽器(複製されたものも含む)を用いて、歴史的なピッチを再現することも多い。
[千葉潤之介]
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