中国,朝鮮,日本の音楽理論用語。互いに半音の音程をもってオクターブ内に収められた12個の音律をいう。中国では古く周代から行われ,漢代以後その算定法が確立した。基準音の黄鐘(こうしよう)から三分損益法によって順に林鐘(りんしよう),太簇(たいそう)/(たいそく),南呂(なんりよ),姑洗(こせん),応鐘(おうしよう),蕤賓(すいひん),大呂(たいりよ),夷則(いそく),夾鐘(きようしよう),無射(むしや)/(ぶえき),仲呂(ちゆうりよ)の11音を求め,これを音高順に並べて,黄鐘,大呂,太簇,夾鐘,姑洗,仲呂,蕤賓,林鐘,夷則,南呂,無射,応鐘の12律とする。このうち奇数律の黄鐘,太簇,姑洗,蕤賓,夷則,無射の6律を陽としてこれを律と呼び,偶数律の大呂,夾鐘,仲呂,林鐘,南呂,応鐘の6律を陰として呂(りよ)と称する(六律六呂)。これにより一般に音律を律呂(りつりよ)と呼ぶ。十二律名の語源は,《国語》(春秋時代)や《漢書》律暦志等に説かれているが,周時代には夾鐘を圜鐘(えんしよう),林鐘を函鐘と呼び,春秋戦国時代には,国により異なる律名を用いたらしい。
基準音である黄鐘の高さは律管の長さで規定する。漢代以後律管の長さを9寸に定め,三分損益法で各律の管長を算定したが,漢の京房(きようぼう)はこれを推進して60律を作り,南北朝の宋の銭楽之はさらに360律を作った。のちに宋の蔡元定(1135-98)は十二律に変律6を加えて18律を算定し,明の朱載堉(しゆさいいく)は三分損益法によらず連比例の算法でオクターブを12等分し,これを〈連比例十三律〉と称した。これらの算法では律管の音響学的性質から音律に多少の誤差が生ずる。そこで田辺尚雄は音響学理論に基づく管口補正を行ったうえで十二律の管長を算出し,中村清二は同じく朱載堉の12等分平均律の管長を算出した。しかし中国では歴代尺度の制が異なるので,十二律の絶対音高は時代によって相違する。十二律はしばしば十二支,十二月,二十八宿,陰陽五行説などの宇宙説と結び付けられるが,京房の〈候気の法〉はその代表的なものである。それにより十二支,十二月との関係を表すと表のようになる。
日本には奈良朝のころ伝来し,雅楽寮で唐の制度により律名も中国名を用いていたが,その後絶対音高を古律より2律高い宴饗楽律に従い黄鐘の音を洋楽のニ音に近い高さに置いて現在にいたっている。しかし平安朝以後,律名は日本独自の名称を用いるようになった。これを中国律名と対照させると表のようになる。
日本律名の語源と変更の理由は明らかではないが,壱越,平調,双調,黄鐘,盤渉,神仙(仙呂調)等の名称は唐の俗楽二十八調名の中にある。現在宮内庁楽部で用いている十二律の絶対音高は,ほぼ洋楽のニ音を壱越としてそれぞれ半音ずつ高くなる。箏,三味線,篠笛などは十二律管の順位によって音高を一本,二本……と称する。ただし義太夫節は壱越を一本として順次二本,三本と称するが,その他の箏,三味線音楽では黄鐘を一本として起算するために壱越は六本と呼ばれている。
執筆者:三谷 陽子
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中国、日本の伝統音楽で用いられる音名。『前漢志』や『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』には、4000年前黄帝の代に、伶倫(れいりん)が命を受け昆崙山(こんろんざん)の竹でつくったという。中国では黄鐘(こうしょう)を基音として大呂(たいりょ)、太簇(たいそく)、夾鐘(きょうしょう)、姑洗(こせん)、仲呂(ちゅうりょ)、蕤賓(すいひん)、林鐘(りんしょう)、夷則(いそく)、南呂(なんりょ)、無射(ぶえき)、応鐘(おうしょう)である。日本では735年(天平7)吉備真備(きびのまきび)がこれを『楽書要録』で伝えたのち、平安時代後期より雅楽調名に基づいて、壱越(いちこつ)、断金(たんぎん)、平調(ひょうじょう)、勝絶(しょうせつ)、下無(しもむ)、双調(そうじょう)、鳧鐘(ふしょう)、黄鐘(おうしき)、鸞鏡(らんけい)、盤渉(ばんしき)、神仙(しんせん)、上無(かみむ)の名称が決められた。基音の音高は現在D音で統一されるが、鎌倉時代には黄鐘(おうしき)=黄鐘(こうしょう)説と、壱越=黄鐘(こうしょう)説もあり、各時代に異同がある。その求め方は三分(さんぶん)損益法と称し、基音から交互に5度上の音と4度下の音を定めるもので、ピタゴラス音律と同一の原理である。元来中国では、音律の基準だけでなく、黄鐘の律管の長さ、容積、入りうるキビの重さをもって律度量衡(りつどりょうこう)の基準ともされ、また太簇を正月として各月の名称にも使われた。
[橋本曜子]
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