機械翻訳(読み)きかいほんやく(英語表記)machine translation

日本大百科全書(ニッポニカ)「機械翻訳」の解説

機械翻訳
きかいほんやく
machine translation

コンピュータを用いて、日本語や英語などの自然言語を他の自然言語に自動的に翻訳すること。自動翻訳automatic translationともいう。コンピュータを翻訳に利用しようという発想はごく自然なものであり、その試みはコンピュータの出現とほぼ同じ時期に始められている。

 自然言語の翻訳は、単に単語を外国語に置き換えるだけでは役にたたないため、文のもつ意味を文脈から理解し、その国語独特の言い回しに変換しなくては意味の通じる文章に翻訳することはできない。逐次的な処理に基づいたコンピュータにとって、自然言語の翻訳は、画像の認識や音声の認識と並んで、もっとも困難な仕事の一つとされてきた。

[小野勝章]

翻訳の手順

機械翻訳の技法は、多くの人がいろいろな方法を試みているが、主流とされている手法について概要の説明を行う。ここで、翻訳される国語の文章を入力言語source languageとよび、翻訳すべき相手国語の文章を目標言語target languageとよぶことにする。

 機械翻訳の手順は次の3段階に分けられる。

〔1〕アナリシス 入力言語の構造を分析して、中間的な構文表現をつくりだす。

〔2〕変換 中間表現に翻訳を割り当てたり、意味論から抽出された表現を目標言語の該当する言い回しに置き換えたりする。

〔3〕合成 変換された中間表現を目標言語の構文に即して整列させたり、必要な語尾変化を与えたりする。

 アナリシスは、翻訳しようとする文の内容をコンピュータによって理解させようとする部分で、機械翻訳では非常に大きな役割をもつが、これは大略次の手順によって進められる。

(a)形態解析morpheme analysis 文章を単語に分解する。これは、欧米語のように単語の間を空白でくぎる言語では大きな困難はないが、日本語のような膠着(こうちゃく)語の場合は、単語の認定はかなり困難な問題を含んでいる。

(b)構文解析syntactic analysis 前段で分解された単語の品詞を決定し、動詞句、詞句の構造を判定して主述関係を抽出する。与えられた文を、文法の規則に照らして構造を決める作業である。

(c)意味解析semantic analysis 文のもつ意味をコンピュータでいかに表現するかは、むしろこれからの課題であるといえる。構文解析で分析された文の構造をチェックして、意味が妥当であるか否かをここで判断する。このために「格」の特性を辞書項目に与え、これらを構文に照らして意味を分析する方法とか、論理代数を応用して文の記述を論理式に置き換え、意味の分析を行う方法などが試みられている。

(d)文脈解析context analysis(または語用論解析pragmatic analysis) 与えられた文の文脈から、文意に即した多義語の解釈、省略語の補足、代名詞が何をさすかということや、文の主題や意図の推定などが行われる。

[小野勝章]

問題点

以上の分析は順を追って機械的に行われるものではなく、互いに関連しあっているので、構文の決定は意味論や文脈解析に照らして行わなくてはならない場面がしばしばおこる。また、これらの手順を機械的にかたづけてしまったのでは、意味のとれない訳文ができあがる結果となる。

 構文解析の困難な例として、“Time flies like an arrow.”(光陰矢のごとし)という英文は「時間は矢のように飛ぶ」と分析してもよいし、「タイムという種類のハエは矢を好む」と分析することもできる。自然言語を自動的に、しかも完璧(かんぺき)に他国語に翻訳するという仕事は、コンピュータに文の意味を完全に理解させることが不可能である限り、不可能に近いということができる。1965年にアメリカで発表された機械翻訳の研究に関する「ALPAC(アルパック)レポート」とよばれる勧告書は、この点について指摘している。

 しかし、特定の分野とか、特定の応用目的のように、範囲を限定すれば、かなりの質の訳文をつくりだすことは可能であり、最終的な仕上げを人間が行うことによって、定常的かつ大量の翻訳を処理するのに役だたせることができる。また、機械翻訳の技術に関連して研究されたいろいろの技法、とくに意味分析の手法は、言語翻訳以外の人工知能の研究に大いに役だっている。

[小野勝章]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「機械翻訳」の解説

機械翻訳
きかいほんやく
machine translation

コンピュータを用いて,日本語や英語などの自然言語の表現を別の自然言語の表現に自動的に翻訳する処理。1950年代から研究開発が始まった。当初は,手づくりの辞書,文法,翻訳ルールを用いた方式であったため,十分な品質が得られず,広く実用化するにはいたらなかった。1980年代に入り統計的手法が導入され,ウェブサービス(→ワールド・ワイド・ウェブ)として提供されるようになると大いに広がった。統計的機械翻訳では,対象となる二つの自然言語において同義になる対訳文を大量に集めた対訳コーパスを利用する。機械学習の手法を用いて,言語表現(単語や句)の対応づけの法則を推定することで,誤訳を最小限にする。2016年にエンコーダ・デコーダモデルと呼ばれる,言語と言語の系列の対応づけを学習するニューラルネットワークを用いた翻訳サービスニューラル機械翻訳)が導入されて,精度が一挙に高まった。また文字データから文字データだけではなく,音声認識と音声合成を用いた音声から音声への翻訳や,画像中に含まれる文字を見つけて翻訳するサービスも提供されるようになった。機械翻訳の品質評価には IBMが開発した BLEUと呼ばれる自動評価手法が用いられる。BLEUでは,機械翻訳の結果と人間が翻訳した参照訳(正解)との類似度を計算することで,定量的な翻訳品質を算出する。(→自然言語処理

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百科事典マイペディア「機械翻訳」の解説

機械翻訳【きかいほんやく】

コンピューターを使った翻訳のこと。1950年代から研究がさかんとなったが,自然言語処理の技術的な壁に阻まれ,その進展は芳しくない。インターネットの普及に伴って安価な英日簡易翻訳ソフトウェアが数多く登場しており,ウェブブラウザと組み合わせることにより英語の画面に日本語訳が表示できるが,現状の機械翻訳の性能はせいぜい直訳レベルであり,翻訳ミスを含んだぎこちない訳文になる。これは翻訳が文単位でしか処理できず,文脈やニュアンスを考慮できないためで,ソフトウェアによっては分野別の用語辞書を用意するなどして改善を図っている。
→関連項目コンピューター人工知能

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ASCII.jpデジタル用語辞典「機械翻訳」の解説

機械翻訳

コンピューターを利用して他言語に翻訳すること。自然言語の翻訳は言葉の省略や言い回しなどで誤訳も多いため、マニュアルなどの技術文書の翻訳に多く利用されている。現在は、AI(人工知能)を応用した技術により、アプリケーションとして販売されたり、Webページでサービスが提供されたりしている。

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IT用語がわかる辞典「機械翻訳」の解説

きかいほんやく【機械翻訳】

コンピューターを利用して、ある言語を異なる言語に自動的に翻訳すること。この作業を専門的に行う翻訳ソフトや、翻訳サービスを提供するウェブサイトがある。◇「自動翻訳」ともいう。

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精選版 日本国語大辞典「機械翻訳」の解説

きかい‐ほんやく【機械翻訳】

〘名〙 コンピュータを利用して、ある言語を別の言語に自動的に翻訳すること。自動翻訳。

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デジタル大辞泉「機械翻訳」の解説

きかい‐ほんやく【機械翻訳】

コンピューターを利用して、ある言語を他の言語に自動的に翻訳すること。自動翻訳。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典内の機械翻訳の言及

【翻訳機械】より

…人間が普通に使用する言語(コンピューター用のプログラム言語など人工言語との対比で自然言語という)を別の自然言語に翻訳する機械をいい,このような機械による翻訳のことを機械翻訳machine translation,自動翻訳と呼んでいる。
[研究の歴史]
 翻訳がコンピューターでできる可能性があると初めて指摘したのはアメリカのウィーバーWarren Weaverであった(1946)。…

※「機械翻訳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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