歌舞伎者(読み)カブキモノ

デジタル大辞泉 「歌舞伎者」の意味・読み・例文・類語

かぶき‐もの【歌舞伎者】

並外れて華美な風体をしたり、異様な言動をしたりする者。だて者。
近年は人の嫁子もおとなしからずして、遊女、―のなりさまを移し」〈浮・一代女・三〉
歌舞を演じるもの。踊り子
「女の―を揃へて踊らせける」〈浮・置土産・四〉
歌舞伎役者。または歌舞伎社会の者。芝居者

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精選版 日本国語大辞典 「歌舞伎者」の意味・読み・例文・類語

かぶき‐もの【歌舞伎者】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 並はずれて華美な風態をしたり、異様な言動をする者。特に、江戸時代初期にあらわれた反体制的志向を持つ遊侠(ゆうきょう)の徒や伊達者。
    1. [初出の実例]「大鳥井逸兵衛と申かふき者ありてめしとらるる」(出典:慶長年録(17C初)一七年)
  3. 一般に、のような気風態度を持っている者。
    1. [初出の実例]「其の女の父母、けんどん邪心の胴慾人か、又はかぶき者(モノ)にていんよくにふける人か」(出典:仮名草子・可笑記(1642)三)
  4. 歌舞を演ずるもの。踊り子。
    1. [初出の実例]「大晦日(おほつごもり)に女のかぶきものを揃へて踊らせける」(出典:浮世草子西鶴置土産(1693)四)
  5. 歌舞伎役者。また、歌舞伎社会の者。芝居者。
    1. [初出の実例]「近年は人の嫁子もおとなしからずして、遊女かぶき者のなりさまを移し」(出典:浮世草子・好色一代女(1686)三)

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改訂新版 世界大百科事典 「歌舞伎者」の意味・わかりやすい解説

かぶき者 (かぶきもの)

江戸時代前期,江戸その他の都市を舞台に反体制的行動を展開した武士,奉公人などを指す。〈かぶき(傾き)〉という言葉はかたよった異様な風俗や行動をいう。歌舞伎の源流である〈かぶき踊〉と同じ時代相を背景として発生し,ともに異端的なものとして受け取られていた。初期のかぶき者には,没落した在地小領主や,名主(みようしゆ)の家父長制的経営から解放された小農民を主体とする中間ちゆうげん),小者(こもの)などの武家奉公人が多かった。かぶき者の首領たちは大鳥居逸兵衛,大風嵐之介などの異名をもち,若者を集めて血判の起請文(きしようもん)をとり,もし仲間に災難が起きた時は身命を捨て,たとえ相手が君父であっても〈道理〉に反した場合は容赦せず復讐することを誓っていたというから,かぶき者の行動原理は戦国以来の反権力思想たる下剋上思想にほかならない。しかし幕藩制身分秩序が確立するにつれ,旗本奴(やつこ)と町奴との対立にみられるように,かぶき者の行動や行動原理もしだいに矮小化し風俗化していった。それは幕藩権力による弾圧強化が直接の理由だが,かぶき者が市井から姿を消したのは,5代将軍綱吉のころである。
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旺文社日本史事典 三訂版 「歌舞伎者」の解説

かぶき者
かぶきもの

江戸初期の旗本奴・町奴
異様な風体をして歩き「かぶく」(傾く)といわれたのでこの名がある。幕府の封建的風俗統制への挑戦・反発であるとも考えられる。

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世界大百科事典(旧版)内の歌舞伎者の言及

【出雲のお国】より

…この後お国は歌舞伎踊の一座を率いて,北野社頭や四条河原で勧進興行を行い,女院の御所や公家の邸にもしばしば招かれている。 また,歌舞伎成立当時の舞台の様子を伝えるといわれる《かぶきのさうし》(《歌舞伎草子》)では,当代のかぶき者(伊達男)名古屋山三郎が生前お国の歌舞伎踊を好んでいたが,お国を慕って亡霊となってあらわれ,お国とともに歌舞伎踊を踊るという話が作られている。03年に若くして刃傷沙汰のために非業の死を遂げた名古屋山三郎は,史実としてお国とはまったく関係のない人物であったが,異風な男装で歌舞伎踊をしたお国と密着することになり,さまざまに潤色され,多くのお国山三説話を生むことになった。…

【お国歌舞伎】より

出雲のお国の創始した芸能。1603年(慶長8),京都において出雲のお国と称する女性芸能者が,当時横行していたかぶき者と呼ばれる意気がった若者たちの,茶屋女に通う姿に男装して扮し,流行歌や踊をまじえて演じ,歌舞伎踊として人気を博した。これが歌舞伎という芸能の始まりとなる。…

【かぶき】より

…正統的で,端正で,ほんらいあるべき姿とみられたものを根本から否定し,伝統的な美意識の枠組みや物事の価値基準を大きく転換させる発想が人々に愛好されたのであり,そういう心情が〈かぶく〉〈かぶき〉という語に凝縮されたのであった。いわゆる歌舞伎(かぶき)は,この心情の舞台芸術における表現として生まれたものだし,また,いわゆるかぶき者は,歌舞音曲のにない手たちをさすとともに,無頼・放逸・遊俠・伊達(だて)の気風を一身にたたえた異風の男どもをさす語として流布していた。 演劇としての歌舞伎の創始者といわれる出雲のお国の芸が〈かぶき〉といわれるようになったのは,その得意とした念仏踊が〈いざやかぶかん,いざやかぶかん〉とはやすものであったからだとする一説もあるが,さらにいえば,女役者が僧体か俗体かのいかんをとわず男の装束を着け,刀・脇指(わきざし)を帯びて演ずる異風,異相なさまが一大特徴をなしていたことによる。…

【歌舞伎】より

…〈念仏踊〉〈小原木踊〉〈飛驒(ひんだ)踊〉などの単純な小歌踊を美しく歌い踊った芸能であった。やがて,北野神社の境内で小屋がけしたお国の一座は,当時ちまたを横行していたかぶき者の風俗を舞台に採り上げた〈歌舞伎踊〉を踊って,当時の貴賤大衆から熱狂的な支持を受けた。お国は男装して伊達なかぶき者に扮し,猿若と呼ぶ道化役を供に連れ,女装の狂言師が扮する茶屋女のもとへ通っていく〈茶屋遊び〉の様子を官能的な踊りで演じてみせた。…

【俠客】より

…【川勝 義雄】
[日本]
 日本語の俠客は,俠気のある人,おとこ気のある人を意味する。近世に京都,大坂,ついで江戸など都市が繁栄すると,そこに〈かぶき者〉や奴(やつこ)(旗本奴町奴)などといわれる無頼の徒が横行した。彼らは盟約を作り組を作って,その力を誇示した。…

【博徒】より


[都市博徒]
 江戸時代の初期に賭博常習者として知られているものは旗本,御家人,浪人からなる旗本奴(はたもとやつこ)の一団である。彼らは〈かぶき者〉と呼ばれたように異様な風体で,庶民には迷惑な存在だった。旗本奴に対抗し町奴(まちやつこ)も賭博を日常とした者が多かった。…

【旗本奴】より

…江戸前期,旗本・御家人あるいはその奉公人で,異装をし仲間で盟約を交わして徒党を組み,無頼の生活を送った者をいう。旗本奴に対抗したという町奴を含めて〈かぶき者〉などといわれた。戦国の遺風によるとか,勲功に比して小禄に甘んじなければならなかった直参譜代の者の不満のはけ口であったなどといわれるが,その多くは旗本に奉公する中小性・若党など身分の低い者であった。…

【町奴】より

…江戸前期,都市住民で異装をし盟約を結んで徒党を組み,無頼の生活を送った者をいう。旗本奴と合わせて〈かぶき者〉などといわれた。近世に入り京都,大坂,ついで江戸など都市が繁栄すると,そこにかぶき者が横行し,彼らは社会の秩序を乱す者として取締りの対象となった。…

※「歌舞伎者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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