浮世草子。井原西鶴作。5巻15章。1693年(元禄6)8月に西鶴が52歳で没したあと,同年の冬に北条団水の編集により遺稿集として刊行された。序に,〈世界の偽(うそ)かたまってひとつの美遊(びゆ)となれり〉とある。遊女買いにとことん身を投げ出したその道の男たちの行末を書いており,〈好色物〉〈町人物〉を書いてきた西鶴が晩年にたどりついた境地の一端をそこにうかがうこともできる。何もかも底をついてしまった身でありながら遊び仲間に見栄を張り続け,ついに一座の中で見あらわされ色道を思い切る男の話(〈大釜のぬき残し〉),かつては月夜の利左衛門といわれた大尽で今は零落し女郎を妻にして親子3人が金魚の餌のぼうふり虫を売った日銭で暮らす身の上だが,昔の遊び仲間に出会っても,女郎買いの当然のなりゆきで恥ずかしいことでもないと,彼らの援助を振り捨てて生きる話(〈人には棒振むし同前におもはれ〉),さかさまに息子から勘当されてもなお悪所狂いはやめられず,遺産目当てに息子の死ぬを待つ親仁の話(〈子が親の勘当逆川(さかさまがわ)をおよぐ〉)など,世間並みの暮しの外を生きていく姿をさまざまの視点からあわれにもおかしく描いていく。はでに廓で遊ぶのもよし,無一物になった後の〈つみもなく銀(かね)もなく世の人におそれもな〉いかろき暮しはそれでまたよい。生きる甲斐もないありさまだが,その身になっては死なれぬものらしく,主人公たちは感傷をよそにとりどりに生きぬいていく。序の前に,西鶴の肖像,辞世句,追善発句を掲げる。
執筆者:日暮 聖
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井原西鶴の浮世草子。1693年(元禄6)冬、西鶴の第一遺稿集として門人北条団水(だんすい)が5巻5冊に編集した。初版は大坂・富士屋長兵衛版と推定される。巻頭に西鶴の肖像と辞世の句、如貞(じょてい)、言水(ごんすい)、団水らの追善発句を載せている。西鶴の序文に「凡(およそ)万人のしれる色道のうはもり、なれる行末あつめて此(この)外になし」とあるように、色道に身を持ち崩し、ついに社会の底辺に落ち込んだ人間たちの姿を描いた15話の短編からなる。無残にも零落した大尽(だいじん)の末路を描いているなかで、巻2の「人には棒振虫同前に思はれ」のように、落ちぶれてもなお意地を張り通すせつないまでの心情の美を、しみじみと描いた佳作を含んでいる。西鶴最晩年の諦観(ていかん)にも似た心境から生まれた独自の世界を示す作品として評価できる。
[浅野 晃]
『暉峻康隆他校注・訳『日本古典文学全集40 井原西鶴集 3』(1972・小学館)』▽『麻生磯次・冨士昭雄訳注『対訳西鶴全集15 西鶴置土産』(1977・明治書院)』
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