歎異鈔(読み)たんにしょう

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歎異鈔」の意味・わかりやすい解説

歎異鈔
たんにしょう

鎌倉時代の仏教書。作者は未詳だが,常陸 (茨城県) 河和田の唯円とする説が圧倒的である。1巻,18条。師親鸞没後信者の間に生じた異端を歎き (歎異) ,他力宗旨の乱れることがないように,記憶に残っている師の言葉に基づきながら,その是非について論じたもの。その姿勢は,他人の異端を歎く前に,まず,この自分が師の真実の信心に異なっていないかを確かめる,自分の内なる歎異となっていて,わが歎異鈔,告白の書といえる。異端の基準とされるのは,他力と自然 (じねん) である。第1条はまずその他力の真実信心を明らかにし,本書根源をなしている。すなわち,阿弥陀仏誓願の不思議にお助けをいただいてこそ,清浄真実の世界に生れることができるのである,と信じて,念仏申そうと思い立つ心が起るとき,即時に,その人は,阿弥陀仏の,いかなるものをも救い取って決して捨てたまわぬご利益 (りやく) にあずかっているのである。弥陀の本願には,老人とか若者,善人とか悪人,というように,わけへだてされることがない。ただ信心だけをかなめとする,と知るべきであると説かれる。第3条の「善人なほもて往生をとぐ,いはんや悪人をや」という悪人正機の言葉は有名である。そのほか,第4条の,人間の愛なんて,底の見えるけちなものでしかないとか,第5条の,親鸞は父母のためといって一ぺんも念仏しないとか,第6条の,「親鸞は弟子一人ももたずさふらふ」とか,第8条の,念仏は非行・非善であるとか,第 10条の,自己を義づける (理由づける,評価する,正当化する) ことから自由になるとか,こうした常識をくつがえすような言葉が記されている。これらの言葉は他力から導き出されており,その他力が,いかにすばらしいかが語られている。

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百科事典マイペディア 「歎異鈔」の意味・わかりやすい解説

歎異鈔【たんにしょう】

鎌倉時代の仏書。親鸞(しんらん)の言行録。直弟子唯円(ゆいえん)が親鸞の没後,浄土真宗教義に異を唱える者に対し,師の言葉を示し,異議邪説を批判しようとして撰したとされる。1巻。18条からなる。前後に序を加え,後序の注に後鳥羽院の時,無実の罪に処せられた人びとのことを記す。〈善人なをもて往生をとぐ,いはんや悪人をや〉とする悪人正機(しょうき)説でも知られる。
→関連項目悪人正機説

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「歎異鈔」の解説

歎異鈔
たんにしょう

親鸞の法語と,その教説に反する異義への批判を弟子の唯円(ゆいえん)が編纂したもの。巻頭序・本文18章・末尾の総結からなる。本文前半の10章は親鸞がみずからの信仰体験をのべた法語で,悪人正機説,父母のため念仏せず,弟子1人ももたずなどの著名な言説がみえる。後半の8章は唯円が異義(学解往生・賢善精進・念仏滅罪・即身成仏など)を批判したもの。蓮如がみだりに披見することを禁じたので流布しなかったが,近代には親鸞の代表的著述として注目され,注釈や解説書も多い。蓮如書写本のほか,1701年(元禄14)刊本などがある。「岩波文庫」「日本古典文学大系」所収。

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