仏教の術語。止(シャマータśamatha)と観(ビパシャーナvipaśyana)の合成語で、天台智顗(ちぎ)は全仏教の禅観を止観に統摂し天台観法(かんぼう)とした。止とは精神を集中し心が寂静(じゃくじょう)となった状態をさし、観とは対象や真理をありのままに観察認識することを意味し、原始仏教以来用いられ、止と観とは互いに他を成立させる不離のものである。智顗は円頓(えんどん)、漸次(ぜんじ)、不定(ふじょう)の三種止観を説く。円頓とは最初から最高の境地に取り組む坐禅(ざぜん)と観法の仕方で、漸次とは禅定を修して漸次に深い禅観に及ぶもの、不定は適宜に両者を用いて効果をあげようとするものである。これらの実践法を通して深遠の仏教哲学を論じたものが智顗の『摩訶止観(まかしかん)』10巻である。そこでは、止観は言語や思慮を超越したものであるが、種々の方法によって説かれ、その観法は空観、仮観、中道観の三観を基調とするが、観法の対象を10種に分け、またその心のとらえ方を10種に分類して示し、あらゆる存在や思想を観法の対象とする。入門書に『天台小止観』1巻がある。
[塩入良道]
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…《般若経》などには100種以上もの数多くの種類の三昧が説かれているが,空三昧,無相三昧,無願三昧,あるいは有尋有伺(うじんうし)三昧,無尋唯伺(むじんゆいし)三昧,無尋無伺(むじんむし)三昧の3種の三昧,さらには色界(清浄な物質のみで成り立っている世界)の四静慮(しじようりよ)と無色界(物質を超えた精神的要素のみからなる世界)の四無色定(しむしきじよう)とを合わせた8種の三昧などがその代表である。三昧はまた大きく止と観とに分けられ,われわれは,止観の両方をともに修することによって,こころから汚れを取り除き涅槃に達し無上正覚を得ることができるという。【横山 紘一】。…
…静かな森で座禅する舎利弗(しやりほつ)をしかる維摩や,座禅を好む外道に近づくことを戒める法華の説は,大乗禅のあり方を教えた。法華経によって,大乗の諸教義と実践法を総合する天台智顗(ちぎ)は,禅より止観への深化を主張する。止観とは,空仮中(くうげちゆう)の三諦(さんたい)の理に収約される,仏の悟りに応ずる3種の実践のことである。…
… 隋代,天台智顗(ちぎ)が第2代皇帝煬帝(ようだい)の帰依をうけ浙江省の天台山国清寺と湖北省の荆州玉泉寺をひらき,中国仏教を再編したのに始まる。すでに5世紀の初め,クマーラジーバ(鳩摩羅什)が漢訳した《法華経》に基づき,智顗が著した注釈書の《法華玄義》と《法華文句》および《摩訶止観》の3部を根本聖典とする。9世紀の初めに,伝教大師最澄が入唐し,智顗より7代目の道邃と行満について宗旨をうけ,比叡山に延暦寺を創して日本天台をひらくが,最澄は,天台法華宗のみならず,達麿系の禅,円頓戒,密教という,同時代の中国仏教をあわせて,奈良仏教に対抗する新仏教運動の根拠としたため,日本天台は中国のそれとかなりちがったものとなる。…
…総じて,禅定は修行そのものと言ってもよく,それには常に慧が伴っている。定と慧を合わせて止観(しかん)ということもある。大乗では実践を六波羅蜜(ろくはらみつ)にまとめる。…
…中国,天台宗の祖師智顗(ちぎ)が,南岳恵思より伝えた,止観の思想について講じた著。10巻。…
※「止観」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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