武蔵野台地(読み)むさしのだいち

日本歴史地名大系 「武蔵野台地」の解説

武蔵野台地
むさしのだいち

関東平野を構成する台地のうちの関東西部を占める洪積台地で、東京都と埼玉県にまたがっている。台地表面は関東ローム層で覆われ、その下部に厚い砂礫層と粘土層が堆積し、基盤はおおむね凝灰岩から構成されている。台地の地形発達史を探ると、はじめに関東山地から流れ出た河川は、山麓に広大な扇状地を造り上げ、その後、地盤が隆起し、表面を火山灰(関東ローム層)が五―一〇メートルの厚さで覆ってでき上がっている。表土の下は厚い砂礫層のため、地下水が浸透しやすい。このため地下水面が低く、乏水性台地として長い間水に恵まれず、開発が遅れていた。その間の事情は堀兼井(ほりかねい)伝説にみられ、武蔵野の旅人や住民を苦しめた。青梅おうめ市付近を先端に、高度一九〇メートルから台地辺縁の二〇メートル内外まで、東へ向けて緩やかに傾斜し、形態としては、多摩川の古い扇状地の形をとどめている。古くは武蔵野の名称でよばれ、範囲も漠然と武蔵国の平野という程度に意識されてきた。今日では北の入間川北東荒川、南の多摩川で画された範囲を武蔵野台地とよんでいる。武蔵野台地の末端、東京二三区辺りは山の手台地とよばれ、台地を刻む複雑な小谷には坂道が多く分布する。西部では扇状地的であるが、東に進むにつれて台地先端部から崖を下り、三角洲状の地形に変わる。このことから、武蔵野台地を一名扇状地状の三角洲とよぶこともある。地質構造は下部が東京層とよばれる第三紀層を基盤とし、その上に厚さ三―一〇メートルの武蔵野砂礫層や成田層が載り、さらにその上を関東ローム層が覆う。ナラ、クヌギなど雑木林に覆われた乏水台地の武蔵野も、近世中期以降、玉川上水をはじめとする用水路の開削で、新田開発が行われ、青梅街道・五日市街道なども開かれた。

〔歌に詠まれた武蔵野〕

「万葉集」巻一四に「武蔵野の草は諸向きかもかくも君がまにまに吾は寄りにしを」「わが背子を何どかも言はむ牟射志野のうけらが花の時無きものを」と武蔵野を詠んだ歌が収められる。中世には歌枕として「能因歌枕」「和歌初学抄」などの歌学書にとりあげられ、「古今集」に収める「むらさきのひともとゆゑにむさしのの草はみながらあはれとぞみる」(読人知らず)など、多くの和歌に詠まれた。また、建永二年(一二〇七)の大納言久我通光の和歌に「行すゑのながめははてもなかりけり霞ぞあくるむさしのゝ原」(最勝四天王院障子和歌)とあり、正安三年(一三〇一)成立の「宴曲抄」に「武蔵野はかぎりもしらずはてもなし」と謡われているように、広大な原野として有名であった。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「武蔵野台地」の意味・わかりやすい解説

武蔵野台地
むさしのだいち

関東山地の東麓に広がる洪積台地。北は入間川,東は荒川,西は多摩川,南は東京湾周辺の山手地区までの範囲を占める。東西約 40km,南北約 20kmの長方形で,西部青梅市の標高 190mを頂点に,扇状に東へ低く傾斜している。中部は平均標高 50~60mで,この付近に井の頭池,石神井池,善福寺池などの浸食谷頭の湧き水地帯があり,河川は開析谷をつくって東流する。台地末端は,標高約 20mの崖で沖積地と接する。表面は火山灰の堆積した関東ローム層が平均 5mほどの厚さでおおっている。このため地下水が深く,近世にいたるまで荒野であった。江戸時代に玉川上水が通じてから,畑地や新田開発が行われた。明治期には都心へ野菜を供給する近郊型農業地域となり,第2次世界大戦後は都心への通勤者がふえて住宅地域となった。

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世界大百科事典(旧版)内の武蔵野台地の言及

【洪積台地】より

…洪積台地には河成堆積平野,海岸平野などに属するものが含まれる。たとえば関東平野の武蔵野台地は隆起扇状地,下総台地は海岸平野であるが,いずれも洪積世に形成され,その後浸食谷によって開析された台地地形で,洪積台地といえる。洪積台地は地下水位が低く水を得にくいので,畑作地や平地林が目だつ。…

【扇状地】より

…また,山地から多数の河川が出てくるときには,隣り合う扇状地が相接して連なり,合流扇状地とよばれる一連の扇状地群をつくる。日本では合流扇状地や開析扇状地の例は多く,関東平野の武蔵野台地や東海地方の三方原,磐田原なども古い扇状地が開析されて台地化した開析扇状地である。
[扇状地の性質と利用]
 扇状地は砂礫によって構成されているため,河川水は地下に浸透して伏流水となり,扇状地を流れる河川の多くは水無川となっている。…

【武蔵野】より

…関東平野西部に広がる洪積台地の武蔵野台地をいう。北西を入間(いるま)川,北東を荒川,南を多摩川の沖積低地で限られ,西端の関東山地山麓から東端の山手台地まで東西約50kmに及ぶ広大な台地で,数段の段丘面からなり,標高20~190m。…

※「武蔵野台地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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