1931年製作のアメリカ映画。ウィリアム・A.ウェルマン監督,ジェームズ・キャグニー主演作品。1920年代後半からシカゴをはじめ大都会でギャングの抗争と暴力行為が表面化した風潮を社会的背景として,トーキー初期にブームとなった〈ギャング映画〉のなかで,マービン・ルロイ監督,エドワード・G.ロビンソン主演の《犯罪王リコ》(1930),ハワード・ホークス監督,ポール・ムニ主演の《暗黒街の顔役》(1932)と並ぶ代表的作品として知られる(なお,これらはいずれもアル・カポネをモデルにしてつくられている)。この1作でキャグニーは一躍,大スターになった。社会悪であるギャングを大衆の心理のなかでヒーロー化したと批判もされたが,トーキーという新しい表現技術(マシンガンや疾走する自動車の音が強烈な効果を上げている)でギャングの非情な世界を描き,ギャングを社会的環境の産物としてとらえていることが注目された。また,キャグニーが相手役の女優メエ・クラークの顔にグレープフルーツを乱暴になすりつけるシーンは,女性尊重に悩まされてきたアメリカ男性の潜在意識を解放したといわれ評判になった。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ノルウェーの劇作家イプセンの五幕戯曲。1882年刊。『人形の家』(1879)と『幽霊』(1881)への保守派からの非難があまりに激しかったのに対して作者が答えた作品。主人公ストックマン博士は医師で、ノルウェーの海岸に鉱泉を発見、それが町を繁栄させるが、浴泉に病菌が多いことを発見して大改造を提案する。しかし町当局はこの事実が世間に知られることを恐れて、これを闇(やみ)に葬ろうとする。博士は公開講演会を開いて世間に訴えるが、当局者に扇動された民衆はかえって博士をやじって投石する。博士は民衆が頼りにならず、真理と正義は少数者のものでしかないことを痛感、「ただ1人で立つ者がもっとも強い」と叫んで当局者に挑戦、ついに町を追われるに至る。作者は従来の民主的立場を去って、急進的貴族主義に転じている。
[山室 静]
『竹山道雄訳『民衆の敵』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…第1回アカデミー作品賞を受賞した航空映画の名作《つばさ》(1927)の監督として有名だが,ハリウッドの映画製作がもっとも豊饒(ほうじよう)だった1930年代を中心に,いわゆる〈企業内監督studio director〉として多彩なジャンルをこなした。とりわけ,ジェームズ・キャグニーを不滅のギャングスターに仕立てた《民衆の敵》(1931)は,ホークス監督の《暗黒街の顔役》とともにギャング映画流行のきっかけを作り,《スタア誕生》は内幕物の名作となり(1937年アカデミー・オリジナルストーリー賞受賞),私刑をテーマに心理ドラマを西部劇にもちこんだ《オックスボウ事件》は〈アダルト・ウェスタン〉のはしりとして,《G・I・ジョー》(1945)は戦場をリアルに描いた新しい戦争映画として,それぞれのジャンルを活性化させ,単なる職人監督以上の足跡を残した。ニューヨーク生れ。…
…ニューヨーク生れ。ギャング映画流行のはしりとなった《民衆の敵》(1931)で,メエ・クラーク扮する情婦の顔に朝食のグレープフルーツを押しつけてつぶすシーンを演じて,女性尊重を建前とするアメリカ社会に大反響を呼ぶ。以後,《汚れた顔の天使》(1938),《彼奴は顔役だ!》(1939)といったギャング映画の名作に主演。…
…やがてトーキーによって拳銃の発砲やマシンガンの掃射や自動車の疾走などが〈音〉を獲得するや,その暴力とアクションの魅力で大衆を熱狂させ,30年代初頭にギャング映画は黄金時代を迎えることになる。その口火を切ったのが,ギャング映画の古典として知られる次の3作,マービン・ルロイ監督,エドワード・G.ロビンソン主演《犯罪王リコ》(1930),ウィリアム・A.ウェルマン監督,ジェームズ・キャグニー主演《民衆の敵》(1931),ハワード・ホークス監督,ポール・ムニ主演《暗黒街の顔役》(製作は1930年,公開は32年)で,いずれもシカゴのギャングのボスとして鳴らし,当時まだ獄中にあったアル・カポネをモデルにして主人公の無法の人生と末路を描いた。主役を演じたロビンソン,キャグニー,ムニはいずれも一躍スターにのし上がり,また《暗黒街の顔役》でムニの弟分を演じたジョージ・ラフトとともに,4大ギャングスターとなった。…
※「民衆の敵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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