流水を適度に分配することをつかさどる神。〈くまり〉は〈配り〉の意で,多くは各地方の重要な水源となる河川の上流や分水嶺にまつられており,灌漑治水を祈る神である。《古事記》には〈天之水分神〉〈国之水分神〉として見えている。《延喜式》神名帳には,大和国(奈良県)に葛木(かつらぎ)水分神社,吉野水分神社,宇太(うだ)水分神社,都祁(つげ)水分神社が,河内国(大阪府)に建(たけ)水分神社,摂津国住吉郡(大阪府)に天水分豊浦命神社が記載されている。《延喜式》によると神祇官が執行する四時祭の祈年(としごい)祭と月次(つきなみ)祭や臨時祭の祈雨神祭(きうしんさい)には,大和国の葛木,吉野,宇太,都祁の四つの水分神社に奉幣や馬の奉納があった。いずれも大和朝廷の直接支配が及ぶ地方の周辺山地に鎮座し,比較的年間降雨量の少ない大和地方にとって重要な水源の神であり,とくに吉野山地と宇太山地には後世各所に多くの水分神社が分祀されて今日に至っている。なかでも宇陀郡の宇太川水系の水分信仰は盛んで,現在では宇陀市の旧菟田野(うたの)町古市場の宇太水分神社を中心に全国的な水利関係者の信仰を集めている。なお平安時代から〈みくまり〉をなまって〈みこもり〉とし,御子守明神と呼んで子授け安産の産育信仰の対象ともなった。とくに吉野山の吉野水分神社は《枕草子》や《紫式部日記》などに子守明神とあり,豊臣秀頼や本居宣長などはこの神の申し子として厚い信仰を寄せた。同社は子守宮とも称し,現在も産育信仰が盛んである。
執筆者:薗田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
流水の分配をつかさどる神。「くまり」は「配る」の意。『古事記』によると、速秋津日子神(はやあきつひこのかみ)と速秋津比売(ひめ)神との子に、天之(あめの)水分神と国之(くにの)水分神の二神がある。水分神を祀(まつ)る神社は全国にあるが、延喜(えんぎ)式内社では大和(やまと)国(奈良県)の葛木(かつらぎ)、吉野、宇太(うだ)、都祁(つげ)の水分神社、河内(かわち)国の建(たて)水分神社、摂津(せっつ)国の天(あめの)水分豊浦命(とゆらのみこと)神社(ともに大阪府)などがある。なかでも吉野水分神社に関しては、698年(文武天皇2)に雨乞(あまご)いのために馬を献じたことが『続日本紀(しょくにほんぎ)』にみえる。水の神、農耕の神であるが、のちには「くまり」を「こもり」(子守り)と訛(なま)り、子供守護の神として信仰されるようになった。
[井之口章次]
…一般には,水田の用水堰か水田のほとりの石祠に祭られている。また山中の水源地に水分(みくまり)神として祭られる場合は,山の神と同一視される。したがって水神は,田の神や山の神と一体化していて,3者をそれぞれ明確に区別できなくなっている。…
…同一水源,水系のもとで灌漑や生活などの用水を配分したり,河川の氾濫を防止するため,別の流路を開鑿し放水することなどをいう。大阪府下千早赤阪村と富田林市には式内社建水分(たけみくまり)神社(上水分社)と美具久留御魂(みくくるみたま)神社(下水分社)があり,古くから石川とそれに流入する千早川,水越川などの治水や灌漑をつかさどる水分(みくまり)神が祭祀されたものと思われる。このように古代から中世にかけて,取水・分水地点や水路を神社や神職が支配・管掌することがみられた。…
…前者の水神は,シリアのアスタルテ,バビロニアのイシュタル,ペルシアのアナーヒター,そして日本の罔象女神(みつはのめのかみ)などにみられるように女神の姿をとることが多く,生産と豊熟の源泉とみなされ,主として農耕・灌漑の守護神として崇拝された。とりわけ日本では,山が水源になっているところから,水を田畑に供給する水分神(みくまりのかみ)が山の神や田の神として信仰された。また池や湖などの水辺には霊童を伴う母神が住み,子種や福利を授けるという伝承が多く分布しているが,そこから河童(かつぱ)のような水の妖怪が考えだされた。…
※「水分神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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