水産加工品(読み)すいさんかこうひん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水産加工品」の意味・わかりやすい解説

水産加工品
すいさんかこうひん

魚貝類や海藻類などの有用水産生物を加工した製品。直接食用となる製品と、そのほかの製品に大別される。食用製品には乾製品(乾燥食品)、塩蔵品、薫製品、調味品、練り製品、缶詰品、冷凍品などがある。そのほかの製品には食品素材や飼料用加工品(フィッシュミールフィッシュソリュブル、魚油(ぎょゆ)、エキスなど)、海藻抽出物(寒天、カラギーナンcarrageenanなど)、水産工芸品(真珠、サンゴなど)、水産皮革(サメ皮など)、薬品類(ビタミンA、インスリンなど)がある。

 魚貝類や海藻類は、タンパク質その他の栄養源として高い価値をもつが、一方、ほかの生鮮食品に比較して保存性が低い特性をもっている。したがって、加工により貯蔵性を増加させることが重要であり、また加工によって付加価値が高められる。

[望月 篤]

乾製品

原料中の水分を除去して、貯蔵性を与えたものである。乾製品には次のような種類がある。

(1)素干し品 魚貝藻類をそのまま、あるいは適当に調理し、水洗いしてから乾燥させたもので、加熱処理はしていない。製品には、するめ、干しだら、干し昆布などがある。

(2)煮干し品 原料をいったん煮熟してから乾燥させたものである。煮干しいわし、干しあわび、干しえび、いりこ(ナマコを乾燥させたもの)などがある。

(3)塩干(えんかん)品 原料を塩蔵してから乾燥させたもので、いわし干し、あじ干し、さば干し、さんま干し、開きだらなどがある。

(4)凍干(とうかん)品 寒気を利用して凍結および乾燥を繰り返したもので、寒天、明太(めんたい)(スケトウダラの乾燥品)などがある。

(5)節(ふし)類 かつお節(ぶし)、さば節、いわし節などがある。原料の魚を煮熟してから焙乾(ばいかん)し、日乾、カビ付けの工程を経て製品とする。節類を蒸してから削り機で薄片状に削り、プラスチックフィルム製の小袋に窒素ガスなどの不活性ガスとともに詰めた製品も生産されている。

[望月 篤]

塩蔵品

乾製品とともに、古くから魚貝類の保存食品として製造されているものである。食塩水の中に漬け込む立塩(たてしお)漬けと、食塩を原料に直接ふりかける散塩(ふりしお)漬けとがある。食塩自身がもつ防腐作用はとくに強いものではないが、脱水作用と水分活性を低下させる作用があり、微生物が増殖しにくくなり貯蔵性が得られるといわれている。塩分含量を多くしたほうが貯蔵性は高まるが、塩分の少ない甘塩製品のほうが消費者に好まれるので、冷凍・冷蔵法と併用して保存する場合が多い。

(1)魚類塩蔵品 サケ・マス類、サバ、イワシ類、ホッケなどの製品がある。

(2)魚卵塩蔵品 すじこ、イクラ数の子たらこ、からすみ、キャビアなどがある。

(3)塩辛(しおから)類 魚貝類の筋肉、内臓または卵などに比較的多量の食塩を加えて、自己消化および発酵によって製品としたもので、かつお塩辛、いか塩辛、うに塩辛などがある。

(4)海藻塩蔵品 生わかめ塩蔵品、ボイル塩蔵わかめ、塩蔵昆布などがある。

[望月 篤]

薫製品

薫製品は、木材をいぶして魚貝類を乾燥させ、貯蔵性と風味を与えた加工品である。貯蔵を主目的として低温で長時間薫乾する冷薫法と、主として風味づけのために高温で短時間処理する温薫法とがあるが、後者のほうが好まれる傾向にある。

(1)冷薫品 サケ・マス類、ニシン、ブリなどを原料としてつくられる。塩蔵したものを塩抜きしてから、ブナ、カシ、ナラ、クヌギ、サクラなどの堅木の薪(まき)やおがくずをいぶして、20~25℃前後の温度で長時間薫乾する。冷薫品の水分含量は普通40%程度である。

(2)温薫品 サケ・マス類、ニシン、スルメイカ、タコなどを原料とし、80~90℃程度の温度で短時間薫乾したものをいう。

[望月 篤]

調味品

水産原料に各種の調味料を添加して加工した製品。

(1)煮熟調味品 佃煮(つくだに)類のことで、水産物をしょうゆ、水飴(みずあめ)、砂糖などの濃厚調味液の中で100~120℃の高温で長時間煮熟して保存性を高めている。するめ、イカナゴ、昆布など製品の種類は多い。

(2)調味乾燥品 小形の魚貝類を調味液に浸漬(しんし)したのち、乾燥させたもので、イワシ類、サンマ、フグなどのみりん干し、さきいかなどがある。

[望月 篤]

練り製品

すりつぶした魚肉に食塩、砂糖、調味料、デンプンなどを加えて練り、成形したのち、加熱することにより、独特の弾力をもつ製品としたものである。古くから料理の一種としてつくられてきたもので、多くの種類がある。原料魚はエソ、ハモ、オキギス、グチ、ヒラメなどが適しているといわれるが、現在ではスケトウダラの冷凍すり身が多くの練り製品工場で使われている。

(1)板付きかまぼこ すり身を杉材その他の板の上に成形し、加熱してつくる。炭火や赤外線ヒーターを使用した炉で直接加熱する焼き抜き、蒸気で蒸す蒸し板、蒸し板の表面にさらに焦げ色をつける焼き板の3種に大別される。

(2)ちくわ すり身を竹の棒に塗り付けて焼くのが古くからの製法で、かまぼこ類の原型といわれる。しかし現在は、金属の棒を使用し、自動成形焼上げ機による製品が多い。

(3)湯煮製品 はんぺん、しんじょ、つみれ(つみ入れ)など、すり身を成形してから湯煮してつくるものをいう。すじ、鳴門巻(なるとまき)などもこれに含まれる。

(4)揚げ物 すり身を油で揚げた製品で、東京地方では薩摩(さつま)揚げ、大阪地方では「てんぷら」とよばれている。野菜やイカを巻いたものなど種類も多い。

(5)カニ風味かまぼこ カニ肉を模してつくられた製品で、カニかまぼこともいう。カニ肉の色に着色したかまぼこを繊維状に刻みほぐしてカニ肉風としたものと、これに塩ずり身を混合してカニ脚肉状に成形したもの、薄板状に成形したかまぼこに筋目を入れてから束ねて表面を着色し一定の長さに切断したものなどがある。

(6)魚肉ハム・ソーセージ かまぼこ類と異なるのは脂肪の含量が多く、香辛料が添加されることである。原料魚にはマグロ類、アジ、クジラなどが使われた時代もあったが、現在ではスケトウダラの冷凍すり身が主体となり、これにブタの脂身、ゼラチン、デンプンや大豆タンパク質などが副原料として使用される。

[望月 篤]

フィッシュミール

多獲性の小形魚類を蒸し煮、圧搾し、乾燥させて粉末としたもので、魚粉(ぎょふん)ともいう。第二次世界大戦前はニシン、イワシ類などが原料として使用されたが、現在ではおもにイワシ類、サバがフィッシュミールに加工され、用途は大部分が家畜の配合飼料用である。

[望月 篤]

フィッシュソリュブル

フィッシュミールや缶詰などの魚類の加工工程で出る煮汁や圧搾液を遠心分離して、固形分と油脂分を除いて濃縮したもの。半流動性のペースト状である。用途は大部分が家畜の配合飼料用である。

[望月 篤]

魚油

日本では、主として、スケトウダラ、カレイ類、イワシ類、サバなどの、フィッシュミール製造の際に得られる副産物の圧搾油を精製して、魚油を分離している。魚油は一般に高度不飽和酸の含有量が陸産の動植物油脂に比べて高く、酸化しやすい。安定性を増加させるためと、可塑性を与えるために、水素添加して不飽和度を低下させ、マーガリン、ショートニングの原料として使用している。また、脂質異常症などの治療薬として、原料にマイワシ油を使用したエイコサペンタエン酸(EPA。国際標記はイコサペンタエン酸=IPA)を主成分とする医薬品が開発され、ドコサヘキサエン酸(DHA)を強化した乳酸菌飲料、パン、キャンディー、魚肉ハム・ソーセージなどが製品化されている。

[望月 篤]

エキス

かつお節、カツオ・マグロ缶詰、各種貝類缶詰などの製造の際の煮汁を利用してつくられる。エキスは、煮汁を濃縮する製法も行われているが、煮汁をまずタンパク分解酵素によって分解してから、遠心分離機により油脂分と固形分を除去する方法もある。ついでイオン交換樹脂や活性炭で脱臭・脱色してのち、水分量20~30%程度に濃縮する。このエキス成分は天然調味料として、スープ、麺(めん)つゆ、たれ、ソース、ドレッシングなどに使用される。

[望月 篤]

寒天

テングサ、オゴノリなど紅藻類の海藻から熱湯で多糖類を抽出し、抽出液を冷却してところてんとし、これを凍結および乾燥を繰り返してつくる。食用としては、みつまめ、羊かん、ゼリー、マーマレードなどに使われる。また微生物培地用としても重要である。

[望月 篤]

カラギーナン

紅藻スギノリ属やキリンサイ属の原藻から熱水で抽出される粘質多糖類で、抽出液中のカラギーナンはアルコールによる沈殿脱水法、あるいは抽出液を凝固させたのち切断し加圧脱水するプレス脱水法により得る。カラギーナンの溶液は、中性およびアルカリ性では高温でも安定であるが、水素イオン濃度指数(pH)が低くなると粘度およびゲル形成能が低下する。カラギーナンは優れた増粘性、ゲル形成能、乳化安定性、懸濁分散性、結着性などから、乳製品、飲料、製パン、製菓、ドレッシング・ソース類、魚肉練り製品など多くの食品に使用されている。さらに、食品以外にも織物工業での糊料や化粧品工業でのクリームやローション、練り歯みがきなどにも添加されている。また泡消火器、芳香剤のゲル化剤などにも使われている。

[望月 篤]

『谷川英一著『水産製造学』(1960・紀元社出版)』『清水亘著『水産利用学』(1962・金原出版)』『太田冬雄編『水産加工技術』(1980・恒星社厚生閣)』『須山三千三・鴻巣章二編『水産食品学』(1987・恒星社厚生閣)』『岡田稔著『かまぼこの科学』(1999・成山堂書店)』『小泉千秋・大島敏明編『水産食品の加工と貯蔵』(2005・恒星社厚生閣)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水産加工品」の意味・わかりやすい解説

水産加工品
すいさんかこうひん

保存性と嗜好性をかなえるための魚介類など水産物の加工品。魚介類は変質,腐敗しやすいので,保存のために加工処理して商品としての価値の安定がはかられるが,さらに現在では食生活の変化に応じて加工されている。おもなものに冷凍品,練製品,するめなどの乾製品,缶詰,塩蔵品などがある。その他,かつお節や削り節,こんぶ,海苔などの海藻加工品,魚粉や魚油,雑類としては佃煮塩辛類や各種の漬物など。また貝殻やさんごなど工芸品も水産加工品に含まれる。

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栄養・生化学辞典 「水産加工品」の解説

水産加工品

 魚介類や海藻を加工したもの.

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世界大百科事典(旧版)内の水産加工品の言及

【水産加工】より


【水産加工技術史】
 生鮮魚介類はそのまま食用に供するほか,ひじょうに腐敗しやすいため先史時代にすでに素干し,煮干し,塩蔵などの加工品が作られていたようである。歴史時代に入り《風土記》《延喜式》などにはこの時代に利用された魚介類,水産加工品の記載があるが,素干し品,煮干し品,塩蔵品のほか酢漬,すしなども出回りはじめた。また水産物は調庸賦役の一つとして,するめ,干しアワビ,干しナマコ,干しワカメ,塩蔵アユ,塩蔵ブリなどが朝廷に納められた記録がある。…

※「水産加工品」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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