沸石(読み)フッセキ(英語表記)zeolite

翻訳|zeolite

デジタル大辞泉 「沸石」の意味・読み・例文・類語

ふっ‐せき【沸石】

カルシウムナトリウムアルミニウムなどの含水珪酸塩けいさんえん鉱物塩基性火山岩中などに産し、組成は長石類に似る。加熱すると水を放出し、すきまのある結晶となる。ゼオライト
沸騰石

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精選版 日本国語大辞典 「沸石」の意味・読み・例文・類語

ふっ‐せき【沸石】

  1. 〘 名詞 〙 アルカリアルカリ土類金属元素の含水アルミノ珪酸塩鉱物。多量の水を含有し吹管で熱すると沸騰して発泡する。無色または白色、ガラス光沢。方沸石、菱(りょう)沸石、ソーダ沸石など種類が多く、普通、玄武岩輝緑凝灰岩などの空孔や割れ目に産する。〔鉱物字彙(1890)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沸石」の意味・わかりやすい解説

沸石
ふっせき
zeolite

ゼオライトともいう。カルシウムやナトリウムを主成分とする含水アルミノ珪(けい)酸塩鉱物(4配位のケイ素Siの相当量をアルミニウムAlが置換したもの)で、カリウムセシウムマグネシウムストロンチウムバリウムを主成分に含むこともある。沸石の定義変更によって、現在ではアルミノ珪酸塩ばかりでなく、同構造でベリリウムBeが置換したベリロ珪酸塩なども沸石に加えられる。また結晶水のないものも沸石に入ることがある。結晶構造は、すきまの多いアルミノ珪酸塩基が骨組をつくり、そのすきまには前記金属イオンや結晶水が入っている。このため金属イオンの交換が容易であり、水の出入りもある程度自由に行われる。

 一般化学組成式上の特徴は、(Al+Si):O=1:2で、1価の金属イオン(ナトリウム、カリウム、セシウム)の数をm、2価の金属イオン(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム)の数をn、アルミニウムの数をxとすれば、m+2n=xの関係がある。

 沸石の生成は、低温で水蒸気圧の高い条件下でなされる。現在沸石は90種程度知られているが、日本では42種が産する。そのうち湯河原(ゆがわら)沸石は日本で発見されたものである。日本産出のおもな沸石は、方沸石、ワイラケイ沸石、ソーダ沸石、スコレス沸石トムソン沸石、中沸石、ゴナルド沸石、ダキアルディ沸石、モルデン沸石、フェリエ沸石、濁沸石輝沸石斜プチロル沸石、束沸石、剥(はく)沸石、十字沸石湯河原沸石、菱(りょう)沸石、エリオン沸石レビ沸石などである。

 結晶構造上の特性を生かし、沸石は「分子ふるい」として有機分子などをより分けることに利用されるほか、放射性元素を吸収して浄化することにも使われる。また脱水された沸石は種々の溶液を吸収することもできる。そのため飼料に混ぜて、家畜の消化器官中の有害物質を吸着して排泄(はいせつ)させることにも利用される。英名は、炎を近づけると膨れるため、沸騰するという意味のギリシア語に由来する。

[松原 聰]

『冨永博夫編『ゼオライトの科学と応用』(1987・講談社)』『辰巳敬監修『機能性ゼオライトの合成と応用』普及版(1999・シーエムシー)』『小野嘉夫・八嶋建明編『ゼオライトの科学と工学』(2000・講談社)』『板倉聖宣・山田正男著『固体=結晶の世界――ミョウバンからゼオライトまで』(2002・仮説社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「沸石」の意味・わかりやすい解説

沸石 (ふっせき)
zeolite

低温加熱によって相当量の水分を放出するアルミノケイ酸塩鉱物の一群。ゼオライトともいう。化学成分はSiO2,Al2O3アルカリ金属,アルカリ土類金属,さらにH2Oを含有し,立体網目状構造をもつ(テクトケイ酸塩に属する)。沸石はギリシア語のzein(沸騰)とlithos(石)から名づけられたもので,〈沸騰する鉱物〉という意味である。沸石を熱すると含有する水分を放出して低融点を示し,その化学成分によって発泡膨張することや,吹管分析法のホウ砂球反応を行った場合にガラス球内に発泡現象が認められることなどが名の由来である。

沸石類の結晶系は等軸,正方,斜方,単斜,および三方晶系の多種の結晶系に属し,外形も針状,柱状,菱面体,錐状,粒状など多様であるが,塊状を示す場合も多い。色は透明,白色,または淡い着色を示す場合もある。着色は微粒の異種鉱物の混在によることもある。モース硬度は一般に低く,3.5~5.5,比重2~2.4,ときに2.7。結晶構造は(Si,Al)O4の四面体が結合してつくる立体構造で,中に大きい空洞の存在するのが特徴である。空洞は数Åより大きく,種類によっては10Åにも及ぶ。

空洞の壁面にはアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンが結合して存在し,残りの空間はH2OおよびOHによって満たされている。沸石を各種の陽イオンを含む水中に浸した場合,空洞に存在するアルカリ金属およびアルカリ土類金属イオンは,水中のイオンの種類によってイオン交換を行う。この性質を陽イオン交換性といい,沸石類のもつ特性の一つである。その量を陽イオン交換容量(CEC)と呼び,沸石類はその量が一般に大きい鉱物の一つである。CECは,沸石の種類,陽イオンの種類,イオン交換が行われる溶液のpH,温度によって異なる。

また,空洞中の水分は比較的低温(500℃以下)の加熱および減圧により放出される。その脱水体を室温において水蒸気の多い状態に保つと,再び吸湿してもとに復する性質がある。このように脱水,吸湿を繰り返す水分を〈沸石水〉と呼ぶが,沸石類は他の鉱物に比較して多量の沸石水を含有する。また,沸石水を除いた沸石類は,その空洞内にガス体を吸蔵する特性がある。ただし吸蔵は,沸石の種類,ガス体の種類,温度,ガス圧などに関係がある。すなわち,ガス体の分子の径が沸石の空洞の入口の径より小さい場合に吸蔵が可能である。また吸蔵されるガス体の量はガス吸着量と呼ばれ,空洞内のイオンの種類,吸着時の温度,圧力によって異なる。一般には低温,高圧下においてその量が増加する。吸蔵されたガス体は,加熱および減圧によって放出され,もとに復する性質を示す。このような一連の作用によって,異なる分子径をもつガスの混合体を特定の沸石を用いて吸着可能なガス体と吸着不能なガス体とに分離することができる。この作用は分子ふるい作用(モレキュラーシーブmolecular sieves作用)と呼ばれる。このような作用を利用する目的で合成沸石モレキュラーシーブ(商品名)がつくられている。

天然産の沸石は40種類弱が報告され,合成のものは数百種類にものぼるが,実用されているのは10種類弱である。表に主要な沸石の種類を示す。

古くから安山岩,玄武岩などの火山岩やそれらの凝灰岩の空洞や岩脈を満たして産出することが知られ,美しい結晶体として存在する場合も多い。また金属鉱床の熱水脈やペグマタイト,変成岩中にも産出する。このような例はいずれもマグマに関係する場合で,マグマの放出するガス体,熱水の作用によって生成したものである。比較的近年(1950以降)になって,続成作用(埋没変成作用)でできる酸性火成岩の凝灰岩などの堆積岩の構成鉱物として,また鹹湖(かんこ)の火山灰を主とする堆積物の構成鉱物として生成する場合が知られている。このような例はX線回折計X-ray diffractometerの使用によって堆積岩の鉱物組成の研究が進展したことにより明らかになった。また特殊な成因として,火山噴出物の特異な風化作用で形成される例も報告されている。

分子ふるいとしての利用が主としてアメリカで始められたが,そのころは火山岩の空洞中に産出するだけで産出量が少なく,資源としての価値に欠けていた。その後,堆積岩の構成物としての沸石類の産出が明らかとなり,天然産沸石の資源としての新しい応用面が開発されてきた。とくに地質時代の新第三紀に酸性火山活動の活発であった日本は,良質の堆積性沸石の産出の豊富な国の一つである。そのため,沸石の利用もまた世界の注目を集めている。すなわち,ガス吸着性を利用して空気からの酸素,窒素の発生装置における吸着剤,陽イオン交換性を利用した養魚場の水質の保持,廃水処理,水田を主とした農耕地の土壌改良剤,養鶏・養豚に伴う悪臭の処理,排出物の処理剤,そのほか乾燥剤,洗剤配合剤,触媒(石油の接触分解ほか)など広い産業上の用途が開発されている。日本の生産量は月間数千tにも及び,北海道,東北地方,山陰地方のグリーンタフ地域には10ヵ所もの産地が知られている。国外では韓国,中国,北アメリカ,ブルガリア,ルーマニア,ハンガリー,旧ソ連,イタリアなどに産出する。美しい結晶として火山岩の空洞を満たして産出する場所は,国内では新潟市北部の間瀬(まぜ)海岸,伊豆半島の大仁(おおひと)付近,松山市南の久万(くま)地方などが知られる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沸石」の意味・わかりやすい解説

沸石
ふっせき
zeolite

アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含水アルミニウムケイ酸塩で,結晶構造上,テクトケイ酸塩に属する鉱物群の総称。 30種以上の鉱物種が報告されているが,含水量が多いこと,(SiAl)O4 四面体の構成する立体網状構造中に大きな空隙 (径 6Å 以上の空隙を有するものもある) があることなど,いくつかの共通性がある。これらは次の6つに分類される。 (1) ソーダ沸石群,(2) 濁沸石-ギスモンド沸石群,(3) 輝沸石-束沸石群,(4) 灰十字沸石群,(5) 菱沸石群,(6) 準沸石群。各種火山岩の気孔中,各種熱水鉱脈中などに産出するほか,堆積岩の続成作用や低温の広域変成作用によっても出現する。沸石はその構造上の特性から,イオン交換作用があること,可逆的な水和作用があることで有名である。人工的に合成されたものや,天然産のものは,軟水をつくるためや他のイオン交換作用を伴う種々の用途に使われている。

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百科事典マイペディア 「沸石」の意味・わかりやすい解説

沸石【ふっせき】

三次元的網目構造をもったアルカリ金属の含水ケイ酸塩鉱物の一群。ゼオライトとも。組成は(Na2,K2,Ca,Ba)[(Al,Si)O2](/n)・xH2O。沸石族には20種以上の鉱物が属している。含水量が多く,加熱すれば連続的に脱水,沸騰してふくれる。脱水したものを空気中で冷却すると水分を回復する。イオン交換性が顕著で,分子ふるい作用をもち,工業的には吸着剤,イオン交換剤,触媒など利用範囲が広く,合成ゼオライトも作られ,新機能材料として用いられている。
→関連項目接触分解

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