水防(読み)スイボウ

デジタル大辞泉 「水防」の意味・読み・例文・類語

すい‐ぼう〔‐バウ〕【水防】

洪水高潮に際し、水害を警戒・防御し、また、その被害の軽減を図ること。「水防訓練」
[類語]水利灌漑治水

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精選版 日本国語大辞典 「水防」の意味・読み・例文・類語

すい‐ぼう‥バウ【水防】

  1. 〘 名詞 〙 洪水や高潮などに際して、水害を警戒・防御し、また、その被害を少なくすること。
    1. [初出の実例]「水防之手当者出水時節肝要之儀に付」(出典:日本財政経済史料‐四・土木・治水・治水制規・享和三年(1803)月日)

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改訂新版 世界大百科事典 「水防」の意味・わかりやすい解説

水防 (すいぼう)

洪水時に堤防漏水洗掘,越流などによって危険に瀕(ひん)したときに応急的な処置を施すことや,破堤後に流入水をできるかぎり制限したり,はんらんの拡大を防止する活動,およびこれに関する常時の対応を含めて水防という。

 河川堤防は,特殊なものを除き,ほとんどが川沿いに土砂を盛って築造しているにすぎないので,他の土木構造物ほどの強度は有しておらず,越流に対してもっとも弱い。扇状地河川などの急こう配河川では,洪水は急流で破壊力が強く,流れの激突による洗掘破堤が起こりやすい。また低平地河川では,流速は遅くなるとともに高水位の継続時間が長くなり,堤体・基礎の漏水,裏法(うらのり)の崩壊,天端(てんば)の亀裂などの危険が生じやすくなる。

 水防活動は,危険の多い作業であり,従事する人にとっては命をかけた活動といえる。流水に入って作業する人は文字どおり命綱をつける必要があり,また,古い記録には越流に対して土俵が足りなくなり人々が横に並んで防いだという話も伝えられている。水防工法は,こうした命をかけた経験から生み出されてきたもので,おもなものに次のようなものがある。(1)越流に対する工法 堤防天端に土俵を何段か積み重ねる積み土俵工,堤防天端に杭を打ちせき板をあてるせき板工,越流による堤防裏法面の洗掘を防止するため裏法面にむしろを張る裏むしろ張り工など。(2)洗掘に対する工法 樹木におもり土俵をつけて洗掘個所にあてがう木流し工,洗掘個所に牛類を入れる枠入れ工,洗掘個所を蛇籠(亀甲形の目に編んだ円筒状の籠に石を詰めたもの)で被覆する立て蛇籠工,洗掘個所に大きな石または石俵などを投入する捨石工法,洗掘による堤防断面の減少を補うため,その裏法面に土俵を積む築回し工など。(3)漏水に対する工法 堤内地盤の漏水口の拡大を水圧でおさえるとともに,堤体内が水で膿まないよう排水してやる釜段工,裏法面からの漏水に対するもので,釜段工と似た月の輪工,川表の漏水口に土俵を詰める詰め土俵工,川表の漏水面をむしろで被覆するむしろ張り工(洗掘防止にも使用される)など。(4)裏法崩壊に対する工法 裏法面に蛇籠を立てて被覆する立て蛇籠工,裏法面に杭を打ち並べ中詰に土俵を入れる杭打ち積み土俵工,裏法面に土俵を積みあげる土俵羽口工法,築回し工。(5)亀裂に対する工法 天端の亀裂に対し両肩付近に竹を挿し折り曲げて連結する折返し工,亀裂が天端から裏法にかかる場合の控取り工,亀裂の線を挟んで竹を数本打ちこみこれを縛るようにする五徳縫い工,裏法に菱形状に杭を打ち竹,鉄線で縫う籠止め工など。

 これらの工法は,俵,むしろがビニル製,竹が鉄線,鉄棒,ビニルパイプ,板材がコンクリート製になるなどの材料変化はあるが,工法自体の新しい開発はほとんど見られず,古くからの経験の集積である。

 洪水時の水防活動のためには,常日ごろから堤防の弱点の調査や水防資材,作業人員の確保のための準備が必要である。これらのことは,かつては地域住民が共同体意識のもとに自発的に行ってきたが,明治以降は水防組合が消防法や水利組合法によって制度化され,現在では水防法のもとに水防事務組合などの水防管理団体が実施することになっている。しかし,近年では,治水の進展に伴う水害頻度の減少や,あるいは都市化に伴って地域の自然を知らない人々の増大などにより,地域住民の水防意識が希薄化しており,洪水時に必要な作業人員,水防資材を確保できないことが多くなってきている。
堤防
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水防」の意味・わかりやすい解説

水防
すいぼう

洪水による被害を防止、軽減するために、洪水時に河川を巡視し、堤防が越水、洗掘、亀裂、漏水などにより危険になったときに越水や堤防決壊を防ぐために行う応急作業。水防工法には越水を防ぐための積土嚢(つみどのう)工法、洗掘に対するシート張り工法、土嚢・ブロック・捨石工法、木流し工法、亀裂に対する繋ぎ縫(つなぎぬ)い工法、五徳縫(ごとくぬ)い工法、漏水に対する月の輪工法、釜段(かまだん)工法、シート張り工法などがある。

[鮏川 登]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水防」の意味・わかりやすい解説

水防
すいぼう
flood defense

洪水や高潮の際,堤防に越水,漏水,崩壊などのおそれがあるとき,これらを防ぐために行う応急工事。越水や崩壊防止のために堤防の上面や斜面に土俵を積んだり,むしろを張ったり,杭を打ったりして堤防を補強する。漏水個所があれば,そこを囲んで水をため,逆に水圧をかけて泥水の噴出を止める。日本には実際の水防作業のために 1949年公布された水防法がある。これに基づいて水防管理団体が組織されて,平時には河川の巡視,警備,必要材料や器具の整備,水防演習を行い,洪水時には消防機関などと協力して必要な作業を行う。水防活動を必要とする場合は時間的余裕もなく,危険な作業を円滑,迅速に行わなければならないから,あらかじめ周到な計画を立てておかなければならない。

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百科事典マイペディア 「水防」の意味・わかりやすい解説

水防【すいぼう】

洪水時の堤防の決壊を防ぐための作業。越水個所,漏水個所に土俵や土嚢を積んだり(積み土俵,釜段),むしろや木の枝で法面(のりめん)の保護をしたり(木流し,むしろ張り),青竹で堤を締め固めたり(控取り,五徳縫い)する。使用する材料はビニルや鉄製品などになったが,工法自体はほとんど変わらない。

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