沙汰未練書(読み)さたみれんしょ

改訂新版 世界大百科事典 「沙汰未練書」の意味・わかりやすい解説

沙汰未練書 (さたみれんしょ)

鎌倉時代に用いられた基本的な法律用語を説明・解釈し,訴訟文書の文例を挙げた武家側の法律書。書名は訴訟(沙汰)に不慣れ(未練)な者のための手引書の意。1278年(弘安1)の北条時宗自身の著述の意を述べた跋文,および翌79年の安達泰盛の奥書は仮託と思われ,内容,奥書から1323年(元亨3)ころ政所執事二階堂氏の手になるものかと考えられるが,なお研究を要する。内容は(1)幕府関係の法律用語,および訴訟制度とその手続を解説した部分,(2)公家朝廷)に関する訴訟用語などを説明した部分,(3)訴訟文書の文例の部分,の3部よりなる。小冊ながら他に類書はなく,とくに(1)(3)の部分は,複雑に変化した鎌倉末期の幕府訴訟制度の状態を解明するのに唯一無二のもの。江戸初期の略本と,同中期以降の広本の2系統の写本がある。《群書類従》などにも収めるが,《中世法制史料集》所収が最善本である。
沙汰
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沙汰未練書」の意味・わかりやすい解説

沙汰未練書
さたみれんしょ

14世紀初頭に鎌倉幕府官僚が著したと推定される、沙汰の手続・用語・文書例の手引書。沙汰とは、判断すること、処理することで、ここではとりわけ、諸人の訴に対して判断を下すことを意味して用いられている。未練は不熟練の意味。従って書名を文字通りに解すれば、「訴に対する判断手続について不熟練の者のための手引書」の意味になる。本書述作の背景には、13世紀末から14世紀初頭にかけて鎌倉幕府における沙汰の手続きに生じた大きな変革に対応して、同様の職務に就くことが予想される子孫のために手引を遺そうとする意図を、想定することができる。執権北条時宗(ほうじょうときむね)の作に仮託されているが、実際には鎌倉幕府政所(まんどころ)執事二階堂(にかいどう)氏の周辺で述作され、同氏に相伝されたものであろう。全体は3部に分かたれ、第1部は鎌倉幕府の沙汰の手続の分類解説、第2部は公家(くげ)関係の用語解説、第3部は関係文書の文例集となっている。鎌倉末期の沙汰の手続制度を知るうえで最も基本的な史料とされ、佐藤進一・池内義資編『中世法制史料集第2巻 室町幕府法』(岩波書店)に収録されている。

[新田一郎]

『石井良助著「中世の訴訟法史料二種について」(『増補版 大化改新と鎌倉幕府の成立』1972・創文社)』

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百科事典マイペディア 「沙汰未練書」の意味・わかりやすい解説

沙汰未練書【さたみれんしょ】

鎌倉時代の武家側の法律書。書名は〈訴訟(沙汰(さた))に不慣れ(未練)な者のための解説書〉の意。内容・奥書(おくがき)から,1323年頃に鎌倉幕府の政所(まんどころ)執事である二階堂氏の手によって成立したものと推測されているが,この点については検討の余地がある。内容は基本的な法律用語を説明・解釈した部分,訴訟制度とその手続きを解説した部分,さらに訴訟文書の文例を挙げた部分などからなる。鎌倉幕府訴訟制度の研究にとっての基本史料。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沙汰未練書」の意味・わかりやすい解説

沙汰未練書
さたみれんしょ

『沙汰未練抄』ともいう。鎌倉幕府の法律用語を解説した手引書。1巻。編者未詳。元応1 (1319) 年から元亨2 (22) 年までに成立。文中で弘安1 (1278) 年北条時宗編とあるが,後人がかりにそうしたものであって真実ではない。幕府の法律用語と訴訟の手続を説明した部分,京都の公家の制度を説明した部分,および訴訟文書の文例の3部より成る。鎌倉や京都六波羅の沙汰 (訴訟手続) に未練 (習熟していない) の者のために書かれた。近時,この原型を応長1 (1311) 年以前に求め,その後次第に項目を加筆していったものとする説もある。『中世法制史料集』その他に所収。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「沙汰未練書」の解説

沙汰未練書
さたみれんしょ

鎌倉幕府に関する訴訟手続や法律用語を平明に解説し,文例も載せた訴訟制度の手引書。鎌倉・六波羅(ろくはら)の沙汰(主として訴訟関係の実務)に慣れない人々を対象に,幕府の訴訟制度を包括的に解説した唯一のもの。1278年(弘安元)の北条時宗跋文があるが後世の仮託で,実際の成立年代は,将軍久明親王・得宗北条貞時の時代に原形が成立,高時政権の1319~22年(元応元~元亨2)の間に現在の形式が成立したとされる。伝本には,二階堂氏伝来本,それから分かれた伊勢氏伝来本,公家沙汰・訴訟文例の部分を大幅に抄録した略本の3種がある。「中世法制史料集」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「沙汰未練書」の解説

沙汰未練書
さたみれんしょ

鎌倉後期,幕府の訴訟手続きの解説書
1319年ごろ成立。1巻。著者は不明であるが,幕府訴訟機関の関係者らしい。幕府の複雑な訴訟手続き,訴訟法,法制上の用語解説,事務の仕方,文書様式など法令運用上心要な事項が,初心者にもわかるように平易に解説してある。鎌倉幕府の訴訟制度などを知るうえでの重要な史料。

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世界大百科事典(旧版)内の沙汰未練書の言及

【検断沙汰】より

…鎌倉幕府は当初,当事者の身分によって管轄を分かち,1249年(建長1)には御家人訴訟専掌機関としての引付方を発足させたが,まもなく訴訟対象によって管轄を分かつ制度に改め,不動産訴訟を対象とする所務沙汰,動産および債権債務関係を扱う雑務沙汰と,検断沙汰の3系列に訴訟制度を編成した。幕府の訴訟制度を解説した《沙汰未練書》によると,検断沙汰の対象は,謀叛,夜討,強盗,窃盗,山賊,海賊,殺害,刃傷,放火,打擲,蹂躙,大袋,昼強盗,路次狼藉,追落,女捕,刈田,刈畠であり(大袋・追落は強盗の一種,刈田・刈畠は他人の田畠の作物を強奪する行為),おおむね現在の刑事事件に相当する。 検断沙汰を扱う機関は関東では侍所で,訴人が訴状を侍所へ提出すると,侍所頭人が銘を加えて(訴状の端裏に年月日と訴人名を記す)担当奉行に送る。…

※「沙汰未練書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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