改訂新版 世界大百科事典 「法定地上権」の意味・わかりやすい解説
法定地上権 (ほうていちじょうけん)
抵当権実行の際に法律上当然に生ずる地上権(民法388条)。日本では,土地と建物をそれぞれ独立の不動産としているので,建物の抵当権の効力はその敷地に及ばず,反対に,敷地の効力は建物に及ばない。そこで,土地とその地上の建物との両方を所有する者が,いずれか一方(例えば,建物)だけを抵当に入れた場合に,抵当不動産につき競売がなされて競落人(けいらくにん)が生ずると,土地と建物とが所有者を異にするに至る。この場合,建物所有者(競落人)には当然には敷地を利用する権利がないため,土地所有者から建物収去土地明渡しを請求されるおそれがある。しかし,それは,抵当権設定当事者の合理的意思に反し不都合である。といって,競売前に自分の土地に自分の建物を所有するための土地利用権を設定しておくことは,混同(179条)の法理により不可能である。そのため,建物の維持・存続を図るとともに,社会経済上の損失を防ぐ必要もあるので,法律上当然に建物所有のための地上権が設定されたものとしたのである。しかし,民法の規定はかなり制限的であるため,建物に必要な敷地利用権をできるだけ認めようとの考慮から,判例・学説は類似の状況につきこの制度を広く適用している。なお,同様の問題が生じうる場合につき,〈立木ニ関スル法律〉5条,工場抵当法16条,鉱業抵当法3条が同旨を定めるほか,公売処分の場合について国税徴収法127条が,また強制競売の場合について民事執行法81条がそれぞれ法定地上権の成立を認めている。なお,抵当権設定当時に更地であった場合は,その後家屋が建てられても法定地上権は認められない。
→地上権
執筆者:内田 貴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報