急性化膿(かのう)性髄膜炎のうち、髄膜炎菌によるものをとくに流行性髄膜炎といい、感染症予防・医療法(感染症法)により5類感染症に分類され、法律的には髄膜炎菌性髄膜炎とよばれる。1945年(昭和20)には患者届出数が4000件を超えたが、これをピークにしだいに減少し、80年以降は年30件以下となり、まれな疾患となった。しかし、欧米では年1000件以上の中規模発生がみられ、アフリカでは大発生を繰り返している。流行は、温帯では冬から春にかけてみられ、熱帯では乾期の酷暑期に多い。
髄膜炎菌Neisseria meningitidisはグラム陰性の腎臓(じんぞう)型の双球菌で、ヒト以外からは分離されていない。患者または保菌者から飛沫(ひまつ)感染するが、通常は鼻咽腔(びいんくう)や上気道の不顕性感染にとどまり、発病するのはごく少数である。潜伏期は2~4日で、鼻やのどに定着増殖後、血行を介して髄膜に達し、髄膜炎をおこす。多くは突然に頭痛、悪寒、高熱、嘔吐(おうと)などで始まり、熱は1、2日で38~40℃まで上昇し、中等度以上の場合は早期から意識混濁がみられる。また、頭の屈曲が不十分となる項部強直や膝(ひざ)を持って下腿(かたい)を伸展させようとしても膝をまっすぐに伸ばすことができないケルニッヒ徴候などの髄膜刺激症状、対光反射遅鈍や瞳孔(どうこう)左右不同などの眼症状も現れるほか、病初期に単純性疱疹(ほうしん)を併発し、溢血斑(いっけつはん)がみられることも多い。ときに下痢や腰痛、精巣炎や卵管炎を伴うこともある。両側副腎(ふくじん)に病変が及ぶ劇症型ではとくに急激な経過をとり、播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC=disseminated intravascular coagulation)を伴い、全身の皮下出血が顕著で、チアノーゼや血圧低下など循環系の虚脱をきたすが、これはウォーターハウス‐フリデリクセン症候群Waterhouse-Friderichsen syndromeとよばれ、髄膜炎菌以外の細菌でもみられる。この病型は小児に多くみられ、致命率が高く、48時間以内に死亡することが多い。
診断は臨床症状のほか、髄液の諸検査、とくに髄膜炎菌を証明することで決まる。治療にはペニシリン系の抗菌薬が第一選択である。かつては脳膜炎または流行性脳脊髄膜炎とよばれ、死亡率が高く、治っても知能の低下などの後遺症がみられ恐れられたが、化学療法の進歩によって予後もよくなった。
[柳下徳雄]
髄膜炎菌Neisseria meningitidisによる急性の髄膜炎。日本では法定伝染病の一つであり,法的には流行性脳脊髄膜炎といわれる。冬から春にかけて散発的に発生するが,ときに多発し流行する。幼児や小児に多い。日本では1965年以後届出数が激減している。髄膜炎菌はグラム陰性の球菌(塗抹染色ではソラマメ形の双球菌)で,白血球内にみられることが多い。髄膜炎菌は飛沫により伝播し,通常は鼻咽腔や上気道の不顕性感染にとどまるが,一部はリンパ管,血管を介して髄膜炎に進展する。潜伏期は1~4日,激しい頭痛,発熱,嘔吐,せん妄で発病し,項部硬直,ケルニヒ徴候などの髄膜刺激症状を伴う。ほとんどが菌血症を伴い,髄液は膿性で,多数の髄膜炎菌を認める。発疹,知覚神経過敏もしばしば認められる。激しい全身症状を示し,皮膚および副腎の出血が著しく,電撃的な経過をとるものをウォーターハウス=フリーデリクセン症候群Waterhouse-Friderichsen syndromeという。適切な化学療法により死亡率は減少し,視力障害,聴力障害などの後遺症も減少した。
→髄膜炎
執筆者:渡辺 一功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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