海国図志(読み)かいこくずし(英語表記)Hǎi guó tú zhì

改訂新版 世界大百科事典 「海国図志」の意味・わかりやすい解説

海国図志 (かいこくずし)
Hǎi guó tú zhì

中国,清末の魏源が著した海外事情紹介をも兼ねた地理書。魏源は第1次アヘン戦争(1840)のとき,捕虜になったイギリス兵の口述をもとに《英吉利小記》をつくってイギリス事情を紹介,翌年夏,欽差大臣両広総督を罷免された林則徐依頼により《海国図志》の編纂に着手した。これは林則徐訳《四洲志》(H. マーリ《地理学百科Encyclopaedia of Geography》(1834)の漢訳),林則徐訳《澳門月報》をはじめ漢訳された欧米の地理書や歴代の史書・地理書に載る外国の記述を編集し,各地域の地図を付したものである。しかし単なる地理書にとどまらず,いたるところに各国政治・風俗を記し,また中国自強の方策を提起したり,さらに火器艦船構造を図解している。1842年(道光22),まず50巻本を完成し,47年,増補されて60巻となり,52年(咸豊2),再増補されて100巻となった。この書の序に,〈夷(外国)の長技を模範にして夷を制御するために著した〉とある考えや,翻訳館・造船所・造兵局の創設といった提案は,20年後の洋務運動によって実現された。またアヘン戦争敗北は日本にも深刻な衝撃を与え,侵略の危機感から開国派をはじめとして憂国の志士たちは,この書をあらそって読んだので,54年(安政1)昌平坂学問所で60巻本の翻刻が出されたほか,部分的な翻刻も何種類か出され,当時の日本における外国事情の重要な情報源となっていた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海国図志」の意味・わかりやすい解説

海国図志
かいこくずし
Hai-guo tu-zhi; Hai-kuo t`u-chih

中国,清末の地理書。 19世紀前半までの世界情勢を記してある。魏源の著。道光 22 (1842) 年刊の 50巻本,同 27年刊の 60巻本,咸豊2 (52) 年刊の 100巻本の3種がある。歴代の地理歴史書,明代以後の西洋地誌,地図などを参照し執筆された。アヘン戦争後の民族的危機を鋭く意識して,富国強兵のための近代的軍備の創設,殖産興業の必要などを説いている。その一部は幕末日本で刊刻され,志士たちに影響を与えた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「海国図志」の解説

『海国図志』(かいこくずし)

魏源(ぎげん)が1842年に編纂した世界地誌。アヘン戦争で罷免された林則徐(りんそくじょ)が広東で集めた資料を利用したもので,当時の中国における外国最新事情であった。この書はかなりの部数が日本にもたらされ,また和刻本が出版されるほど,幕末の海防論に大きな影響を与えた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「海国図志」の解説

海国図志
かいこくずし

清末の学者魏源 (ぎげん) による地理書
1842年刊。林則徐の依頼により編纂に着手した。これは単なる地理書ではなく,各国の政治や兵器の構造なども図解している。彼の示した改革の方策は,洋務運動によって実現された。また当時の日本でも志士たちによって読まれた。

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世界大百科事典(旧版)内の海国図志の言及

【ブリッジマン】より

…林則徐が,幕僚にこの雑誌の記事を訳させて参考にしたことは名高い。この訳文はのち魏源の《海国図志》(初刊の50巻本は1844年刊)に利用され,翻刻によって日本でも広く知られた。カルバートソンと共訳した《新約全書》《旧約全書》(いずれも1863。…

※「海国図志」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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