海でできたすべての氷をいう。湖でできた氷を湖氷、河川でできた氷を河氷、氷河などのように陸でできた氷を陸氷とよび、それらのなかで水に浮かんでいるものを浮氷と総称する。
[赤川正臣]
真水は0℃で凍るが、海水は塩分があるため結氷温度が下がる。結氷温度は塩分が高いほど低く、塩分10(海水中の塩類の量をpsu=実用塩分単位で示した値。1982年以前は千分率‰=パーミルで表されていた)の水の結氷温度はほぼ零下0.5℃であるが、塩分が33になると零下1.8℃に下がる。
結氷の進行も塩分の濃度によって2通りになる。海の表面の温度が下がると、表面の水は密度を増して重くなり、下の軽い水と入れ替わる対流現象をおこす。塩分が24.7より低い水は、結氷点より高いある温度(たとえば塩分10で1.9℃)で最大密度となるので、表面から底までが結氷点より高い温度で対流が終わり、安定する。さらに表面が冷やされると、表面の水は密度を減じ、下の水より軽くなり沈まなくなる。そのために表面の薄い層は急速に結氷温度に下がって、表面から底に向かって結氷が進行する。
塩分が24.7より高い水は、結氷点より低いある温度(たとえば塩分33で零下3.1℃)で最大密度となる。したがって、最大密度の温度に下がる前に、対流によって全層が結氷温度になれば結氷が始まる。この場合も表面から凍るが、適当な刺激があれば海の中でも氷ができて浮かび上がってくる。海氷は塩分濃度の低い浅い海ほど、また冷却の大きい波の荒い海ほどできやすいことになる。
[赤川正臣]
海が凍る場合、最初、表面数センチメートルの層に晶氷(しょうひょう)という氷の結晶が生ずる。晶氷は集まって海面はスープ状(グリースアイス、氷泥)となり、風や波で海綿状に集合する(スポンジ氷)。この発達過程のものを新成氷と総称する。寒気がさらに加わると厚さを増しニラス(弾力のある固い氷)や氷殻となる。風や波で割れてぶつかり、縁がめくれ上がって、ハスの葉のような形になったものをハス葉氷(はごおり)という。氷が厚くなって厚さが10~30センチメートルのものを板状軟氷(ばんじょうなんぴょう)とよび、さらに発達したものを一年氷(ごおり)という。夏も融(と)けずに二冬(ふたふゆ)を経過したものは二年氷といい、二年氷以上のものを多年氷と総称している。海氷の大きさについては、氷盤(直径20メートル以上)、板氷(いたごおり)(20メートル以下)、砕け氷(2メートル以下)などに分類される。
漂流している海氷を流氷というが、その規模によって流氷野、流氷原、流氷帯などに分けられる。氷塊が圧迫を受けて重なり盛り上がったものを氷丘、それが連なったものを氷脈という。氷は融けると表面にパドルという水たまりができる。海氷のなかにはブラインという濃い塩水が閉じ込められているので、すきまのない淡水の氷に比べると弱く、強度は淡水氷の約3分の1ぐらいである。海氷の強度は海氷の塩分量が多く、温度が高いほど弱くなる。
[赤川正臣]
南極海、北極海およびその周辺が大部分であるが、アジアではベーリング海、オホーツク海、北海道沿海、日本海北部、ロシアでは沿海地方沿岸、中国では渤海(ぼっかい)周辺、北アメリカではグリーンランド周辺海湾、ハドソン湾、セント・ローレンス湾、ヨーロッパではバルト海、ボスニア湾、フィンランド湾などである。地球上の海氷域の総面積は約4000万平方キロメートルと推算されるが、これは全地球表面の約8%、全海面の約11%に相当する。北極海では、冬はその海域の約85%(約1200万平方キロメートル)が海氷に覆われ、その75%は中央部の多年氷である。したがって北極海の夏の海氷域は64%である。南極海の海氷域は大部分が一年氷で、冬から夏の間で約2000万平方キロメートルから約350万平方キロメートルへと大規模に変化する。オホーツク海は最盛期にはその約80%が海氷域となる。
[赤川正臣]
海氷は船舶の航行にとっては危険な障害物で、流氷による航行阻害、船体破損あるいは沈没などの海難事故も発生する。また、沿岸に押し寄せて港湾をふさいだり、漁業施設、海藻などに被害を与えることがある。海氷地域の国にとっては、海氷の動向、消長のいかんは産業経済、民生にも大きな影響を及ぼす。海氷は地球上の大冷源であるので、海氷の分布や氷量の変化は、海氷と大気と海洋との間の熱や運動のエネルギーの交換に影響を与えて、気象や海況の変化をもたらすことになる。異常気象の頻発、地球温暖化現象などで気候変動が大きな問題になっているが、海氷がどのように影響しているかが今後の研究課題となっている。海氷国では海氷の実況や予報を通報しているが、日本でも北海道の気象官署が海氷予報を実施しており、気象庁や海上保安庁では海氷図や海氷情報の無線模写放送(ファクシミリ放送)やインターネットによる公開を行っている。
海氷は招かれざる客のようであるが、氷海では漁業活動が制限されるので、魚貝類の資源保護にもなっており、氷塊に含まれる植物プランクトンは海の生物の重要な餌(えさ)となっている。また、流氷は北国の美しい自然現象として、北海道では冬の主要な観光資源でもある。
[赤川正臣]
『田畑忠司著「海氷」(増沢譲太郎・蓮沼啓一ほか著『海洋科学基礎講座4 海洋物理Ⅳ』所収・1977・東海大学出版会)』▽『田畑忠司著『北海道の自然7 流氷』(1978・北海道新聞社)』▽『小口高・神沼克伊・川口貞男・星合孝男編『二つの極――北極・南極からのメッセージ』(1989・丸善)』▽『国立極地研究所編『南極の科学8 海洋』(1989・古今書院)』▽『青田昌秋著『白い海、凍る海――オホーツク海のふしぎ』(1993・東海大学出版会)』▽『小野延雄・石川信敬・新井正・若土正暁・青田昌秋著『基礎雪氷学講座6 雪氷水文現象』(1994・古今書院)』▽『福地章著『海洋気象講座』9訂版(2003・成山堂書店)』
海水が凍った氷。広い意味では海に流れ出た河氷や氷山なども含めて海で見られるすべての氷をいう。1気圧の下では,淡水は4℃で密度が最大になり,0℃で凍る。海水は1kg中におよそ35gの塩分を含むので,-1.9℃くらいまで氷点が下がる。淡水の池や湖では4℃になるまでは対流を起こしながら冷えていくが,4℃以下になると表面に冷たい水が浮かぶようになり,それが静かに冷やされて薄氷が張り始める。海水の塩分濃度では密度最大の温度が氷点よりも低いので,氷点に達するまで対流が続き,海は深くまで冷やされながら凍っていく。海水が凍るとき,雪の結晶によく似た氷の結晶がまず水中で生まれて水面に浮かぶ。氷の結晶が互いにくっつき合って水面をおおうと,それから樹枝状の結晶が下に伸び始め,海氷はしだいに厚さを増していく。風の強いときには海は激しくかき混ぜられて,水中で生まれて浮かび上がってくる氷結晶の量が増し,グリース状の氷になる。
海水が凍る場合でも生まれる氷の結晶は塩分を含まない。塩分は濃い海水としてはき出されるが,その一部は結晶と結晶のすきまに閉じ込められる。この濃い海水はブラインbrineと呼ばれ,海氷中に液体のまま散在する。凍ってまもない海氷を取り上げて溶かした水は,1kg中に10~20gの塩分を含む。海氷の塩分はしだいにぬけ落ちて海水の2割くらいの値に落ち着く。海氷中のブラインはその温度を氷点とする塩分濃度を保つので,海氷の温度が変わるとブラインから氷ができたり周囲の氷を溶かしたりする。この氷の量の増減には潜熱の収支を伴うから,海氷は温度を変えにくい性質をもつ。海氷の強度などの諸性質も海氷中のブライン量が温度によって増減する影響を強く示す。
海氷の成長初期に波やうねりがあると,その波長の半分くらいの大きさの氷の塊ができ,それらが揺られながら互いにぶつかり合って縁のまくれたはす葉氷pancake iceをつくる。はす葉氷は互いに凍りついて大きなはす葉氷へと移行しながら厚さを増し,やがて大きなひとつの氷野を形成する。海氷は世界の海の約1割の面積で見ることができる。その大半は夏までに溶けきる一年氷が見られる海で,オホーツク海,ベーリング海,バルト海などがその代表例である。北極海や南極海には夏になっても溶けきらずに次の冬を迎える海氷があり,二年氷,多年氷と呼ばれる。南極海では冬に大きく広がる一年氷の面積は南極大陸の面積を上回る。ひと冬で生長できる平たんな海氷の厚さは,北海道のオホーツク海岸で40cmくらい,オホーツク海北部で1.2mくらい,北極海で2mくらいである。海氷はその面積に比べると極めて薄いから,強い風が吹くと割れたり氷が積み重なったりして氷丘脈や氷丘hummockをつくる。北極海の氷丘は厚さが40mにも達する。岸と陸続きになって動かない海氷を定着氷fast ice,岸から離れて動き得る海氷を流氷(パックアイスpack ice)という。
→流氷
執筆者:小野 延雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報
…南極全域では2700万羽といわれる。エンペラペンギンは57万羽といわれ,主として海氷上に集団営巣地をつくり,冬季に産卵し雛を育てる。飛翔性海鳥類は約40種で,アホウドリ科,ミズナギドリ科,ウミツバメ科,トウゾクカモメ科,カモメ科などに分かれる。…
※「海氷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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