氷山(読み)ひょうざん(英語表記)iceberg

翻訳|iceberg

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

氷山
ひょうざん
iceberg

氷河の末端部や棚氷(たなごおり)の一部が海上に流れ出し、漂流や座礁している大氷塊。おもに南極大陸、北極圏諸島、グリーンランドの氷河地域で形成される。

[赤川正臣]

氷山の形状

海面上の高さが5メートル以下1メートル以上、面積が100~300平方メートル程度のものは氷山片、高さが1メートル以下で面積20平方メートル程度のものは氷岩とよんでいる。氷山は形状によって卓状氷山(テーブル形氷山)、ドーム形氷山、傾斜形氷山、尖塔形(せんとうがた)氷山、風化形氷山、および不規則な形の氷河氷山に分けられる。海面上の高さと海面下の深さとの割合は、その形によって差がある。頂上部が古い雪でできている南極海の典型的な卓状氷山ではほぼ海面上1、海面下5の割合である。北極海の氷山はほとんど氷であるが、その不規則な形のため平均して1対3の割合である。

 氷山が小さくなるのは、分裂、融解と波による侵食のためである。氷山が分裂するとき、傾斜が変わったり転覆したりすることがある。融解は冷たい海域ではおもに喫水線でおこり、温かい海域では下のほうから溶ける。氷山の寿命は、平均して南極海で12~14年、北半球で2~4年といわれている。氷山の漂流にはおもに海流と風が作用するが、喫水が深いため海流の影響が大きい。南極海では大陸沿岸部で西向き、沖合いでは東向きに漂流する。風の作用は氷山の海面上に出ている部分の割合で異なり、沈んでいる部分が浅いものほど強い影響を受ける。南極海での観測では、風速との比は約2%、偏角は左へ55度程度である。

[赤川正臣]

氷山の分布

南極大陸の氷床の規模は約1250万平方キロメートルで、北半球のそれの約6倍と見積もられている。沿岸部では、積雪と氷河の海へ張り出した部分が平らな棚氷となり、絶えず分裂して海に流れ出して氷山をつくっている。したがって、南極海には氷山が多く、北半球の約5倍、20万個程度といわれ、卓状が多い。1963年(昭和38)には昭和基地沖で175キロメートル×75キロメートルもの大氷山がみられた。南半球の氷山分布の北限は、太平洋側南緯50度、インド洋側45度、大西洋側35度付近であるが、1894年4月30日に、南緯26度30分、西経25度40分の大西洋上で観察された記録がある。

 北極海のヨーロッパ大陸側には氷河が少ない。大陸から大西洋側の諸島にも氷河はあるが、そこから生まれる氷山はあまり多くない。北極圏内の氷山の大部分は、グリーンランド東北岸とバフィン島の氷河からできる。南極大陸の平坦(へいたん)な棚氷ではなく、氷河の末端が河口で分割されてできるので、北極海の氷山の頂上は平らでないのが普通である。しかし、カナダのエルズミア島北西岸の棚氷からは比較的平らな氷山ができて、アラスカの沖まで流れてゆくことが多い。グリーンランド東岸からの氷山は、東グリーンランド海流に運ばれて同島南端付近に達する。西グリーンランド氷河からは毎年約7500個の氷山が分離し、平均してその5%くらいが北緯48度以南に、さらにその10%くらいが43度以南に漂流する。1926年6月5日にバーミューダ島東沖で長さ9メートル、幅5メートルの氷岩に出会ったという記録がある。

 北極海を漂流する大きく平坦な氷山は氷島とよばれている。海面上約5メートル、厚さ30~50メートル、面積は1000平方メートル(大きいものは約500平方キロメートル)以上である。1950年にアメリカ空軍によって初めて発見されたが、アメリカ、ソ連によりかっこうの漂流観測所として利用された。

 氷山は船舶の航行にとっては危険な障害物で、史上最大の海難は1912年4月15日未明、イギリスの豪華客船タイタニック号の処女航海におけるニューファンドランド沖での氷山衝突による沈没事故である。これを契機に国際氷山監視機構が設けられ、氷山の監視と情報の通報が行われている。

 地球温暖化現象に関連して、南極棚氷の崩壊や極圏氷河の衰退が注目されている。1999年8月、南アメリカ最南端のホーン岬と南極大陸との間のドレーク海峡に巨大氷山(約76キロメートル×約38キロメートル)が漂流し、また2002年3月には南極半島東側のラルセンB棚氷の主要部分が崩壊(面積3250平方キロメートル、過去30年間で最大)し、何千もの氷山にわかれたことが明らかになった。

[赤川正臣]

『楠宏ほか編『南極』(1973・共立出版)』『国立極地研究所編『南極の科学』全9巻(1983~1991・古今書院)』『小口高・神沼克伊・川口貞男・星合孝男編『二つの極――北極・南極からのメッセージ』(1989・丸善)』『井上治郎編著『極地気象のはなし』(1992・技報堂出版)』『バーバラ・テイラー著、ジェフ・ブライトリング写真、幸島司郎訳『ビジュアル博物館57 北極と南極』(1995・同朋舎出版)』『バーナード・ストーンハウス著、神沼克伊・三方洋子訳『北極・南極――極地の自然環境と人間の営み』(1996・朝倉書店)』『桐生広人著『消える氷河――地球温暖化・アラスカからの告発』(1999・毎日新聞社)』『松岡弓祐撮影『グリーンランド 氷山生誕――松岡弓祐写真集』(2000・海鳥社)』『永延幹男著『南極海 極限の海から』(集英社新書)』


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百科事典マイペディアの解説

氷山【ひょうざん】

海上に浮遊する陸起源の大きな氷塊。氷河の末端が割れて生まれる氷河氷山と棚氷が分裂してできる卓状氷山に分類される。前者は北極,特にグリーンランド付近に多く,氷河がとらえた岩片などを含む。後者は南極に多く,頂が平らで大型のものが多い。いずれも海流にのり,かなり低緯度地方まで漂流することがある。全体積の85〜90%は海面下にあり,機器の未発達なころには航海の障害となった。現在では良質の淡水資源としても注目されている。
→関連項目大陸氷河

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海の事典の解説

氷山

氷河や陸氷が海に押し出され、その先端が分離して形成される巨大な氷塊を氷山という。南極海の氷山は主として平坦な棚氷から分離したもので、卓状型の巨大 なものが多く、長さが100kmを越し、幅も数100mに達するものがある。北極域の氷山のほとんどは、氷河として運ばれてきた氷河氷から分離したもの で、ピラミッド型のものが多い。北極海にも卓状型の氷山があり、特に面積が数百平方kmに達するような巨大なものは氷島と呼ばれる。 (永田

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

氷山
ひょうざん
iceberg and sea ice

陸氷から分離して海面を漂う氷塊。棚氷などから分れた卓状氷山と谷氷河氷舌末端から離れた尖頭氷山あるいは氷河氷山がある。なお狭には氷塊が海面上 5m以上ある場合に限られ,それ以下のものは氷山片,さらに小型のものを氷岩と呼ぶ。水面上の容量の7倍近くが水面下に隠れており,流氷限界よりさらに低緯度まで海流によって運ばれ,航海上危険視されている。なお陸氷に由来するため,海上における淡水の供給源に利用されることもある。

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精選版 日本国語大辞典の解説

ひょう‐ざん【氷山】

〘名〙
① 高緯度地方の海上を浮遊する巨大な氷塊。氷河の一部が海に流れ出たものと陸地を囲む氷壁が砕けて浮遊するものとがあり、海水が凍結してできた海氷とは異なる。〔五国対照兵語字書(1881)〕
② 氷の山。
※通俗赤縄奇縁(1761)三「西風はげしく吹て、積雪ことごとく氷山(ヒャウザン)と変じ」

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世界大百科事典 第2版の解説

ひょうざん【氷山 iceberg】

氷河や大陸氷の氷が海に押し出されて,割れて流れ出した大きな氷塊。この氷は陸上に降り積もった雪が長い年月かかって氷化したものであるから,海水の凍った海氷とは成因が異なり,塩分を含まない。氷の中には,積雪時のすきまの空気が圧縮された気泡の姿で閉じ込められている。南極大陸周縁には大陸氷が張り出して海に浮かんだ棚氷ice shelfが数多く見られ,それが割れると上面の平らな卓状氷山となる。その大きなものは,海面上の高さが100m,幅が150kmにも達する。

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