体を循環する体液は,脊椎動物では血液とリンパ(リンパ液)の2種に分けられる。血液が心臓の拍動で動・静脈を回り,途中の毛細血管部で組織の間を流れる体液と互いに交流するのに対し,リンパは,この体液の余り分として専用のリンパ管に吸収され,静脈系まで送られてその循環血流にとり込まれる。この体液の溢れた組織の間をかりに湿地帯とすれば,血管はそこを流れる小川に,リンパ管はそれと平行した排水溝にそれぞれたとえることができる。リンパ系とは,このようなリンパとリンパ管さらに付属諸器官を総称したものであるが,これらは系統発生的に古生代の昔,脊椎動物が上陸を敢行したとき,えらの循環が消失して心臓の圧力が直接大動脈から全身の毛細管におよび,その結果,そこからの血漿(けつしよう)の漏出がにわかに増えたことによってできたものといわれる。初め両生類では,原始のリンパ管が極細の網の目をつくり,その一部からつくられたリンパ心臓のゆるやかな収縮によって,管の中のリンパは,体の地区ごとにそれぞれの静脈系に少しずつ送り込まれるが,やがて爬虫類から鳥類,あるいは哺乳類への進化とともに,それら全身のリンパはしだいに胸管と呼ばれる本幹に合流し,ついには心臓近辺の静脈の1ヵ所から全身を回る血流の中に吸い込まれることになる。このとき,拍動性のリンパ心臓に代わって,管の節目ごとにつくられた静脈と同じ弁の働きによって,そこではリンパの逆流が防止され,とくに哺乳類では,途中の各所に挿入されたリンパ節,いわゆるリンパ腺の関所によって,流れに混入した外敵の一つ一つがチェックされる。
リンパ節では,こうした異物の免疫にたずさわる特殊な細胞すなわちリンパ球が産み出されるが,系統発生的に,この細胞の本来の故郷は脊椎動物の消化管の前端と後端の壁の内に,時期を違えて形成されたことが知られている。初めのそれが,古生代の魚類の祖先である円口類の鰓孔(さいこう)の壁に,胸腺のリンパ組織として初めてその姿を現すのに対し,あとのそれは,中生代の爬虫類から分かれた鳥類の総排出腔の壁に,ファブリキウス囊のリンパ組織として,前者とは対極的な形を浮かび上がらせる。免疫学の研究によれば,この前後のリンパ組織からは,T細胞およびB細胞という互いに機能の異なったリンパ球が産み出され,それぞれ独自の方法で外敵に対処することがいわれているが,これら新旧2種の免疫細胞は,系統発生の途上あいついで現れる上記以外のどのリンパ組織においても,盛んにつくり出される。とくに,生後まもなく胸腺の退化が起こり,そのうえ生まれつきファブリキウス囊をもたぬ哺乳類では,両者に代わって,リンパ節が,脾臓などとともに,これらのリンパ球を産み出す主要な源となってくる。
→循環系
執筆者:三木 成夫
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…さらに血液は,体液の浸透圧や水素イオン濃度の調整,体液の組成の均等化や体温の均一化にも関与している。循環系には血管系のほかにリンパ系がある。リンパ管のなかを流れるリンパ液は,血液の液性成分が血管から組織中へ滲出し,組織間隙を満たしたのち,開放したリンパ管へ吸い上げられた液体で,細胞成分としてはリンパ球を含み,リンパ本管,胸管を経て再び血管中に回収される。…
※「リンパ系」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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