改訂新版 世界大百科事典 「サンゴ」の意味・わかりやすい解説
サンゴ (珊瑚)
coral
花虫綱八放サンゴ亜綱サンゴ科Coralliidaeに属する腔腸動物の総称であるが,広義には六放サンゴ亜綱のイシサンゴ類やツノサンゴ類,ヒドロ虫綱のギサンゴ類などが含まれる。広義のサンゴは一般に暖海に産するが,アカサンゴやモモイロサンゴなどの,いわゆる〈本サンゴ〉は水深200m内外の海底に着生し,イシサンゴ類は水深10mくらいまでの浅海に広がっている。
八放(八射)サンゴ類にはクダサンゴ,ウミトサカ,アカサンゴ,イソバナ,ヤギ,ウミエラなどが含まれる。8本の触手をもったポリプが無性的に増えていき,多くのポリプからなる樹枝状の群体をつくる。おのおののポリプは上端に口が開き,そこから続く胃腔の中は8枚の隔壁に仕切られている。ポリプは微小なプランクトンなどを触手でとらえて口へ運ぶが,肛門がないので,消化されない物を再び口から出す。ポリプは共肉内に埋もれていて,ポリプの下方は管糸で互いに連絡している。ポリプの体の中には微小な石灰質の骨片が含まれているほかに,ポリプの底部から別な骨片が生じ,これが石灰性物質によって膠着(こうちやく)されて,体の中心部を通る軸骨を形成していく。軸骨は非常に硬く,この部分をいろいろな装飾品に加工している。
六放(六射)サンゴ類には,イソギンチャク,イシサンゴ,スナギンチャク,クロサンゴ,ハナギンチャクなどが含まれる。イシサンゴ類はサンゴ礁を形成する仲間であって,ミドリイシ,クサビライシ,キクメイシ,ノウサンゴ,イボヤギなど多くの種類があり,暖海の浅海底の景観を彩り,またこのサンゴ礁は魚をはじめ,各種類の動物が生活している場ともなっている。ポリプの触手は6あるいは6の倍数本が口盤の周囲に並んでおり,胃腔内は6の倍数の隔壁が生じている。おのおののポリプが外方に石灰質を分泌して莢(きよう)をつくりながら,シカ角状,平板状,塊状などの群体を形成していき,直径2~3mの群体になるのも珍しくない。莢の形,ポリプの形や色彩は種類によって異なり,ハナガササンゴではポリプの長さが3~4cmにものびる。色とりどりのポリプが潮の流れで動いているようすはみごとである。イシサンゴ類はポリプを取り除いて骨格を置物にするくらいで,装飾品などに加工はできない。
生態・利用
装飾品にされる本サンゴにはアカサンゴCorallium japonicum,モモイロサンゴC.elatius,シロサンゴC.konojoi,ベニサンゴC.rubrumなどがあり,土佐沖,南西諸島から台湾,小笠原諸島,ミッドウェー諸島に分布している。ほとんどのものは水深100~300mの海底に着生しているが,ミッドウェー諸島沖では1979年以来水深1000~1500mの海底から採取されていて,〈ミッド赤ボケ〉とか〈ミッド白〉などの慣用名で呼ばれている。
アカサンゴには表裏の区別があって,側面から裏面に小枝や多くの小突起をだして一平面に広がり,大きなものでは高さ30cmほどになる。土佐沖や小笠原で採集され,地中海では現在ほとんどとれなくなったといわれる。
イシサンゴ類が成育するのには海水の水温が20℃以下にならず,塩分が高く,海水が澄んでいることが必要である。それゆえに緯度が比較的北方であっても暖流の影響下にある海域にはサンゴ礁が見られ,反対に赤道に近い緯度にあってもベンガル海流下のアフリカ西海岸やペルー海流下の南アメリカ西海岸にはサンゴ礁が発達しない。日本では与論島や沖縄の海域にサンゴ礁がよく発達していて,干潮時には広い面積にわたって露出する。
サンゴ礁を形成しないジュウジキサンゴやニホンキサンゴなどは水温が低い海底にも産し,これらが群集をつくると天然魚礁になり,この場所で刺網,はえなわや一本釣りなどの漁業が行われる。
→サンゴ礁
執筆者:今島 実
化石
一般にサンゴと呼ばれているものの中で,化石として知られているグループには,ヒドロ虫綱に属するヒドロサンゴ類(アナサンゴモドキなど),花虫綱に属する床板サンゴ類,四放(四射)サンゴ類,六放(六射)サンゴ類および八放(八射)サンゴ類がある。この中で地質学的,古生物学的にとくに重要なのは,床板サンゴ類,四放サンゴ類および六放サンゴ類の三つのグループで,時代決定に有効な示準化石,あるいは温暖な環境を示唆する示相化石として役だつ種属が多く含まれている。
床板サンゴ類は群体を形成する着生の腔腸動物である。古生代と中生代のみから報告されている絶滅したグループであるが,大部分の種属は古生代に産出する。四放サンゴや六放サンゴよりも単純な骨格構造をもっており,サンゴ個体に床板がよく発達することからこの名まえがある。古生代においては群体四放サンゴと共産し,しばしば化石礁の主要な構成生物となっている。オルドビス紀から二畳紀にかけて知られており,日本でもシルル紀から二畳紀にわたる古生代石灰岩に多産する。床板サンゴ類の代表属としては,ファボシテス(ハチノスサンゴ),ハリシテス(クサリサンゴ),ヘリオリテスHeliolites(ヒイシ(日石)サンゴ)などがある。また従来床板サンゴ類に含められていた刺毛サンゴ類(日本の後期古生代石灰岩に知られるケーテテスChaetetesやジュラ紀鳥巣石灰岩に多産するケーテトプシスChaetetopsisなど)は現在海綿動物門,硬骨海綿綱に属するとの考えが支配的である。このことから,床板サンゴ類の地史的分布は古生代に限られ,中生代には存在しなかったとする意見も強い。
四放サンゴ類も床板サンゴ類と同様花虫綱の一グループをなし,古生代オルドビス紀から二畳紀にかけて産出する絶滅したサンゴ類である。軟体部については,化石として保存されないためよくわかっていないが,骨格構造からみて六放サンゴ類と類似したポリプをもっていたものと推定される。主要骨格の一つとして胃腔をくぎる隔壁があり,六つの原隔壁形成後,隔壁は4ヵ所に限って規則的に挿入されていく。名まえはこの隔壁挿入様式に由来している。外形は六放サンゴ類と同じく変化に富んでおり,種属によってその形態は異なっている。大きく群体をつくるものと単体に区分されるが,前者は石灰岩に産出し,よく化石礁の主役をにない,示相化石としての意義が大きい。一方,単体四放サンゴは石灰岩のほかに砂質岩,泥質岩からも産出し,その生息環境は群体のものより大きな幅があったものと推定される。日本ではシルル紀から二畳紀にわたり,それぞれの紀に特徴的な種属が報告されており,示準化石として有効なものが多い。その例としてカルセオラCalceola,ケイチョウフィルムKueichouphyllum(貴州サンゴ)やワーゲノフィルムWaagenophyllumなどがある。
六放サンゴ類は中生代三畳紀から現在まで知られている花虫綱の一グループで,過去,現在を通じてサンゴ礁を形成してきたもっとも重要なグループである。四放サンゴ類とは生存した時代が異なるので共産しない。四放サンゴ類と同じく群体と単体のものとがある。現生の群体サンゴは,その大部分が藻類との共生関係をもつ造礁性サンゴで,水温,水深,塩分濃度などの限定された環境に生息しているので,化石サンゴの古生態を復元するうえに大きな手がかりを与える。これに対して単体サンゴは地域による生息環境の変化が大きく,数千mの深海にも生息しており,砂質岩,泥質岩産の地質時代の単体サンゴの生息深度や古環境推定に一定の目安を与えているが,造礁性サンゴほどの指示者にはならない。日本では三畳紀以降の各地質時代に知られているが,とくにジュラ紀鳥巣石灰岩に多産する。代表的な属としてはテコスミリアThecosmilia,タムナステリアThamnasteriaおよびスティリナStylinaなどがある。また琉球諸島に分布する第四紀の琉球石灰岩にはサンゴ礁堆積物を含み,化石六放サンゴを豊産するが,ほとんど現生サンゴと同じ種属から構成されている。このほか従来腔腸動物とされていた層孔虫類も化石として中・古生代石灰岩に産出するが,その分類上の位置についてはまだ定説がなく,海綿動物に属するとする意見もある。
執筆者:森 啓
宝飾としての利用
サンゴは,サンゴ虫のつくる有機質の宝石として,真珠,コハクとともに通常の鉱物質の宝石とは区別される。真珠とともに日本が世界有数の供給国であるため,日本を代表する宝石といわれている。主成分は炭酸カルシウムCaCO3で,それに3%前後の炭酸マグネシウムMgCO3が加わっている。モース硬度は3.5,比重は2.6~2.7である。
サンゴはヨーロッパの新石器時代(前5000年以前)の洞穴の中より装身具の破片が出土しており,古くから装飾用として使われていたことがわかる。また古来,サンゴなどの赤い宝石は血を連想させることから,傷を防ぐ効用があると信じられた。また出産を迎える女性のだいじな護符でもあった。さらに薬物としての効用も古くから信じられ,中国の古い薬学書である《本草綱目》には止血などの効能が記されている。
日本へのサンゴの伝来は,仏典の中の七宝の一つに加えられているとおり,仏教伝来とほぼ期を同じくし,地中海産のサンゴがシルクロードを経て運ばれてきたものと思われる。正倉院には聖武天皇が東大寺大仏開眼式に用いたという珊瑚玉のついた王冠が納められている。一方,シルクロードに沿う地域の各民族の間では,信仰に基づいて多量の珊瑚玉を日常的に着用することが行われた。チベット,ネパール,インド北部,パキスタン北部の高地民族間に,今日まで同様の習俗が伝えられている。中国から日本へ運ばれた地中海産のサンゴは胡渡(こわたり)珊瑚と呼ばれ(胡とはペルシア地方の意。のちには古渡珊瑚とも書かれた),珍重された。
日本近海では幕末に近い1812年(文化9),土佐沖ではじめて採取されたが,一時は土佐藩の御止め品として採取が禁止されたので,本格的に採取されるのは明治以降である。これら日本産サンゴは輸入品の〈古渡〉に対して〈土佐〉と呼ばれた。そして〈古渡〉の時代から日本髪の根掛け,簪(かんざし)玉,帯留,根付けなどに使われ,江戸時代以降は庶民の間でも広く愛用された。現在も各種の装身具に用いられ,3月の誕生石に加えられている。
サンゴが着生する岩礁,広い意味ではサンゴ採取の海域を,水深に関係なく曾根(そね)と呼び,底引網の一種であるサンゴ網を使ってサンゴ原木が採取される。原木は採取時の状態によって,(1)海底に着生し,サンゴ虫が木に付着して成育している〈生木(なまき)〉または〈新木(しんき)〉,(2)木は海底に固着しているが,サンゴ虫はすでに枯死している〈枯木(かれき)/(しやれぎ)〉,(3)海底に倒れて,木の外部が腐食をうけている〈落木(おちぎ)〉の三つに分類される。
宝飾用に使われるサンゴは八放サンゴ類のうちの〈貴重サンゴ(いわゆる本サンゴ)〉で,色合いによって,赤色,桃色,白色に三大別される。そしてそれらの中間の色を通常〈ボケ〉と呼ぶ。赤地のボケを〈赤ボケ〉,桃色地のボケを〈本ボケ〉という。淡いピンクの〈本ボケ〉は古くから珍重され,ヨーロッパではこの色をエンジェル・スキン(天使の肌)と表現している。また白地のボケを〈マガイボケ〉などと呼ぶことがある。おもに高知県の沖合で採取される濃赤色の血赤(ちあか)サンゴはオックス・ブラッド(牡牛の血),紅(べに)ともいわれ,珍重される。赤白の小斑点のあるものは〈鹿の子(かのこ)〉と呼ばれる。またボケの一種に〈ガーネット〉,赤白の縞目ないし斑のあるものに〈スカッチ〉などの新しい称呼も用いられている。
産地としては地中海が古くから著名であったが,現在はほとんど枯渇した状態で,日本近海および南西太平洋海域が世界の供給地であり,日本船ならびに台湾船がおもに採取にあたっている。水揚港および加工地は高知県宿毛(すくも),高知,長崎県福江島富江であり,台湾では東海岸の蘇澳(スーアオ)および台北である。
加工品の形からは玉,チウタケ(扁平なもの),ナツメ(長形のもの),三ぶ六(さぶろく)(小玉のもの)などに分類される。クロサンゴ(ブラック・コーラル)と称して商品化しているものは,六放サンゴ亜綱のウミカラマツ類の骨軸を加工しているもので,貴重サンゴとは別種のものであり,価格も低い。
執筆者:近山 晶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報