源氏物語/おもな登場人物(読み)げんじものがたりおもなとうじょうじんぶつ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

源氏物語/おもな登場人物
げんじものがたりおもなとうじょうじんぶつ

葵の上(あおいのうえ)
 左大臣の長女。母は大宮。光源氏と結婚。いかにも権門の深窓の女君らしく端正であるが、それが源氏には冷たく取りすました麗人として心隔てられる。結婚9年目に初めて懐妊。夕霧を出産してまもなく、六条御息所(みやすどころ)の物の怪(け)に襲われて急死してしまう。
明石の君(あかしのきみ)
 明石の入道と尼君のひとり娘。父入道の思惑から須磨(すま)流離の光源氏と結ばれる。源氏の帰京後に姫君(明石の中宮)を出産するが、源氏の意向から、姫君を紫の上の養女にと手離す。のちに転居した源氏の六条院冬の町で、姫君の入内(じゅだい)を機に姫君との対面が許され、さらに姫君が若宮を出産し、六条院に占める位置が高まってくる。受領(ずりょう)層とよばれる中流家庭の娘の、厳しい忍従と自己制御を代償とした無類の栄華の人生が証されている。
秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
 前東宮(とうぐう)の姫君。母は六条御息所。母に死別して孤立無援となった彼女を、光源氏が養女として冷泉(れいぜい)帝に入内させ、六条院の秋の町を里邸とする。源氏の彼女への執着心がこれを後宮(こうきゅう)第一の后(きさき)とすべく積極的に支援させ、冷泉王朝を支えるかけがえのない存在となった。
朝顔の姫君(あさがおのひめぎみ)
 桃園式部卿宮(ももぞのしきぶのきょうのみや)の姫君。終生光源氏の求愛を拒み通した物語中の特異な人物。しかし源氏に心ひかれ、彼に自分の心の底の見透かされるのを恐れていた。
浮舟(うきふね)
 宇治八の宮の三女。母は八の宮の侍女中将の君。大君(おおいぎみ)・中の君の異母妹。幼いころ母が常陸介(ひたちのすけ)の後妻となるのに従って東国で育つ。物語には、薫(かおる)にとっての、亡き大君の形代(かたしろ)として登場。薫の世話を受け宇治に住まうが、一方では匂宮(におうのみや)の強引な恋の虜(とりこ)ともなる。苦悶のすえ、宇治川への投身を決意。しかし入水前に失心して倒れていたのを横川(よかわ)の僧都(そうず)一行に救われ、仏道修行と手習いに紛らわす日々が始まる。のちに薫が彼女の弟を使者として派遣するが、以前の愛欲の苦悩に戻るのを恐れて、泣きながら対面を拒んだ。この女君は、物語最後の、愛と救済の主題を担った人物といえよう。
空蝉(うつせみ)
 衛門督(えもんのかみ)の娘。両親とも死別。老齢の伊予介(いよのすけ)の後妻となる。方違(かたたがえ)に訪れた光源氏と一夜を契る。後日の源氏の接近には固く身を閉じて逃れた。貴顕源氏との接触が、かえって自己の運命の非情を思い知らせたことになる。
大君(おおいぎみ)
 宇治八の宮の長女。八の宮の死後、薫からの求愛が強まるが、それを拒み通したまま若い生涯を閉じる。かたくななまでの結婚拒否の論理は、生前の父宮の厳しい訓戒に基づくが、さらに妹中の君と結ばれた匂宮の不誠実さも一因になっている。薫との好もしい関係を永続させようとすれば、かえって結婚を断念するほかないとも思う。
朧月夜の君(おぼろづきよのきみ)
 右大臣の六女。弘徽殿大后(こきでんのおおきさき)の妹。もともと春宮(とうぐう)(朱雀(すざく)院)への参入が予定されていたが、偶然にも光源氏と契ってしまう。女御(にょうご)としては入内できず、女官の最高位の尚侍(ないしのかみ)として朱雀帝の寵愛(ちょうあい)を受ける。しかしその後も源氏との密会が繰り返され、それが源氏の須磨退去の一因ともなった。
(かおる)
 光源氏の正妻女三の宮(おんなさんのみや)と柏木(かしわぎ)の不義の子。己(おの)が出生を疑って、若くして道心を抱いていた。宇治の八の宮の俗聖ぶりにあこがれて親交するうちに、姫君たちにも心ひかれる。道心を身上としながら恋の遍歴をたどることになる。八の宮の死後、宮の彼への遺託を盾に大君に迫るが、彼女は結婚不信の念を強めて拒み通した。やがて大君も死去、悲嘆に暮れる。おりから権大納言(ごんだいなごん)に昇進して女二の宮と結婚。同じころ、浮舟と巡り会い、宇治に住まわせる。しかし浮舟が匂宮とも関係のあることを知って憤慨する。やがて浮舟失踪(しっそう)の報に接して、女君を次々と失わねばならぬ宿世(すくせ)を悲嘆した。薫という人物は、現世に懐疑的でありながら、現世の繁栄に浴して恋の成就をも願望している。しかしその矛盾に分裂する個性ではなく、むしろ調和的に生きようとする。
柏木(かしわぎ)
 頭中将(とうのちゅうじょう)の長男。良家の子息らしく気のいい若者。院鍾愛(しょうあい)の皇女との結婚で栄達を願う権勢志向からこの女宮にあこがれたが、女宮が光源氏の正妻に収まってもあきらめられず、しだいに恋の純粋な感情が増殖していく。ついに女三の宮に近づき契りを結んでしまい、のちに源氏に知られる。恋に陶酔する一方では権勢家源氏を裏切る罪に恐懼(きょうく)し、悩乱の果てに死の床につく。
桐壺院(きりつぼいん)
 俊秀の人材を輩出させた聖代の帝といわれる。溺愛(できあい)した桐壺更衣(きりつぼのこうい)の忘れ形見が光源氏。その源氏への皇位継承がかなわなかったかわりに、源氏と瓜(うり)二つの新皇子(実は源氏と藤壺の密通の子、後の冷泉院)を立坊させる。この桐壺院の皇統への意思が冷泉王朝を実現させ、源氏の政界復帰を可能にした。
弘徽殿大后(こきでんのおおきさき)
 右大臣の娘。朧月夜の君の姉。桐壺院の女御として早くから入内、後の朱雀院らを出産。帝の桐壺更衣への溺愛と光源氏の誕生に危機感が募り、激しくこれを嫉妬(しっと)した。この人物の生涯は、敵対勢力への激しい嫉妬と憎悪で塗りつぶされている。これは、外戚(がいせき)右大臣家の興亡を女性的な感性によって端的に表現したものともいえる。
末摘花(すえつむはな)
 常陸宮(ひたちのみや)の晩年の娘。光源氏は、好色(すき)心を高ぶらせて逢(あ)ったこの女の、意外なまでの醜貌(しゅうぼう)に驚いた。しかし不憫(ふびん)さが募り、終生これを後援することになる。物語随一の醜女であるばかりか、しかも古風で現実に適応しがたい不器用の女であった。それを気長に庇護(ひご)し続けるところに、源氏の「いろごのみ」の美徳もあるとされる。
朱雀院(すざくいん)
 桐壺院の第一皇子。母は弘徽殿大后。源氏・藤壺・左大臣方に敵対する右大臣一派のよりどころの帝王。心弱い性格が、その傀儡(かいらい)的な存在を許した。
玉鬘(たまかずら)
 頭中将の娘。母は夕顔。母と死別後、幼時筑紫(つくし)に伴われ、20歳を過ぎてから上京。これを知った光源氏は、実父にも内緒で、養女として六条院に迎えた。快活で親しみやすい性格と聡明(そうめい)な判断力を備えているが、養父源氏と実父頭中将の確執のなかで、しかも養父から懸想されるという特異な体験に生かされた。
頭中将(とうのちゅうじょう)
 左大臣の長男。母は大宮。良家の子弟らしく明るくちゃめっ気のある若者で、同腹の葵の上が光源氏の正妻であるという点からも源氏ととくに親しく交わった。しかし政界に重きをなし、長女弘徽殿女御が源氏の後援する秋好中宮に圧倒されるころから、打算的な性行をみせ、源氏に対抗心を激しく燃やす。そうした生き方には、おのずから権門の家系を維持する立場が主張されていよう。
匂宮(におうのみや)
 今上(きんじょう)帝の第三皇子。母は明石の中宮。薫とは対照的に、好色的で行動に転じやすい刹那(せつな)的な情熱の持ち主。中の君と結ばれるが、のちに、中の君に身を寄せた浮舟に懸想、ついに契りを結ぶ。浮舟の苦悩のもととなった。
花散里(はなちるさと)
 桐壺帝時代の麗景殿(れいけいでん)女御の妹。失意の光源氏の昔語りの相手に始まり、ついに六条院夏の町を占めるに至る。温順で控え目な性格と、染色・裁縫など家庭的な技能の持ち主で、夕霧や玉鬘の世話役を担わされている。
光源氏(ひかるげんじ)
 桐壺院第二皇子。母は桐壺更衣。長ずるに及んで、卓越した資質と多感な性格が「いろごのみ」ともよばれる絶対的な魅力を発揮するようになる。相手の魂深くに訴えて人心を支配するかのように、彼の女性交渉が多様に織り成されていく。葵の上を正妻としながらも、帝最愛の后藤壺への禁断の恋を秘めて魂の彷徨(ほうこう)が始まる。しかし四十賀を迎えてから、しだいに悲劇的な色彩を帯びてくる。そして紫の上の死への悲嘆のなかで、容易に出家を実現できない己が心の執着を思う。
藤壺の中宮(ふじつぼのちゅうぐう)
 先帝の四の宮。亡き桐壺更衣に酷似するといわれて桐壺帝の女御として入内。帝最愛の后でありながら、光源氏と密通。避けがたい宿世の力を思う。その不義の子が桐壺院に鍾愛されて東宮になる。院の崩御後、東宮を庇護すべく、源氏の懸想を避けつつ彼に親近しようとする。そのために出家をもした。のちに、即位した冷泉帝の母として、女院となる。源氏との恋ゆえの人並み外れた苦悩が、比類ない栄華をもたらしたことになる。
紫の上(むらさきのうえ)
 兵部卿宮の外腹(ほかばら)の娘。藤壺の姪(めい)。光源氏に引き取られ、彼の実質的な正妻として厚遇される。しかし、女三の宮の降嫁に、自らの運命のつたなさを痛恨。苦衷を押し隠して平静を装って生きようとする。その苦悩に堪えがたく発病、やがて死を迎える。晩年の述懐に、苦悩こそが自分の生きる支えであった、ともある。
夕顔(ゆうがお)
 初めは頭中将の愛人、その間に玉鬘を出産。正妻方に脅されて身を隠した。後年、光源氏がそれとも知らず、これを溺愛。しかし、まもなく、逢瀬(おうせ)のさなかに物の怪に取り憑(つ)かれて死んだ。
夕霧(ゆうぎり)
 光源氏の長男。母は葵の上。まめ人といわれる彼は現秩序や良識を遵守する人物として一貫している。雲居雁(くもいのかり)との恋を実らせて結婚するのも、その性格を証している。のちに、柏木の未亡人、落葉(おちば)の宮との恋に陥るが、そこでも世俗的な合理性に裏づけられていて、彼自身破滅することがない。
冷泉院(れいぜいいん)
 桐壺帝の第十皇子。実は光源氏と藤壺の不義の子。源氏が冷泉帝の父であるという秘密の了解が、源氏に特異なまでの栄華をもたらしたことになる。
六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)
 ある大臣の娘。東宮に参入して、姫君(秋好中宮)をもうけたが、東宮に死別。奥ゆかしく優雅な人柄として評判高く、それだけに自尊心も強い。光源氏のとだえがちな関係に自尊心の傷つけられた思いで嘆息する。葵祭で源氏の正妻方と車争いとなり、屈辱感が強まり、その魂が意思とは無関係に身体から抜け出て、葵の上に執念(しゅうね)く取り憑く。ついに産後の彼女を取り殺してしまう。[鈴木日出男]

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