本居宣長(もとおりのりなが)の著した『源氏物語』の注釈書。1793年(寛政5)の64歳ごろ起筆し、96年に完成、99年刊行。これは、それより30年ほど前の1763年(宝暦13)に著した『紫文要領(しぶんようりょう)』を増補改訂したものであり、著者の論旨はすでに30歳代前半において形成されていたとみられる。全9巻のうち、巻1、巻2が総論、巻3が年立(としだて)、巻4が校異、巻5以下が注釈となっている。この書の眼目は、なによりも、『源氏物語』の本質が「もののあはれ」にあるとする点にある。それは、儒教や仏教などの道理では律しきることのできない、魂の根源的な感動を意味する。本書では、たとえば「心(こころ)」と「情(こころ)」を区別する分析を試みるなど、後者の感性的なものにこそ人間の根源があると主張している。こうして、物語を儒仏の道理から解き放つところから、人間の本然的な形姿を見定めようとした。本書は、物語固有の意義をとらえようとした、ほとんど最初の文学論として注目される。後世に与えた影響も少なくない。
[鈴木日出男]
『『本居宣長全集4』(1969・筑摩書房)』▽『中村幸彦校注『日本古典文学大系94 近世文学論集』(1966・岩波書店)』
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「源氏物語」の注釈書。9巻。本居宣長(もとおりのりなが)著。1796年(寛政8)成立,99年刊。宣長の門人に対する講義を基盤にしており,総論・年立(としだて)論・本文考勘・本文注釈からなる。「源氏物語」の本質は「もののあはれ」であるとの直観的把握と,厳密な語句・文脈分析が特色で,源氏注釈史上,画期的な書。「本居宣長全集」「日本古典文学大系」(抄出)所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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