領海の外側に接する公海の一定水域であり,沿岸国が漁業資源の保存と管理に関して排他的な管轄権を行使できる水域。漁業水域ともいう。1982年に採択された国連海洋法条約は排他的経済水域の制度を新設したが,沿岸国はそれに代えて,漁業資源に対象を限定した漁業専管水域を設定できる。その範囲は,経済水域と同じく沿岸より200カイリである。
第2次大戦後,沿岸漁業に依存する諸国が先進遠洋漁業国の進出に対抗し,漁業資源の保存と独占のため,漁業に関する管轄権を自国領海の外側の公海部分にまで一方的に拡大するようになった。1952年,韓国による李承晩ラインと呼ばれる漁業独占水域の設定がその例である。60年の第2次海洋法会議では,沿岸国と遠洋漁業国の間の妥協を図るために,領海を6カイリとしその外側6カイリまでを漁業水域とする提案がアメリカ,カナダによってなされたが,僅差で成立しなかった。しかし,これを契機としてその後短時日で,沿岸国が12カイリまでの範囲で漁業専管水域を設定できることが国際慣習法として認められるに至った。
その後,73年から開催された第3次海洋法会議で,領海12カイリ,経済水域200カイリの基本的枠組みが固まるに従い,新たな展開が見られる。すなわち,76年から77年にかけて,アメリカ,ソ連,EC7ヵ国(イギリス,フランス,西ドイツ等),カナダ,ノルウェーなど先進漁業国がいっせいに200カイリの漁業専管水域を一方的に設定することになった。日本もこれに対応し,77年5月に〈漁業水域に関する暫定措置法〉(いわゆる200カイリ漁業専管水域法)を公布し,200カイリ漁業専管水域を設定した。このような一般的な国際慣行を通じて,沿岸国が一方的に200カイリの漁業専管水域(経済水域でもよい)を設定できることは,今日では国際慣習法として認められているといえる。
沿岸国は,漁業専管水域において漁業資源の保存と管理について排他的な権能をもつ。すなわち,沿岸国は水域内の漁業資源の保存のための措置をとり,許容漁獲量を決定する。沿岸国の漁獲能力が許容漁獲量に達していないときは,余剰のぶんについて外国の入漁を認める。外国の国民は,入漁料を支払い,許可証を得て,沿岸国の法令の下で漁業をすることができる。日本はアメリカ,ロシア等,漁業専管水域を設定している国々との間で,その水域への入漁について協定を結んで操業している。
その後,日本は,1996年に国連海洋法条約を批准するに際して,〈排他的経済水域及び大陸棚に関する法律〉を制定し,新たに排他的経済水域を設けた。同時に,外国人の漁業の許可など,同水域内での主権的権利の行使について定めた〈排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律〉を制定した(なお,同法により,先の漁業専管水域法は廃止された)。さらに,排他的経済水域等で採捕される魚種別の漁獲可能量(TAC)の決定を含む基本計画に基づいて,海洋生物資源の保存および管理を行うための〈海洋生物資源の保存及び管理に関する法律〉を制定した。
→海洋法
執筆者:尾崎 重義
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…これがサンフランシスコ講和条約で52年4月25日限り撤廃されることとなったのに先立ち,韓国周辺水域における日本漁業の脅威を見越した李承晩韓国大統領は,同年1月18日〈韓国領土近海の大陸棚の上部,表面,地下にあるすべての鉱物と水産資源について,韓国はその主権を留保し,行使する〉という海洋主権宣言を発し,いわゆる李ライン(李承晩ライン)を設定した。これはその後の200カイリ漁業専管水域にも相当する広大な水域から他国漁船を排除するもので,(当時としては)国際法に反する一方的措置であるとして,日本漁業者の強い反対がみられた。李ライン内水域は日本の朝鮮半島統治時代から開拓され大量漁獲が行われたが,西日本の巻網・底引網漁業者はマ・ライン撤廃後の主要漁場として大きく期待した漁場を失うこととなり,またその後周辺水域に出漁した日本漁船の韓国官憲による拿捕(だほ)と乗組員の抑留事件が頻発した。…
…その主要な内容は,(1)協定水域は黄海北部の中国側の軍事警戒ラインおよびそれより南の機船底引網漁業禁止ライン以東,ならびに台湾北部の軍事作戦ライン以北の東海,黄海とする,(2)協定水域内外に2ヵ所の休漁区域と底引網4ヵ所,巻網2ヵ所の保護区域が設定され,協定水域の出漁漁船の機関馬力制限と保護区域は機船底引網,機船巻網各漁業別の操業隻数,漁期,網目,機船巻網の集魚灯光力などを規制する,(3)日本側の日中漁業協議会,中国側の中国漁業協会との両国民間団体の間に,安全操業,事故処理等についての民間取決めを締結し実施する,(4)漁船の海難等の緊急事態は政府援助が供与され両国の指定4港への避難が認められる,(5)日中漁業共同委員会を設置し協定の実施状況の検討が行われる,などである。77年の米ソ両国による200カイリ漁業専管水域の実施により各国も200カイリの排他的水域を設定したが,日本も77年に同様のいわゆる200海里水域法(正称は漁業水域に関する暫定措置法)を制定した(1977年5月公布,7月施行)。しかし日中両国には日中漁業協定により200カイリの排他的水域は適用されず,同年に中国の200カイリ水域内において日本は約17万tの漁獲を行ったと推定され,一定の漁業権益の確保が行われた。…
※「漁業専管水域」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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