小物成(読み)コモノナリ

デジタル大辞泉 「小物成」の意味・読み・例文・類語

こ‐ものなり【小物成】

江戸時代、正税である本途物成ほんとものなり以外に山野・湖沼の用益などに課した雑税。

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精選版 日本国語大辞典 「小物成」の意味・読み・例文・類語

こ‐ものなり【小物成】

  1. 〘 名詞 〙 近世、田畑に対する本年貢本途物成というのに対して、山年貢野年貢草年貢等の雑税をいう。郷帳に記され、金額定額が多いが、年季を限り、年によって増減のあるものもあった。小年貢
    1. [初出の実例]「山科殿御扶持方四斗五升、京升に而小物成内以於大津相〈略〉渡者也」(出典言経卿記‐文祿二年(1593)正月一四日)

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改訂新版 世界大百科事典 「小物成」の意味・わかりやすい解説

小物成 (こものなり)

広義には,江戸時代における雑税の総称。検地によって高に結ばれた田畑から生ずる生産物を対象に賦課した租税を本途(ほんと)物成(本年貢)と呼ぶのにたいし,これ以外のすべての雑税を小物成と称した。その由来は荘園制下の公事(くじ)にあるといわれている。江戸時代には地域や支配領主によって多様であり,明治初年の調査では2000余品目と数えられ,その税率も一定していなかった。これらの雑税には大別して,(1)狭義の小物成,(2)浮役(うきやく)の2種が含まれていた。

(1)狭義の小物成は,山林原野,河海池沼など,検地を受けない土地を対象として賦課されたもので,この中には例えば山年貢,野年貢,草年貢のように,対象地の面積(反別)を計測してこれに課したものと,山役,山手米,野手米,海役,池役などのように,反別を定めることなく,高外地の用益権に賦課したものがある。また,漆年貢,櫨(はぜ)年貢,茶役など,高外地に生育する草木の用益に対して課す場合もあった。小物成(狭義)は,毎年一定の額を上納することが多いので,代官が毎年作成し勘定奉行に報告する郷帳(ごうちよう)(取箇(とりか)郷帳,成箇郷帳ともいう)にも記載された。また小物成はふつう村高の外に置かれていたが,知行渡しの場合に限って石高に換算して小物成高を決め,村高に含めた。換算の割合は,小物成の米1石を高2石に,永1貫文,鐚銭(びたせん)4貫文,銀60目をそれぞれ高5石にあてている。

(2)浮役は,商業,加工業などに従事する営業者にたいして賦課する営業税の一種で,たとえば水車運上,河岸運上,市場運上,酒造冥加(みようが),旅籠冥加,質屋稼冥加などがあった。小物成(狭義)が,自給経済にふさわしく自然(土地と草木)の用益を対象としたのにたいし,浮役は商品経済の一定の展開に対応して設けられたことを示している。また浮役という名前が示すように,年々納高が不定であったり,臨時的なものであるところから,郷帳には記載されなかった。

 小物成(広義)の納入方法については,まず年貢割付状によって,本年貢といっしょに納入すべき種目と額が村に通達される。村では,山年貢などであれば用益利用者の間で分担し,酒造運上などであれば,該当者がこれを負担して年貢といっしょに上納し,その納入の明細は年貢皆済状の中に示される。納入形態は地域によって多様であるが,通例は米または貨幣で納入した。大名領などでは小物成の内の一部,例えば炭,野菜などを現物で上納する場合もあり,江戸幕府も天保年間に,武州多摩川上流の沿岸の村々から鮎運上と称して,大御所の徳川家斉の食膳に供する川魚の上納を命じた例が見られる。明治維新以後は小物成の名称は廃止され,土地に関するものは地租改正事業の進展にともない消滅したが,営業に関するものの一部は名称を変え地方税のうちに存続していった。
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百科事典マイペディア 「小物成」の意味・わかりやすい解説

小物成【こものなり】

江戸時代の雑税の総称。田畑の年貢である本途(ほんと)物成に対する呼称で,小年貢ともいう。狭義の小物成は,山林・原野・河海など検地の対象とならない区域の用益や産物などに課され,山年貢・野年貢・山役・漆年貢などがある。一方,営業税の一種である浮役(うきやく)は広義の小物成に含まれ,運上・冥加(みょうが)などがあった。納入形態は時期・地域によって多様であるが,通例は米納・現物納および貨幣で納入された。
→関連項目営業税永高漁業年貢地方三帳鳥取藩元文一揆年貢割付状

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小物成」の意味・わかりやすい解説

小物成
こものなり

江戸時代における雑税の総称。本田畑に課せられる本途物成(ほんとものなり)(本年貢)に対して、それ以外の雑税を小物成(小年貢)とよんだ。主として山年貢、野年貢、野手米(のてまい)、池役、河岸役(かしやく)、茶年貢、漆(うるし)年貢などの山林、原野、河海に対する課税と、水車運上(うんじょう)、問屋運上、鉄砲運上、酒屋運上などの商工業やその他の営業に対する課税に大別できる。その種類と名称は、「国々所々ニ而其名目夥(てそのめいもくおびただ)シク有テ、其品々書尽シ難ケレバ」(地方凡例録(じかたはんれいろく))といわれるほど多い。毎年一定額を納入するものと、それ以外に浮役(うきやく)といわれて、年季を限ったり、臨時に納めるものがあった。

[吉永 昭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小物成」の意味・わかりやすい解説

小物成
こものなり

江戸時代の雑税の総称で,小年貢ともいう。中世に年貢に対して公事 (くじ) があったように,土地に課せられた本途物成 (ほんとものなり) あるいは本年貢に対して小物成があり,前者はそのほとんどが米で支払われていたが,後者は (1) 山林,原野,用水などの用益またはその産物を対象としたものや,(2) 問屋,市場,製造業などの営業収益を対象としたものがあり,種類,税率,課税方法は地方によりさまざまであった。納税は,米あるいは貨幣によって年々一定額が支払われていたが,地租改正とともにほぼ廃止された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「小物成」の解説

小物成
こものなり

小年貢とも。江戸時代の年貢のうち,本年貢すなわち本途物成以外の雑税の総称。おもに山林・原野・川海の利用および収穫物に対して賦課され,毎年一定額が上納された。山年貢・野年貢・萱野銭(かやのせん)・池魚役・漆年貢などは広くみられた小物成だが,種類・名称は地域的特色を反映して多種多様である。はじめは米納・金納とともに現物納もみられたが,やがて金納が一般化した。小物成は,広義には浮役や高掛物(たかがかりもの)を含むが,狭義には,おもに冥加・運上をさす浮役や村高に応じて賦課される高掛物は含まない。ただし,初期には浮役と小物成が同義に用いられた場合もある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「小物成」の解説

小物成
こものなり

江戸時代の雑税の総称
小年貢ともいう。山林・原野・河海の用益または産物,商工業者などの生産に従事する者などに課税され,山年貢・野年貢・草年貢など多種多様。最初は現物納,のちに銭納が多い。本年貢である本途物成に対するもので,中世の公事 (くじ) にあたる。

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世界大百科事典(旧版)内の小物成の言及

【浮役】より

…戦国時代に浮役とは,浮役衆または浮勢(うきぜい),浮備(うきそなえ)ともいわれて予備軍を指すが,近世には年貢の一種と理解されている。年貢は田畑にかかる正租の本途物成(ほんとものなり)と,それ以外の山林,原野,河海などにかかる雑租の小物成に大別することができ,小物成はさらに毎年,定額でかかるものと,臨時にかかるものとに分かれるが,臨時にかかるものを浮役という。地方によっては浮物成とも,浮小物成,散(ちり)小物成ともいう。…

【運上】より

…江戸時代における雑税で,小物成(こものなり)の一種。商業,工業,運送業,漁業,狩猟などに従事する者に対して課せられた。…

【本途物成】より

…江戸時代の年貢で,田・畑・宅地など検地によって高に結ばれた土地に賦課された本年貢で,たんに本途または物成とも略す。同じく農民に賦課されたものであっても,山野・河川の用益に課せられた小物成(こものなり),冥加(みようが)・運上金などの浮役(うきやく),普請・助郷(すけごう)などに夫役(ぶやく)を提供する諸役と区別される。通例,田方の物成は米の現物納であり,畑方の物成は石高(こくだか)で算定されても金銀で代納されることが多い。…

※「小物成」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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