公示を目的とし,または刑罰の一種として,金属を熱して人,獣の体におすこと,またそれに用いる金属具。焼印,焼判,烙印ともいう。律令制では隋・唐の五刑制度にならって人体に傷を加える肉刑を用いず,刑罰としての火印は行われなかった。養老令の厩牧令(くもくりよう)に,2歳に達した官牧の駒,犢(こうし)には〈官〉字の火印を髀(ひ)(股の外側)におす規定があり,火印は畜産印と呼ばれて,官馬牛の公示に用いられた。
中世に入ると,鎌倉幕府は御成敗式目の謀書(文書偽造)の条に,侍は所領没収もしくは遠流,凡下(ぼんげ)は火印を顔面におせと定め,その後の追加立法でも凡下の窃盗犯や人勾引(かどい)/(かどわかし),人商(あきない)に対して火印の刑を科した。下って室町時代の《庭訓往来》には火印が刑種の一つに挙げられ,戦国時代の伊達氏の《塵芥集》にも御成敗式目を踏襲して謀書を犯した地下人(じげにん)の顔面に焼金をあてる条文があり,江戸幕府もキリシタンや撰銭令違反者に火印の刑を科している。これによって,火印が武家刑法の一つとして中世を通じて行われたこと,その目的が既犯者の公示と栄誉(体面)の剝奪にあったことが察せられる。他面,説経節で知られる《山椒大夫》に,逃亡を企てた安寿,厨子王に山椒大夫が〈譜代の下人〉として火印をおす話があり,《頰焼(ほおやけ)阿弥陀縁起》にも主人が罰として下人に焼印をおすくだりがあって,火印が主人の下人に対する刑罰として行われたことが知られる。この場合の火印には,刑罰以上に,律令制の官馬牛の規定に見られる所有権の公示という意味があったであろう。なお中世の火印の実体は明らかでなく,文字を刻した焼印とする史料はきわめて少ない。
執筆者:佐藤 進一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 特殊な印章には鉄製の焼印がある。火印(かいん)と称して古代の牧馬に目印として使用したが,鎌倉時代初期の東大寺大仏殿造営用の材木の点検に俊乗坊重源が使用した槌型印が残っている。《御成敗式目》には〈謀書罪科事〉の条に武士の所領没収に対して,庶民の刑罰は〈火印を面(おもて)におす〉と規定している。…
※「火印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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