翻訳|volcanology
火山現象を研究する地球科学の一分野。広義には地球以外の惑星や衛星上で起こる火山現象も対象に含む。火山の研究には物理学,化学をはじめ地球科学に特有な手法を駆使し,学際的アプローチを行う。研究方法や手段に基づいて分けると,火山地形学,火山地質学,火山岩石学,火山化学,火山物理学などがある。これとは別に,火山現象のさまざまな側面をとらえる分野がある。例えば,現在噴火活動を続けている活火山を対象とし,火山性地震を計測し,電磁気の変化を測定し,噴出物が火口から放出されるようすを観測し,噴出物の鉱物・化学組成を分析するといった研究活動から火山が噴火するメカニズムが解明され,噴火に伴う前兆現象の性質が明らかになる可能性がある。しかし噴火を続けている火山に接近して観測を行うのは危険であり,火山の構造,特に地下深いところにあるマグマ溜りの性質などを研究するためには,噴火活動を休止している火山か,活動を完全に停止した火山について詳しく調べる必要がある。特にマグマの活動がずっと昔に終わり,長い年月かかって火山体が深く浸食された火山を調べれば,その内部が露出しているため有益な情報が多く得られる。精密な定量的観測が始まってから現在まで100年くらいしか経過しておらず,地球の歴史は長大であり,あらゆる型式の火山噴火がわずか100年の間に起こるとは限らないので,まだよく観測されていないタイプの噴火があることがわかっている。
火山学の歴史はギリシア・ローマ神話の時代に始まる。当時の地中海には,ストロンボリ,ブルカノ,エトナなど多くの活火山が噴火しており,火山はローマ神話のウルカヌス(鍛冶屋の神)の仕事場であると考えられた。79年ベスビオ山が長い休止期ののち大噴火を起こし,大プリニウスが自ら調査におもむいたが現場で遭難死したと記録されている。その後長期間研究の空白期がおとずれる。18世紀には岩石の成因について水成説と火成説の論争が行われた。水成説とは,岩石は原始海洋から沈殿して生じたとする説であり,火成説とは地下にマグマが貫入し固結すると花コウ岩のような岩石が生じ,また火山からは溶岩が流れ出して固まって岩石となると説明する説であった。水成説を強く主張したA.G.ウェルナーの影響で最初は水成説を信じる人も多かったが,その後J.ハットンやC.L.vonブーフらの主張するように,多くの岩石は海洋からの沈殿物ではなく,マグマが冷却固結して生じたものであることがわかってきた。その結果火成説の勝利となったが,以後19世紀を通じて各地の火山やその噴出物が次々と調べられるようになり,近代的な火山学が確立されるにいたった。
執筆者:荒牧 重雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
火山現象の解明を目的とする、地球科学の一分野。地球内部でのマグマの発生・進化・移動、火山の噴火現象・噴出物・形態・構造・成因・分布・年代などを研究する科学。火山に近代科学のメスが入れられたのは、西洋では18世紀後半、日本では1世紀余り前の明治維新以後である。とくに火山活動の科学的調査は、1876~1877年(明治9~10)の伊豆大島噴火の東京大学外国人教師と日本最初の鉱物学者和田維四郎(つなしろう)による実地調査に始まる。1888~1900年の磐梯(ばんだい)・吾妻(あづま)・蔵王(ざおう)・安達太良(あだたら)火山群の相次ぐ活動は、日本人自身による火山活動の調査研究の勃興(ぼっこう)に絶好の機会を与えた。とくに、地質学者菊池安(やすし)と地震学者関谷清景(せきやせいけい)による1888年の磐梯山大爆発の研究は、海外の学界からも注目された。1892~1923年の約30年間は、文部省の震災予防調査会(現、財団法人震災予防協会)が日本の火山研究の主軸をなし、その先達は小藤文次郎(ことうぶんじろう)と大森房吉であった。小藤一門は日本の諸火山の地質岩石の概略を明らかにした。島民全滅(125人)の1902年(明治35)の伊豆鳥島大爆発などにかんがみて、1911年、大森は浅間山に日本最初の火山観測所を創設した。火山研究の必要に迫られ、その場所と機会に恵まれた日本では、地理、地質、物理、化学などの角度からの研究が併進したが、とくに第二次世界大戦後は、互いに連携しつつ、目覚ましく進歩した。火山やその活動の実態がしだいに究明され、火山の利用・開発や防災に役だてられ、噴火予知も実現されつつあり、地球内部のようすを究明する手掛りをも与えつつある。1932年(昭和7)に創立され、戦後の1956年(昭和31)に再興された日本火山学会(会員1200余名、会誌『火山』)は、世界の火山学をリードしている。
火山学の国際組織としては、国際測地学地球物理学連合(IUGG)の7分科の一つの国際火山学地球内部化学協会(IAVCEI)がある。
[諏訪 彰]
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