イギリスの女流作家バージニア・ウルフの長編小説。1927年刊。哲学者ラムジー家のスカイ島の別荘が舞台。第一部「窓」は第一次世界大戦前の9月のある午後と夜。作者の母を思わせるラムジー夫人がこの家に集まった人々を結び付ける要(かなめ)である。灯台行きを熱望する末息子ジェームズの感情を、事実に基づく判断で傷つける父と、いたわる母の対立のなかに、事実よりも感性がより真実に近いことが示される。第二部「時は逝(ゆ)く」はその後の10年間。夫人を含む数人の第一部の人物が世を去る。第三部「灯台」は10年後の9月のある日。父を憎み続けていたジェームズが老いた父と灯台行きを果たし、母の記憶に導かれるように父に愛を感じる。ウルフの作品中もっとも安定した名作である。
[佐藤宏子]
『中村佐喜子訳『燈台へ』(新潮文庫)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…処女作《船出》(1915)と《昼と夜》(1919)は伝統的な小説といってよいが,第3作短編集《月曜日か火曜日》(1921)と,心理の動きを主として青年の一生を描いた《ジェーコブの部屋》(1922)では,内面世界に執着する独特の作風がはっきりと表れている。政治家夫人の一日の生活を背景にし,その意識を中心に据えることによって諸人物を巧みに描いた《ダロウェー夫人》(1925)と,父の投影の濃い哲学者一家の生活を心理的に描いた《灯台へ》(1927)により,いわゆる意識の流れに重点をおく内面描写と,それを表す詩的文体を完成した。この間,神経症の治療と自作の発表機関をつくるため,1917年手刷り印刷機を買い,夫とともに小出版社ホガース・プレスをつくり,マンスフィールド,T.S.エリオットの作品も出版した。…
※「灯台へ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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