灯台へ(読み)トウダイヘ(英語表記)To the Lighthouse

デジタル大辞泉 「灯台へ」の意味・読み・例文・類語

とうだいへ【灯台へ】

《原題To the Lighthouseウルフ長編小説。1927年刊。「窓」「時は逝く」「灯台」の三部構成。スコットランドの島を舞台に、哲学者夫婦とその子供たちが別荘で過ごす夏の日を、登場人物たちの「意識の流れ」を通じて描く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「灯台へ」の意味・わかりやすい解説

灯台へ
とうだいへ
To the Lighthouse

イギリス女流作家バージニア・ウルフの長編小説。1927年刊。哲学者ラムジー家のスカイ島の別荘が舞台。第一部「窓」は第一次世界大戦前の9月のある午後と夜。作者の母を思わせるラムジー夫人がこの家に集まった人々を結び付ける要(かなめ)である。灯台行きを熱望する末息子ジェームズ感情を、事実に基づく判断で傷つける父と、いたわる母の対立のなかに、事実よりも感性がより真実に近いことが示される。第二部「時は逝(ゆ)く」はその後の10年間。夫人を含む数人の第一部の人物が世を去る。第三部「灯台」は10年後の9月のある日。父を憎み続けていたジェームズが老いた父と灯台行きを果たし、母の記憶に導かれるように父に愛を感じる。ウルフの作品中もっとも安定した名作である。

[佐藤宏子]

『中村佐喜子訳『燈台へ』(新潮文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「灯台へ」の意味・わかりやすい解説

灯台へ (とうだいへ)
To the Lighthouse

イギリスの女流小説家バージニア・ウルフの小説。1927年刊行。3部から成り,第1部〈窓〉では,スコットランドの別荘での哲学者ラムゼー一家の灯台行きの計画とその挫折が,ラムゼー夫人と子どもたちの意識を通して語られる。第2部〈時は過ぎゆく〉は,第1次世界大戦を含むその後の10年の推移を美しい散文詩で語る。第3部〈灯台〉においては,かつて客人であった画家リリーが再び別荘を訪れラムゼー一家が灯台に行く姿を眺めながら,昔のことや今は亡きラムゼー夫人のことを回想する。1部と3部がみごとに照合する巧みな時間構成をもち,〈意識の流れ〉の手法を用いた著者の代表作である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「灯台へ」の意味・わかりやすい解説

灯台へ
とうだいへ
To the Lighthouse

イギリスの女流作家 V.ウルフの小説。 1927年刊。「意識の流れ」の手法を用いて,簡潔な筋のなかで雰囲気や人物の感情,心理の精細な描写を試み,新しい技巧を確立した作品。「窓」「歳月」「灯台」の3部から成り,前半は第1次世界大戦前のラムゼー家の別荘で行われたパーティーの一日と,灯台見物の計画を扱い,後半は約 10年後のある日,長男の戦死,夫人および長女の病死によって大きく変化した家庭生活を描く。

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世界大百科事典(旧版)内の灯台への言及

【ウルフ】より

…処女作《船出》(1915)と《昼と夜》(1919)は伝統的な小説といってよいが,第3作短編集《月曜日か火曜日》(1921)と,心理の動きを主として青年の一生を描いた《ジェーコブの部屋》(1922)では,内面世界に執着する独特の作風がはっきりと表れている。政治家夫人の一日の生活を背景にし,その意識を中心に据えることによって諸人物を巧みに描いた《ダロウェー夫人》(1925)と,父の投影の濃い哲学者一家の生活を心理的に描いた《灯台へ》(1927)により,いわゆる意識の流れに重点をおく内面描写と,それを表す詩的文体を完成した。この間,神経症の治療と自作の発表機関をつくるため,1917年手刷り印刷機を買い,夫とともに小出版社ホガース・プレスをつくり,マンスフィールド,T.S.エリオットの作品も出版した。…

※「灯台へ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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