熊野懐紙(読み)クマノカイシ

デジタル大辞泉 「熊野懐紙」の意味・読み・例文・類語

くまの‐かいし〔‐クワイシ〕【熊野懐紙】

鎌倉初期、後鳥羽上皇熊野行幸に際して催された歌会で書かれた和歌懐紙。三十数枚が残存し、当時の代表的歌人の仮名筆跡を多く含む。

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精選版 日本国語大辞典 「熊野懐紙」の意味・読み・例文・類語

くまの‐かいし‥クヮイシ【熊野懐紙】

  1. 鳥羽上皇がたびたびの熊野御幸中に催された歌会当座の懐紙。鎌倉時代の仮名書道の遺品として貴重とされる。
  2. [ 一 ] 京都西本願寺蔵。一巻一一通。正治二年(一二〇〇)一二月三日、切目(きりべ)王子で催されたときのもの。御題遠山落葉・海辺晩望。筆者(詠者)は後鳥羽院、通親、公経、家隆、寂蓮ら一一人。伏見宮貞敦親王、飛鳥井雅章添状がある。国宝
  3. [ 二 ] 京都陽明文庫蔵。三幅三通。筆者(詠者)後鳥羽院、家隆、寂蓮。院のものは御題深山紅葉・海辺冬月で建仁元年(一二〇一)一〇月九日、藤代王子でのもの。家隆、寂蓮のものは御題古谿冬朝・寒夜待春で建久九~正治三年間(一一九八‐一二〇一)のもの。国宝。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「熊野懐紙」の意味・わかりやすい解説

熊野懐紙
くまのかいし

平安末期の院政時代に隆盛をみせた本地垂迹(ほんじすいじゃく)の思想は、熊野三山に根強く発達し、院(法皇上皇)や女院をはじめ貴族たちの熊野社参は絶えることがなかった。なかでも後鳥羽(ごとば)上皇(院政1198~1221)は、1198年(建久9)の19歳のときから毎年のように、廷臣を従えて参詣(さんけい)を企てた。三山への長途の路次において、分霊を祀(まつ)った主たる王子社は宿泊所ともなった。その報賽(ほうさい)を兼ねて、一行旅情を慰めるために歌会が開かれ、そのおりに各自詠を清書したものが熊野懐紙の名で現存し、14名34枚を計上、諸家に分蔵される。うち開催年月日の明らかなものは、1200年(正治2)12月3日の切目王子(きりべのおうじ)御会、同年12月6日の滝尻王子(たきじりのおうじ)御会、1201年(建仁1)10月9日の藤代王子(ふじしろのおうじ)御会の三度で、不明の分もある。

 古来、筆者が明らかで、熊野三山と深いかかわりをもつこの懐紙は、茶席の名物としても名高い。その成立は『新古今和歌集』の撰進(せんしん)される数年前にあたり、いかにも歌道の盛況をしのばせるものがある。

[古谷 稔]


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百科事典マイペディア 「熊野懐紙」の意味・わかりやすい解説

熊野懐紙【くまのかいし】

鎌倉時代,後鳥羽院熊野詣(もうで)の折に催した歌会のときの和歌懐紙。後鳥羽院はしばしば熊野参詣をしており,現存の懐紙の中で年次がわかるものには1200年,1201年のものがある。後鳥羽院,藤原家隆定家寂蓮などの自筆のもので,和歌史上も鎌倉初期の仮名書道の遺例としても貴重。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熊野懐紙」の意味・わかりやすい解説

熊野懐紙
くまのがいし

後鳥羽上皇が熊野三山参詣の途次,紀伊切目王子 (きりべのおうじ) 社などで催した歌会で詠んだ和歌を書いた懐紙の総称。約 30× 45cm大の懐紙で,現在後鳥羽上皇,藤原家隆,飛鳥井雅経,寂蓮法師などの筆跡三十数枚が残り,鎌倉時代初期のかな書道の遺品として貴重。西本願寺および陽明文庫に所蔵のものは国宝。

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世界大百科事典(旧版)内の熊野懐紙の言及

【懐紙】より

…詩を書いたものを〈詩懐紙〉といい,懐紙中最古の作品として平安中期,969年(安和2)の藤原佐理(すけまさ)《隔水花光合》がある。和歌を書いた〈和歌懐紙〉は平安末期から多くの作品が伝存するが,西行,藤原頼輔らの《一品経和歌懐紙》(平安末),後鳥羽天皇が熊野三山に参詣した折(1198∥建久9),路すがら供奉の近臣たちと催した和歌会の《熊野懐紙》などが名高い。また奈良春日若宮の神官と若宮ゆかりの人々による《春日懐紙》(鎌倉時代)は,紙背に《万葉集》が書写されていることで知られる。…

※「熊野懐紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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