懐紙(読み)カイシ

デジタル大辞泉 「懐紙」の意味・読み・例文・類語

かい‐し〔クワイ‐〕【懐紙】

畳んでふところに入れておく紙。臨時書状詩歌料紙に用いたり、茶席菓子を取り分けたり茶碗の縁などをふくのに用いたりする。ふところがみ。畳紙たとうがみ
詩歌・連歌俳諧を正式に記録、詠進するときに用いる料紙。檀紙だんし奉書紙杉原紙など。寸法・折り方・書き方などにおのおの規定がある。
[類語]ちり紙鼻紙ティッシュペーパートイレットペーパー

ふところ‐がみ【懐紙】

たたんで懐に入れておく紙。ちり紙にしたり、詩歌などを書いたりする。畳紙たとうがみかいし

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精選版 日本国語大辞典 「懐紙」の意味・読み・例文・類語

かい‐しクヮイ‥【懐紙・会紙】

  1. 〘 名詞 〙
  2. たたんで懐中に携帯する紙。詩歌の草稿や、その他書きつけ、あるいは包み紙、拭い紙などとして使用した。ふところがみ。たとう。たとうがみ。
    1. [初出の実例]「今日次第若注懐紙歟」(出典:小右記‐寛弘二年(1005)正月一日)
  3. 詩歌、連歌、俳諧を正式に記録、詠進する時に用いる料紙。檀紙、奉書紙、杉原紙など。寸法、折り方、書き方などにおのおの規定がある。→懐紙式(かいししき)
    1. [初出の実例]「於御所和歌御会、〈略〉佐渡判官各献懐紙」(出典:吾妻鏡‐延応元年(1239)九月三〇日)

ふところ‐がみ【懐紙】

  1. 〘 名詞 〙 たたんで懐に入れておく紙。塵紙にしたり、歌やメモなどを書いたりする。たとうがみ。かいし。
    1. [初出の実例]「御ふところがみにかくかきて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)

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改訂新版 世界大百科事典 「懐紙」の意味・わかりやすい解説

懐紙 (かいし)

たたんで懐に入れる紙の意で,〈ふところがみ〉〈たとうがみ〉また畳紙(じようし),帖紙ともいう。即興の詩や歌,あるいは消息を書いたり,菓子などの包紙やぬぐい紙としても用いられた。詩や和歌の会では詩歌を懐紙に書き,しだいに書式,用紙の寸法,折り方などの形式が整い,懐紙といえば詩,歌,連歌,俳諧などを書式に従って記録,詠進する紙をさすようになった。檀紙,杉原紙などを用い,大きさはおよそ縦1尺2寸前後だが,時代や身分によって異なった。書式に冷泉(れいぜい)流,二条流,六条流などがあり,初めの2行を端(はし)作り,第3行を位署(官および姓名)と呼び,第4行から詩歌が書かれた。歌の場合は1首を9,10,9,3の文字数で3行半に書く。詩を書いたものを〈詩懐紙〉といい,懐紙中最古の作品として平安中期,969年(安和2)の藤原佐理(すけまさ)《隔水花光合》がある。和歌を書いた〈和歌懐紙〉は平安末期から多くの作品が伝存するが,西行,藤原頼輔らの《一品経和歌懐紙》(平安末),後鳥羽天皇が熊野三山に参詣した折(1198・建久9),路すがら供奉の近臣たちと催した和歌会の《熊野懐紙》などが名高い。また奈良春日若宮の神官と若宮ゆかりの人々による《春日懐紙》(鎌倉時代)は,紙背に《万葉集》が書写されていることで知られる。連歌懐紙は鎌倉中期に最古のものがみられ,水引でとじ,表紙からただちに書き始めることが普通であり,俳諧にもうけつがれて江戸時代まで書式,形式が続いた。懐紙は自詠自筆になるものであるため,文学史上はもとより,書道史上においてもその価値は大きい。

 茶道では,懐中に入れて茶席に携帯し,菓子をとりわけ指をぬぐう際などに用いられる。一般には美濃の手すき紙である〈小菊〉を重ね,二つ折りにして用いる。
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百科事典マイペディア 「懐紙」の意味・わかりやすい解説

懐紙【かいし】

たたんで懐中に入れておく紙。〈ふところがみ〉〈たとうがみ〉とも。詩歌をそれに書いたことから,それらを書いた料紙をさす。檀紙,杉原紙などを用いた縦1尺2寸前後のものが多い。藤原佐理筆の詩懐紙が現存最古のもの。和歌懐紙では西行寂蓮らの《一品(いっぽん)経和歌懐紙》,後鳥羽天皇らの《熊野懐紙》が有名。連歌,俳諧にもうけつがれた。なお茶道では懐中に入れて茶席に携帯し,菓子を取ったり,指先をぬぐうときなどに用いる。
→関連項目雁皮紙京花紙小菊杉原紙奈良紙

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「懐紙」の意味・わかりやすい解説

懐紙
かいし

日常着装する装束(衣服)の懐中に、束ねた紙を携帯したことにちなむことば。ふところがみ、たとうがみ(畳紙・帖紙)ともいい、平安時代の『うつほ物語』『枕草子(まくらのそうし)』『源氏物語』などに、この紙を使用して手紙を書いたり手習いをした例があり、コウゾ(楮)を原料とする陸奥紙(みちのくがみ)、まゆみの紙(檀紙(だんし))がもっぱら懐紙として用いられ、女子用には着色した薄様(うすよう)が用いられた。ほかに、貴族の宮廷公事でのメモ用紙、礼紙の代用としても広く応用されたが、詩会や歌会に際して自詠の詩歌を清書して提出するための正規の料紙に用いられ、書かれた作品そのものも懐紙とよぶ。詩懐紙、和歌懐紙がこれである。今日、平安中期の藤原佐理(すけまさ)筆詩懐紙、同末期の西行(さいぎょう)ほか筆一品経(いっぽんきょう)和歌懐紙、鎌倉初期の後鳥羽院(ごとばいん)ほか筆熊野(くまの)懐紙はとくに名高く、そのほか春日(かすが)懐紙、熱田(あつた)本懐紙、聚楽(じゅらく)懐紙をはじめ、多くの懐紙が現存する。それらは、端作(はしづく)り、位署(いしょ)、本文の順におよその書式に基づいて書かれるが、鎌倉末期を経て室町時代に入ると完全に書式は定着する。懐紙の寸法も、身分によって大小が決められていたらしいが、書式と同様、各家々による違いも認められる。なお、後世、茶会で懐中に用意する小さな紙(小菊紙)も懐紙とよぶ。

[古谷 稔]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「懐紙」の意味・わかりやすい解説

懐紙
かいし

たたんで懐中に入れておく紙。ふところ紙,たとう紙 (帖紙) ともいう。のちに詩,和歌などの料紙をさし,また詩歌を書いたものをいう。縦 30cm,横 40cmほどの大きさで,位階により寸法,官位署名の書式や字配りなどに規定があった。藤原佐理 (すけまさ) 筆の『詩懐紙』が最古で,『熊野懐紙』は数も多く有名。なお現在ではおもに茶道で用いられ,茶席に携帯し,菓子を取ったり指先や茶碗をぬぐったりするのに使われる。

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