翻訳|hylozoism
物質が本質的に活力・生命力を,また生命力・運動力の根源としての魂をもつとみる世界観の一つ。機械論的傾向に反対したケンブリッジ・プラトン学派のカドワースが17世紀末ころ,ギリシア語のhylē(素材・物質)とzōē(生命)から造語したのが始まりとされる。初期ギリシアの,いわゆる自然哲学者タレス,アナクシマンドロス,アナクシメネスらイオニア(ミレトス)学派の人びと,あるいはヘラクレイトスらはそれぞれ〈水〉〈無限者(ト・アペイロン)〉〈空気〉そして〈火〉を一つの生ける原物質(アルケー)とし,これから万有の生成,あらゆる運動・変化が由来すると考えたが,この考えが物活論の原形をなす。タレスの〈水〉は万有に生命と活動を与えるがゆえに神的であり,こうして〈万物は神々に満ちている〉とされた。彼らの後もアポロニアのディオゲネス,ヒッポンらにこの思考を認めることができる。この種の思考は,宇宙の生命そのもの,〈産む自然〉としての神を主張したルネサンスの自然哲学者ブルーノや17世紀のスピノザのうちに汎神論的物活論として継承されている。のち自然の非生命性,非自動性を主張する近代の機械論的自然観が支配的となった時期に,カントは物活論を,自然科学の基礎としての惰性律に反するとして批判した。現代では,A.N.ホワイトヘッド,テイヤール・ド・シャルダンらもある意味で物活論的思考の系譜に置いてみることができよう。
→生気論
執筆者:廣川 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
物質がそれ自体のうちに生命を備えていて生動するという説。原語のヒュロツォイスムhylozoismは、ギリシア語の質料を意味するヒューレーhlēと生命を意味するゾーエーzōēの合成語で、質料生動論の意味。能動的な原理(始動因)である精神や霊魂が、受動的な原理(質料因)である物質から区別される以前の、初期の哲学者が物活論者といわれる。たとえば、タレスが、磁石が鉄を引き付けるのは魂をもっているからだとし、「万物は神々に満ちている」といったのはその一例である。
[加藤信朗]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…パラケルススやブルーノ,カルダーノらは,物質のもつ基本的な特性の一つに運動を挙げ,物質自体のなかに,それをいきいきと動かす原動力があることを示唆した。これは,アリストテレスにおける運動の二分法(自然運動と強制運動)に基づく自然運動(物質自体の本性上の運動として,土,水,空気は宇宙の中心へ向かい,火は宇宙の中心から離れる運動を規定した)とは違って,アニミズム的,物活論的であった。物活論とアニミズムとの区別は微妙だが,アニミズムが物質とアニマの二元論的発想をとりやすいのに対して,物活論は物質一元論に傾きやすい発想といえよう。…
※「物活論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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