猿丸太夫(読み)さるまるだゆう

精選版 日本国語大辞典 「猿丸太夫」の意味・読み・例文・類語

さるまる‐だゆう‥ダイフ【猿丸太夫】

  1. 伝記未詳の伝説歌人三十六歌仙の一人。「古今集真名序」にその名前が見えるが、「猿丸太夫集」は古歌の集成で、その作と確実にいえるものはない。奈良後期か平安初期に生存した人物と考えられていたらしいが、広く伝説化して、その屋敷跡とか子孫と称する者が各地に散在する。太夫は神職の意で、一種の宗教集団が自らの出自を誇示し、また、伝説を伝播したものと考えられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「猿丸太夫」の意味・わかりやすい解説

猿丸太夫
さるまるだゆう

生没年不詳。三十六歌仙の一人であり、百人一首に「奥山に紅葉(もみじ)踏み分け……」の歌で知られる歌人だが、その有名度に比して歴史の事実は何もない。むしろ、この名は伝説口碑において、その後裔(こうえい)や屋敷跡を称するものが多い。たとえば、摂津芦屋(あしや)(兵庫県)には猿丸太夫の社(やしろ)があって、その子孫が住むと伝える。そのほか、堺(さかい)(大阪府)や信州戸隠(とがくし)(長野県)、金沢、越後(えちご)東蒲原(ひがしかんばら)(新潟県)、山形、南会津(福島県)に、猿丸の後裔とか朝日長者の屋敷跡とその子の猿丸がいたとする口碑が伝えられている。『二荒山(ふたらさん)神伝』や『日光山縁起』によれば、陸奥(むつ)に流された有宇(ありう)中将と朝日長者の女(むすめ)の孫としての狩猟名手の猿丸(猿麻呂)が、上野(こうずけ)赤城(あかぎ)山神と戦っていた日光二荒山神を助けて、猿丸はムカデの姿となって赤城山神の左眼を矢で射て、これを退散させたことになっている。二荒山の神子は小野氏で、その猿丸の子孫と伝えている。諸国の神職には小野氏を姓とするものが多く、彼らは近江(おうみ)小野(滋賀県)に出自して東北地方を中心とする全国に移住し、猿の信仰を広めたとされる。これらの話は、小野氏の伝承であったものであろう。小野氏は猿丸氏と関係が深く、猿を擬人化し人の名のようによんだのが猿丸の名であろう。二荒山の話は、東北地方の「磐次磐三郎(ばんじばんざぶろう)」や近江の「田原(俵)藤太(とうた)百足(むかで)退治」の伝承にも類似している。田原藤太が下野(しもつけ)の押領使(おうりょうし)であり、二荒山別宮の下野宇都宮とも関係深かったことも、小野氏との関係を考えさせてくれる。

[渡邊昭五]

『「神を助けた話」(『定本柳田国男集12』所収・1963・筑摩書房)』


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