改訂新版 世界大百科事典 「王子信仰」の意味・わかりやすい解説
王子信仰 (おうじしんこう)
神が貴い児童の姿で顕現するという信仰。多くは古来の大社の内部に神が分出し,親子または主人と眷属(けんぞく)との関係に見たてられるため,若宮信仰と共通する点も多い。こうした現象が起こるのは,信仰の固定化を破って,あらたに巫女の活動が生じ,時人を覚醒させる託宣が下されたことを意味する。これが早くかつ顕著に現れた例は,熊野三所権現の場合であり,平安末期には代表的な形である五所王子(若王子,禅師宮,聖宮,児宮,子守宮)の名がみられた。中でも若王子(にやくおうじ)は,若宮王子(《中右記》),若宮(《長秋記》),若一王子(《寺社元要記》),若女一王子(《壒囊抄》)とも呼ばれ,少女または幼童の姿で現れる王子神で,熊野権現の勧請された所に随伴してまつられた例が多い。ついには東京都北区王子のように地名となった例もある。熊野参詣の路傍には王子社がしきりにまつられ,多くは地名を冠して何々王子と呼ばれたが,その数の多さは〈九十九王子〉の名にとどめられている。春日明神にも主神四所につぐものとして五所王子(長承2年(1133)の注進状。第五所の意)があった。次に《法華経序品》に出ている八王子を,《古事記》《日本書紀》所載の天照大神と素戔嗚尊(すさのおのみこと)との天真名井(あめのまない)での誓約の際に出現した5男3女神に付会することが行われた。それはまず祇園牛頭(ごず)天王の眷属神の形で認められ,ついで山王権現の諸社にも数えられるようになった。すなわち,近江の日吉大社の背後にそびえる山が八王子山で,ここに八王子権現(明治維新後の称呼は〈牛尾神社〉)と三宮とをまつり,その霊威は,《梁塵秘抄》にも〈峰には八王子ぞ恐ろしき〉とうたわれている。八王子もまた勧請社から地名になった例があり,その著しいものとして東京都八王子市がある。若王子,若一王子は中・近世を通じて仏教風な解説を伴ったので,〈にゃくおうじ〉(若王寺なる寺号にもなる),〈にゃくいちおうじ〉と呼ばれていた。
執筆者:萩原 龍夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報