平面図形の研究に三角関数が応用されるが,球面上の図形についても同様である。前者を平面三角法といい,後者を球面三角法という。三角法は歴史的には天文学への応用から起こったため,平面三角法より球面三角法が先行した。その創始者はギリシアのヒッパルコスHipparchos(前150ころ)といわれており,メネラオスMenelaos(100ころ)もその発展におおいに寄与した。まず,球面三角形について述べよう。球面をその中心を通る平面で切ったときの切口の円を大円great circleといい,球面の一つの直径の両端の2点を対心点antipodal pointという。球面上の2点A,Bが対心点でなければ,A,Bを通る大円の周上においてAをBに結ぶ劣弧をで表す。これはA,Bにより一意的に定まる。球面上に3点A,B,Cがあり,これらは同一の大円の周上になく,いずれの二つも対心点でないとする。このとき,の作る球面上の図形を,球面三角形spherical triangle ABCといい,A,B,Cをその頂点,をその辺という。頂点Aにおいて辺に接する半直線のなす角を頂角Aといい,同様に頂角B,Cを定義する。平面上の三角形のときと同様,辺の長さをそれぞれa,b,cで表し,頂角A,B,Cの大きさを弧度法で測った量を同じくA,B,Cで表す。球面の半径がrならば,a/r,b/r,c/rは0とπの間の数で,それらの和は2πより小さい。A,B,Cはπより小さく,π<A+B+C<3πである。A+B+C-πを球面三角形ABCの球面過剰という。球面三角形ABCの面積は(A+B+C-π)r2で,3頂角によって定まる。したがって相似な球面三角形は合同となるが,球面三角形についても平面三角形の場合と同様の合同定理が成り立つので,球面三角形の3辺と3頂角の中の三つを与えれば残りのものが定まる。この求め方には3辺と3頂角の三角関数の間に成り立つ公式が用いられる。次にこれらの公式のおもなものをあげる。記述を簡単にするため以下では球面の半径は1とする。半径rの球面の場合にはa,b,cをa/r,b/r,c/rでおきかえればよい。まず,頂角Cが直角である球面三角形ABCでは次の公式が成り立つ。sin A=sin a/sin c,sin B=sin b/sin c,cos A=tan b/tan c,cos B=tan a/tan c,tan A=tan a/sin b,tan B=tan b/sin a,sin A=cos B/cos b,sin B=cos A/cos a,cos c=cos a cos b,cos c=cot A cot B。一般の球面三角形ABCについては,sin A:sin a=sin B:sin b=sin C:sin c(正弦公式)およびcos a=cos b cos c+sin b sin c cos A,cos b=cos c cos a+sin c sin a cos B,cos c=cos a cos a cos b+sin a sin b cos B,cos c=cos a cos a cos b+sin a sin b cos C(余弦公式)
が基本的である。
これらの公式と三角関数の性質を用いれば,さらに多くの公式が求められる。例えば,
(ネーピアの公式)が成り立つ。球面三角形ABCの2辺a,bと頂角Cが与えられたとき,ネーピアの公式と正弦公式を用いれば,残りの2頂角A,Bと1辺cが求まる。球面三角形ABCの3頂角より3辺を求めるには,
および同様の2式を用いればよい。球面三角法は航海術や天文学に広範に応用されている。
執筆者:中岡 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
球面上の問題を解決するために三角関数を用いる計算法。地球上で応用して測量術、航海術、天球上で応用して天文学に用いられる。球をその中心Oを通る平面で切ったとき、球面上にできる切り口の曲線を大円といい、三つの大円の劣弧(大円を二分割したときの短いほうの弧)で囲まれる図形を球面三角形という(
E=A+B+C-π
と置くと、つねにE>0である。Eを球面過剰というが、球面三角形ABCの面積は球面過剰に比例する。つまり、球の半径をrとするとき、r2Eが面積である。
このa、b、c、A、B、Cの間の関係を考えるのが球面三角法である。基本の関係として正弦法則、余弦法則がある。これらを用いて、球面三角形の辺、角の一部分がわかっているときに、他の辺、角を求めることができる。球面三角法は、航海などにおける必要から発達し、14、15世紀には今日に近い形ができあがった。
[竹之内脩]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…このような関係式を基本として,三角関数を応用することによって図形を研究するのが三角法である。対象が平面上の図形の場合には平面三角法,対象が球面上の図形の場合には球面三角法と呼ばれている。三角形の3要素を与えて残りの3要素を求めることを三角形を解くと呼ぶが,これは三角法における基本的問題である。…
※「球面三角法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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