日本大百科全書(ニッポニカ) 「トンシャン族」の意味・わかりやすい解説
トンシャン族
とんしゃんぞく / 東郷族
Dongxiang
中国甘粛(かんしゅく)省を中心に、寧夏(ねいか)回族自治区、新疆(しんきょう)ウイグル自治区に居住する人々。人口は62万1500(2010)。民族名称は集住地の甘粛省東郷に由来する。中華人民共和国成立前は独立した少数民族の一つとしては認められておらず、「蒙古回回(もうこかいかい)」「東郷回(とんしゃんかい)」などの名でよばれていた。トンシャン語はアルタイ語族モンゴル語系に属すが、長年、漢字を使用してきており、その多くが中国語を話す。かつてはアラビア文字も使用されていた。モンゴル文字の使用はなかった。民族の起源については、文献に乏しく、諸説がある。当地に駐留したモンゴル軍や、イスラム教に改宗したためオゴタイ・ハン国を追われたモンゴル系の人々の後裔(こうえい)であるとか、東郷地区の回にモンゴル、漢、チベットの諸族が長期にわたって融合して形成されたとかいわれる。いずれにせよモンゴル系の人々と関係があることは歴史資料や伝説などから明らかである。イスラム教徒であり、風俗習慣において中国で「回族」とよばれる人々との類似点が多い。農耕に従事し、ジャガイモを主として、小麦、大麦、裸麦を産する。商品作物として大麻、胡麻(ごま)、菜種が栽培されている。牧畜も行われる。
[横山廣子]
『馬寅編、君島久子監訳『概説中国の少数民族』(1987・三省堂)』