生物が自らまたは共生生物の働きによって発光すること。生物発光はほとんど熱を伴わないきわめて効率の高い光(効率97%)を生物が発することであり,現在の人工照明,人工的化学発光の効率をはるかに越える有機化合物の酸化反応によるエネルギー放射とみなされる。この発光はある光線が照射されている間だけ光るリン光や蛍光と区別され,熱に安定なルシフェリンluciferinと不安定なルシフェラーゼluciferaseと呼ばれる物質の反応(L-L反応と呼ばれる)により生じる。L-L反応は1916年にハーベーE.N.Harveyにより発見され,ホタルルシフェリンは1957年にマッケルロイW.D.McElroyらによりPhoturis pyralisというホタルから単離された。ツバサゴカイやある種のクラゲの発光反応はL-L反応と異なり発光タンパクphotoproteinに金属イオンが作用して酸素を必要とせずに発光する。発光バクテリアの発光反応はホタルのそれより複雑である。ウミホタルとホタルの発光反応は概略次のように示される。
植物で発光するものは少ないが菌類,細菌類などの一部にみられる。暗夜森林の中で青白く朽木や枯葉が光るのは発光菌類の菌糸である。子実体(キノコ)が光るものとしてブナに寄生する有毒なツキヨタケをはじめ八丈島のアミヒカリタケが知られる。死魚や海産食品,肉類,卵その他の食品が発光することがあるが,これは発光バクテリアが寄生したためである。発光バクテリアが生きた生物に寄生した例として,現在ほとんどみられなくなった千葉県佐原地方の小川に出現するホタルエビがあるが,こうした例は他の生物にも知られている。暗夜,浜辺に打ち寄せる波が光るのは発光プランクトン類によるものであり,海水の発光の原因となるのは主として発光液を海水中に分泌し光雲をつくるウミホタルである。そのほか海産発光動物はウミエラ,ウミサボテン,クラゲ,ゴカイ,貝やイカ,タコ,エビ,魚類など多くの動物にわたっているが,陸産発光動物はホタルをはじめとしてコメツキムシ,キノコバエ,ミミズ,ムカデ,カタツムリなどに知られる程度で少ない。植物の発光が連続的発光であるのに対し,動物の自己発光は刺激により明滅することから発光の目的は,同種間のコミュニケーション,餌の誘引,威嚇,カムフラージュなどと考えられている。発光バクテリアや発光キノコ,ミミズ,クラゲなどは発光の目的が不明である。生物発光の色は,ウミホタルが放つ青色光(波長460nm),発光バクテリアの緑色光(490nm),ホタルの黄色光(560nm)などがあり,さらに中南米に分布するPhrixthrixというホタルの雌は頭部から赤色光を発する。
執筆者:大場 信義
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生物ルミネセンスともいう.生物が発光する現象.発光生物には,発光細菌の寄生や発光小動物との共生によるものと,自身の発光によるものとがある.魚類ではキンメモドキ,昆虫類ではホタル,ウミホタル,植物では発光細菌などの分裂植物,鞭毛植物,ツキヨダケなどの担子菌植物などが有名である.生物発光は生体におけるきわめて効率のよいエネルギー変換の一形式であり,本質的には化学ルミネセンスである.ホタルやウミホタルについては数多くの研究が行われ,発光機構も一応解明されたが,そのほかの発光生物については不明な点が多い.発光物質ルシフェリン1分子が酸化酵素ルシフェラーゼとアデノシン5′-三リン酸(ATP)の存在下で,酸素1分子によって酸化される際に,1光子を生成して発光することは,すべての生物発光に共通していると考えられる.ルシフェラーゼが単離された発光生物はまだ少ない.ホタルの発光機構を利用したATP,あるいは酸素の微量定量装置が開発された.試料に一定量のホタルルシフェリンとルシフェラーゼを共存させ,蛍光測定によりATPを定量するもので,その応用が期待される.オワンクラゲから単離された緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein,GFP)は,近紫外および可視光で励起され,緑色の蛍光を発する.発色団の化学構造(p-hydroxybenzylideneimidazolinone)は,分子内の三つのアミノ酸残基(Ser-Tyr-Gly)が反応してできる単純なもので,外界の物質の助けなしに光るという特徴を有する.GFPを使うと通常のタンパク質を蛍光標識することができる.すなわち,遺伝子工学的に,目的とするタンパク質とGFPの融合タンパク質をつくればよいことになる.タンパク質のGFP標識法は,特定のタンパク質の細胞内局在を蛍光顕微鏡で調べるのに有用で,細胞生物学分野で重宝されている.
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