日本歴史地名大系 「皇国地誌」の解説
皇国地誌
こうこくちし
解説 明治八年六月五日太政官の皇国地誌編輯例則に基づき、各府県編纂掛によって編纂された「村誌」と「郡誌」。「村誌」の調査項目には、村名・疆域・幅員・管轄沿革・里程・地勢・地味・税地・飛地・字地・貢租・戸数・人数・牛馬・舟車・山・川・森林・原野・牧場・鉱山・湖沼・道路・堤塘・港・出崎・島・暗礁・灯明台附灯明船・滝・温泉・冷泉・公園・陵墓・社・寺・学校・町村会所・病院・電線・郵便所・製糸場・大工作場古跡・名勝・物産・民業があげられ、「郡誌」にはこれらのほか気候・風俗・郷荘・町村数・官用地・人物・県治・城地陣屋・宿町がある。このうち「村誌」の戸数・人数・牛馬・舟車は明治九年一月一日調に統一されている。一般には、明治五年の各州単位にまとめた内務省地誌課編纂、翌六年完成の「日本地誌提案」と、同一七年内務省地理局調査、同一九年から刊行された「大日本国誌」を含めて「皇国地誌」と総称されており、とくに区別するため明治八年開始の皇国地誌を「郡村誌」と称することもある。神奈川県の皇国地誌は編纂掛星野東作を中心に明治九年から同一八年にかけて郡ごとに編纂された。原本は東京帝国大学(現東京大学)図書館が大正一二年の関東大震災で焼失したため灰燼に帰したが、「相模国鎌倉郡村誌」四冊が現存、このほか県内各地に草稿が残存している。復刻は「神奈川県皇国地誌残稿」(上・下)(昭和三八―三九年刊)に収録され、また各市町村などで発見されたものも市町村史などで復刻が続けられている。
皇国地誌(郡村誌)
こうこくちし
二八冊 島根県内各村編
成立 明治九―二〇年
副本 島根県立図書館など
解説 明治新政府は全国一律の村誌・郡誌の編纂事業を決し、明治八年「皇国地誌編輯例則」を発して各県へ通達した。これにより島根県でも同九年現在の村誌を提出することが各郡へ通知され、各村単位の村誌を郡が集め、県が編纂したのが本書である。総称名は「皇国地誌」であるが、各々は「島根郡村誌」「出雲郡村誌」などの名称となっている。記載内容は一律で、疆域・幅員・管内沿革・里程・地勢・地味・税地・飛地・字地・貢租・戸数・人数・牛馬・舟・車・山・川・橋・森林・溝・堀・原野・牧場・鉱山・湖沼・道路・堤・出崎・島・暗礁・陵墓・灯明台・滝・温泉・冷泉・公園・社・寺・学校・村会所・病院・電線・郵便局・製糸場・大工作場・造船場・古跡・名勝・物産・民業・埋葬地などである。一律記載のため個性はないが、県内の各村を知るうえで貴重。
正本は国へ提出され、副本が島根県に残された。そのうち国のものは現存せず、島根県から島根県立図書館へ移管されたもののみが残る。全村提出されなかったためか、現存するものは次のとおり。出雲地域の島根・大原・仁多・飯石・神門・出雲・能義の各郡と秋鹿郡の一部、石見地域の那賀郡・安濃郡と邑智・邇摩・鹿足郡の一部、隠岐地区の知夫・海士・穏地・周吉各郡の村々。以上は島根県立図書館が所蔵。ほかに楯縫郡の村々の一部を平田市立図書館が所蔵。
皇国地誌
こうこくちし
石川県地誌編輯掛
解説 明治初期に計画編纂された官撰の地誌で、石川県の場合金沢区・石川郡・能美郡の三地区のみが編纂され、内務省に提出された。他の地区については編纂されず未完。副本が県に保管されていたが、保管場所の移動や火災のため散逸紛失したものもある。編纂されたものは「加賀国金沢区地誌」二冊、「加賀国石川郡村誌」(村誌・郡誌・宿町誌・付録)一八冊、「加賀国能美郡村誌」(村誌・郡誌・宿町誌・付録)一六冊からなり、成立は金沢区地誌が明治一三年、石川郡村誌が同一六年、能美郡村誌が同一八年であった。現在県立図書館に石川郡関係一三冊・能美郡関係一三冊の副本が残り、加越能文庫には前田家編輯方で写本した金沢区地誌および石川郡関係一四冊が収められている。なお不明のものは石川郡関係の村誌第一巻・第二巻、郡誌の三冊と、各地区の地図三幀。
活字本 「石川県史」資料近代篇(一)―(四)(一五)(昭和四九―五二年、六三年)。
皇国地誌(郡地誌)
こうこくちし
写本 宮城県図書館
解説 明治八年政府が各府県に対し郡村ごとの地誌作成を求めたおり編纂された地誌。疆域・里程・戸数・男女人数・山川・寺社・物産・民業などが記され、明治二二年の市制町村制施行以前の村々の姿を知りうる。現在みられるのは以下のとおり。磐城国の刈田郡地誌・亘理郡地誌、陸前国の牡鹿郡地誌・加美郡地誌・黒川郡地誌・志田郡地誌・柴田郡地誌・玉造郡地誌・登米郡地誌・名取郡地誌・宮城郡地誌・本吉郡地誌。いずれも村ごとの付図がある。成立は明治二〇年前後を最終とし、同九―一〇年と考えられるものもある。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報