直接投資(読み)チョクセツトウシ(英語表記)direct investment

デジタル大辞泉 「直接投資」の意味・読み・例文・類語

ちょくせつ‐とうし【直接投資】

外国における企業の経営支配を目的として行われる対外投資。既存企業の株式の取得、子会社の設立、支店・工場の新設などの形態をとる。

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精選版 日本国語大辞典 「直接投資」の意味・読み・例文・類語

ちょくせつ‐とうし【直接投資】

  1. 〘 名詞 〙 投資者が、資本および技術の提携を通じて、自ら経営に参加するような投資。有価証券市場で入手する形の間接投資に対する。

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改訂新版 世界大百科事典 「直接投資」の意味・わかりやすい解説

直接投資 (ちょくせつとうし)
direct investment

企業が成長し,その生産・販売・経営の技術の集合である〈経営資源〉を,国境を越えて再配分する行為を直接投資と呼ぶ。証券投資portfolio investmentとしての外国証券の購入(間接投資)に対応する用語。外国で直接事業活動を行うところに特徴があり,対外(海外)直接投資direct foreign investmentともいわれる。直接投資を行う企業は,多国籍をもつ,あるいは国境を越えて生産活動を行うため,〈多国籍企業〉〈超国家企業〉とも呼ばれる。直接投資が世界的な現象として注目されるようになったのは1960年代以降である。この歴史的背景には,第2次大戦後アメリカが主導して世界の通商・金融制度が築かれ,アメリカの巨大企業が世界的拡張を図ったことがあるが,70年代以降には,日本や欧州の企業が成長し,アメリカ向けを含む直接投資を推進している。直接投資の増大は,一般的には経済活動の広がりが国家規模を超えるようになったことと,経済制度が少なくとも市場と私企業を中心とする諸国家の間では共通ルールを維持しやすかったことがあげられる。この証拠に,先進工業国間,南北間(発展途上国先進国間)投資は多いが,東西間(中央計画経済圏・市場経済圏間)投資は少ない。

 直接投資の形態としては,(1)垂直的統合vertical integration,(2)水平的統合horizontal integration,(3)多角化diversificationがある。(1)は鉄鋼メーカーが鉱山開発をしたり,機械部門の工場を経営するなどの上流・下流部門への進出,(2)は自動車メーカーが世界各地で同一製品を生産する場合を指す。(3)はいわゆるコングロマリット化を指し,異業種への進出を意味するが,国境を越えてこのような活動をするのは商社の場合を除くと少ない。直接投資は,最も効率的な企業が各国で活動するという点では世界の厚生向上に寄与するが,しばしば巨大企業による世界市場の支配による競争制限的効果も生む。このため,直接投資の増大に伴って,各国の独占禁止法の適用強化や国際間の調整が重要になる。他方,南北間投資の場合には,本来発展途上国にはまだ近代的企業が少ないために,産業の外国企業による支配という政治的懸念が強い。また多国籍企業による政治への介入も起こりがちである。さらに,多数の伝統的家内工業が分解する社会的過程が,多国籍企業への反発を強め社会的緊張を生む。こうして南北間直接投資は,先進国間投資にはみられない各種の政治的・社会的衝撃を生む。

 日本の直接投資は,大蔵省の許可累計統計によると,1951-82年度で531億ドルに達し,うち約53%が発展途上国向けで,他の先進工業国に比べその比重が高い。日本の直接投資は1960年代後半から増加したが,アジアラテン・アメリカ向けが多かった。70年代半ばからは,円為替レートと国内賃金の上昇,日本企業の技術力の上昇と他方欧米諸国の保護主義の高まりによって,先進工業国への投資も増加した。
国際資本移動
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「直接投資」の意味・わかりやすい解説

直接投資
ちょくせつとうし
direct investment

国際資本移動の一形態で、投資家が外国で事業を行うため、被投資国で実物資産を獲得したり、あるいは事業の支配権を握る目的で被投資国の株式を取得する場合をさす。間接投資(外国会社の株式の買入れ、外国公社債への応募、貸付)と異なり、直接投資は経営の支配を伴う。この支配には、株式を所有するという法的意味と、経営上の意思決定(人事、研究開発、新製品の発売、配当に関する)を握るという意味とがある。直接投資は、単なる資金の移動にすぎない間接投資と異なり、企業のもつ技術、経営・マーケティング能力、資金、原材料などの投入物あるいは市場への有利なアクセスなどの経営資源の移転を伴うもので、経営資源に対する統制が企業内に留保されている。

 直接投資の重要な担い手として多国籍企業があるが、その行動は投資国・被投資国の双方から注目されている。

[相原 光]

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知恵蔵 「直接投資」の解説

直接投資

国際資本移動の一形態。他国での子会社の設立や子会社への金銭貸付、経営参加を目的とした企業の株式取得(国際収支統計上は10%以上)などを含む。金融的収益獲得の目的で行われる間接投資と並ぶ概念。直接投資は、受け入れ国に資本形成、技術や経営資源の移転をもたらす。進出の動機によって、生産条件指向型(低賃金国への工場設置など)、資源開発型、市場密着型、貿易摩擦回避型、グローバル・ネットワーク構築型、などに分かれる。直接投資が垂直統合の形態をとる場合は、効率性の向上や市場支配力の拡大といった利点があるが、立地論上は集積効果も強調される。プラザ合意以降、日本企業は1980年代後半から90年代前半にかけて、ASEAN諸国を中心に短期間に大規模な直接投資を行ったが、近年ではWTOに加盟した中国への進出が急増している。ユーロ導入後は、欧米大企業間のM&A関係の直接投資が活発化している。新興市場では、ラテン・アメリカと東アジアが直接投資受け入れの大部分を占める。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「直接投資」の意味・わかりやすい解説

直接投資
ちょくせつとうし
direct investment

経営参加を目的として株式を購入したり,現地の既存企業を買収したり,新たに工場を建設したりする投資をさす。一方,値上がり益や利子・配当所得を目指した証券の購入が間接投資である。日本の直接投資は 1986年以降急増している。これは (1) 円高によって海外の生産コストが低下し,海外生産が有利化したこと,(2) 貿易摩擦を避けるため,現地生産を行う企業が増加したこと,(3) 海外の不動産所得のための投資が活発化したこと,などのためである。直接投資の受入れは,発展途上国からも先進国からも歓迎されることが多い。それは (1) 現地雇用の増加に貢献すること,(2) 債務性がないため経済運営を制約しないこと,(3) 現地生産に伴い,技術移転が進むことが期待できること,などのためである。 (→国際資本移動 )  

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世界大百科事典(旧版)内の直接投資の言及

【国際資本移動】より

…国際資本移動とは,いくつかの種類の異なる国際金融取引の総称であるが,一般に経営資源(生産技術や経営上のノウ・ハウ)を含む広義の資本という生産要素が国際的に移動することである。国際資本移動は,(1)間接投資,(2)直接投資,(3)経済援助,贈与および賠償からなっている。(1)の間接投資とは,A国の居住者(政府,公共体は除く)がB国の居住者の証券(株式,社債,国債)を買うか資金を貸し付けることである。…

【資本自由化】より

…広義には,対外資本取引に係る公的規制を撤廃し,外国居住者を相手とした株式・債券の売買や資金の貸借を自由に行わしめることをいうが,日本では慣習的に狭義に,外国から日本へ向けての直接投資(外資系企業の日本への進出)を自由化することを指すことが多い。 日本は,1964年にIMF協定8条の義務を受諾し(いわゆるIMF8条国への移行),輸出入取引等から生じる対外決済に関する公的制限を原則として行わないこととした。…

※「直接投資」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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