書道の書体の類型を示す言葉。さらに日本人の美意識の表現として広く用いられた言葉である。中国の東晋時代に書道の基礎を作った王羲之によって,古代の篆書(てんしよ)・隷書(れいしよ)に対して真(楷書)・行・草の三体が確立したといわれ,日本では奈良時代後期の《正倉院献物帳》に王羲之の書として真行草の文字が見える。書道の普及とともに,最も格式の高く整った真と,その対極に位置する最も破格の草,その中間項の行を,3段階の様式表現の用語として,書道以外のさまざまのジャンルでも用いるようになった。たとえば絵画の画体や表具の形式,庭や建築のプランと意匠,芸能における芸態,作法におけるふるまい方などに真行草の語があらわれ,時・所・位にふさわしい様式の分類が真行草によって示されることが多くなる。
ところで中国書道における真行草の関係は,真こそ最も正統なる格式として高い価値が与えられ,行・草は真に追随する様式とされるが,日本では,ことに日本的美意識の発達する中世になると真行草は等価値,ないし草こそ最も熟達の書風として,草の極に至って価値観が逆転してしまう発想が生じてくる。ことに芸道の世界では中世に不完全の美ともいうべき〈わび〉〈冷え枯れる〉といった美しさが注目され,真の格をやつし,くずすことによって,より精神性の高い〈わび〉の美に至ろうとする思想が支配的になる。たとえば茶道では書院台子の茶を真とし,ハレの儀礼ではその形式に従うのであるが,〈心の至る所は,草の小座敷にしくことなし〉(《南方録》)と,わび草庵の茶を心の深味を味わう茶の湯としている。真行草はこうした様式上の違いを示す場合のほかに,稽古の段階を示す語として用いることもある。徹底した稽古は真の格を体得する〈守格〉であるが,名人となれば形式をくずし自由に演じ〈破格〉をめざすべきだ,と能楽などで論じている。同義に近い言葉として〈守破離〉がある。
執筆者:熊倉 功夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…障壁画の場合は工房による共同制作が有効なものであって,石山本願寺の記録には子の松栄をはじめとする数人の名が見いだせ,大徳寺大仙院や妙心寺霊雲院の障壁画は,元信以外に弟の之信など数人が参加していると考えられている。中国画を手本として描いた筆様というそれまでの方法に対して,狩野派独自のスタイルである真・行・草の画体を作り上げたことも重要で,これによって大量の障壁画に共同してあたれるようになった。題材は山水,人物,花鳥のすべてにわたり,正信の手がけなかった絵巻物も描いている。…
※「真行草」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新