瞼の母(読み)マブタノハハ

デジタル大辞泉 「瞼の母」の意味・読み・例文・類語

まぶたのはは【瞼の母】[戯曲]

長谷川伸戯曲。幼い頃に生き別れた母を探すやくざの忠太郎の物語。昭和5年(1930)雑誌騒人」に発表。昭和6年(1931)明治座初演
佐伯幸三監督による映画の題名。昭和27年(1952)公開。出演、堀雄二、三益愛子ほか。
加藤泰監督による映画の題名。昭和37年(1962)公開。出演、中村錦之助(万屋錦之介)、大川恵子ほか。
[補説]はいずれも原作とする作品。

まぶた‐の‐はは【×瞼の母】

記憶に残っている母のおもかげ
[補説]作品名別項。→瞼の母

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精選版 日本国語大辞典 「瞼の母」の意味・読み・例文・類語

まぶたのはは【瞼の母】

戯曲。二幕四場。長谷川伸作。昭和五年(一九三〇)発表。生き別れの母に再会した博徒番場の忠太郎は、妹娘の幸福を思うあまりつめたい仕打ちをする実母現実の姿に夢破れて、瞼の母の面影に生きるという筋。

まぶた【瞼】 の 母(はは)

おもかげとして記憶に残っているだけの母。〔新語新知識(1934)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「瞼の母」の意味・わかりやすい解説

瞼の母 (まぶたのはは)

長谷川伸による戯曲。1930年村松梢風の主宰する雑誌《騒人》に掲載され,31年,13世守田勘弥を主役に初演されたが,のち実母と再会した著者の意向で,46年まで上演が見あわされていた。その間に,講談,浪曲などでは盛んに脚色口演され,浪曲の三門(みかど)博,伊丹秀子らが十八番とした。生き別れた母を求めて,さすらいの旅に出ていた番場忠太郎(ばんばのちゆうたろう)が,再会した母から,やくざ姿であるがゆえに息子であることを否定され,また旅に出るという,アウトローを描いた股旅(またたび)物の傑作新派新国劇,また旅回りの劇団などによっても盛んに演じられ,映画化もされている。
執筆者:

最初の映画化は原作が発表された翌年の1931年に作られた無声映画で,監督はこれ以後〈股旅映画の名匠〉と評されるに至る稲垣浩片岡千恵蔵による番場の忠太郎,常盤操子のおはま(実母)で,またおはまの娘役として当時14歳の山田五十鈴が出演。映画のラストは実母と再会を果たすハッピーエンドの〈人情時代劇〉になっており,稲垣浩の証言によれば,原作者の長谷川伸と話し合って,当時の暗い世相をかんがみて親子が名のり合う結末に変えたという(長谷川伸の戯曲そのものにも同じハッピーエンド版がある)。その後の映画化としては,中川信夫監督,若山富三郎の忠太郎,山田五十鈴の母による《番場の忠太郎》(1955),加藤泰監督,中村錦之助(のち萬屋錦之介)の忠太郎,木暮実千代の母による《瞼の母》(1962)が有名で,いずれも母のイメージを瞼のなかに秘めて去っていくという悲劇の結末となっている。なかでは加藤泰監督作品が,母(夏川静江)や盲目の乞食女(浪花千栄子)や初老の夜鷹(沢村貞子)らを〈母に似た〉女のイメージとして印象的に画面に出し,やくざ渡世に生きる男の悲しみを切々と描き出した詩情あふれる股旅映画の秀作になっている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「瞼の母」の意味・わかりやすい解説

瞼の母
まぶたのはは

長谷川伸(はせがわしん)の戯曲。二幕。1930年(昭和5)『騒人』3、4月号に発表。翌年3月明治座で13世守田勘弥(かんや)らにより初演。江(ごう)州(滋賀県)番場生まれの忠太郎は、一宿一飯の博徒だが、生き別れをした母親を尋ねて旅を続け、江戸柳橋の料理屋水熊(みずくま)の女将(おかみ)おはまがその人らしいとの話に面会を求める。おはまは忠太郎の話から実の子と知るが、金目当てかと疑い、妹お登世(とせ)への迷惑も考えてかたくなに母と名のらず、忠太郎は失望して去る。兄を思うお登世のことばに翻然としたおはまは、忠太郎の後を追うが、忠太郎は瞼を閉じれば浮かんでくる母への思いを胸にひとり旅立つ。5歳のとき母と生別した作者の実人生に裏づけられた股旅(またたび)物の傑作で、1933年(昭和8)作者が生母と47年ぶりに再会してから、母病没(1946)まで上演を差し止められていた。舞台、映画、テレビなどで多くの俳優によって演じられている。

[藤田 洋]

『『長谷川伸全集15 戯曲I』(1971・朝日新聞社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「瞼の母」の意味・わかりやすい解説

瞼の母
まぶたのはは

長谷川伸の戯曲。2幕4場。 1931年3月明治座で 13世守田勘弥初演。幼いときに別れた母を慕う番場の忠太郎は,やっとめぐり合った母から義理のために追返され,瞼に浮ぶ母の姿を慕い続けて旅に出る。股旅物の代表作の一つで,新国劇,辰巳柳太郎の当り役。

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