知・領(読み)しる

精選版 日本国語大辞典 「知・領」の意味・読み・例文・類語

し・る【知・領】

[1] 〘自ラ五(四)〙 物事の性質、なりゆき、対処すべき方法などがわかる。
万葉(8C後)一五・三七四九「他国(ひとくに)に君をいませていつまでか吾(あ)が恋ひ居らむ時の之良(シラ)なく」
[2] 〘他ラ五(四)〙 物事をすっかり自分のものにする意。
[一] (知)
① 物事の発生、存在、状態、内容、趣きなどをわきまえる。
(イ) 物事の発生や存在を認める。意識する。認識する。感知する。
古事記(712)下・歌謡「天飛(あまだ)む 軽のをとめ いた泣かば 人斯理(シリ)ぬべし 波佐の山の 鳩の 下泣きに泣く」
※枕(10C終)九六「聞きゐたりけるをしらで、人の上いひたる」
(ロ) 物事の状態、なりゆき、他との区別、対処すべき方法などをわきまえる。
書紀(720)皇極三年六月・歌謡「小林(をばやし)に 我を引き入(れ)て せし人の 面(おもて)も始羅(シラ)ず 家も始羅(シラ)ずも」
※土左(935頃)承平五年一月一一日「ただ月を見てぞ、にしひんがしをばしりける」
(ハ) 物事の意味、内容、情趣本質などを理解する。さとる。
※万葉(8C後)五・七九三「世の中は空(むな)しきものと志流(シル)時しいよよますます悲しかりけり」
古今(905‐914)仮名序「いにしへのことをも、哥のこころをもしれる人、わづかにひとりふたりなりき」
(ニ) 打消の語を伴って、「…することができない」の意に用いる。
※万葉(8C後)五・七九四「言はむ術(すべ) せむ術知らに 石木をも 問ひ放(さ)け斯良(シラ)ず」
② 考えに入れる。考慮する。
※枕(10C終)二三「『さらにただ、手のあしさよさ、歌のをりにあはざらんもしらじ』とおほせらるれば」
徒然草(1331頃)二「民の愁、国のそこなはるるをもしらず、よろづにきよらをつくしていみじと思ひ」
③ 実際に行なってみたり、見聞したりする。経験する。→男を知る女を知る
※竹取(9C末‐10C初)「ある時には、風につけてしらぬ国に吹よせられて」
源氏(1001‐14頃)夕顔「いにしへもかくやは人のまどひけん我まだしらぬしののめのみち
④ 人と交わり親しむ。面識がある。
※古今(905‐914)雑上・九〇九「たれをかもしる人にせん高砂の松も昔の友ならなくに〈藤原興風〉」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「明けぬればしれる大徳の坊におりぬ」
⑤ 関知する。かかわりあう。下に打消の語を伴って、相手のことばに対して「拒絶する、問題にしない」という気持を表わす場合が多い。
※源氏(1001‐14頃)東屋「この君は、ただまかせ聞こえさせてしり侍らじ」
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「あたしゃア知らないからいい…私しゃア…其様(そん)な失敬な事って…」
[二] (領)
① ある範囲の土地などを治める。統治する。
※古事記(712)下・歌謡「汝(な)が御子や 遂に斯良(シラ)むと 雁は卵産(こむ)らし」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「春宮の御おほぢにて遂に世中をしり給べき右のおとどの御いきほひは」
② ある場所、土地などを領有する。また、品物や建物などを管理する。
※万葉(8C後)七・一三三七「葛城の高間の草野(かやの)早知(しり)て標(しめ)刺さましを今そ悔しき」
※徒然草(1331頃)二三六「丹波出雲と云所あり〈略〉しだのなにがしとかやしる所なれば」
③ 世話をする。責任をもって扱う。
落窪(10C後)四「いとゆたかに、御位のまさるままにも、万をしり給ひ、心もとなき事なし」
[3] 〘自ラ下二〙 ⇒しれる(知)

しら‐・す【知・領】

[1] 〘他サ下二〙 ⇒しらせる(知)
[2] 〘他サ五(四)〙 (「しらせる(知)」が四段活用化したもの)
① =しらせる(知)(一)①
※浄瑠璃・源平布引滝(1749)三「虫がしらして女房も若(もし)や娘の肘かと」
② 特に、茶屋や揚屋が、置屋に客のあることを知らせる。また、芸娼妓を客の座敷へ呼ぶ。
※洒落本・月花余情(1746)「申し、哥夕さんへしらすぞへ」
③ =しらせる(知)(一)③
※読本・椿説弓張月(1807‐11)続「王女にこの国をしらし、おのれ国相となりて威勢をふるはんと計校(もくろみ)

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