遊女を招いて遊興させる家。遊興の形式には,客が遊女屋へあがる形式と,別の場所へ遊女を招く形式とがあり,揚屋は後者の一例である。この制度の起源は不明だが,寛永期(1624-44)にはすでに整備されていた。私娼(ししよう)を呼ぶ家と違い,遊郭内で費用も高い揚屋が設けられたのは,おもに上級武士客の必要に応じたもので,揚屋へあがるときは腰の物を預ける規則であった。また,遊女の出張・派遣(町売りという)を禁止したことにも関連していると考えられる。揚屋のない長崎の丸山遊郭では,町行きや船遊山(ふなゆさん)が自由であったことが反証となる。遊郭の揚屋制は絶対条件でなかったから,遊郭によって揚屋をおかぬ所もあれば,地方で三都をしのぐ揚屋数をもった所(下関など)もあった。三都では,揚屋は上級妓(太夫,上天神)との遊興の場所とされた。とくに大坂では揚屋制が発達し,揚屋の設備・待遇は全国一と称された。また,中級以下の遊女を招く家を茶屋と呼んで区別し,さらに私娼街でも送込み制をとってこれを呼屋といった。これに対し,江戸では発達せず,延宝(1673-81)ころには大坂の35軒に江戸は14軒,宝暦10年(1760)ころには最後の1軒も消えた。遊女が客の招きに応じて遊女屋から揚屋へ行くことを〈揚屋入り〉といい,盛装して引舟,禿(かむろ),傘持ちらを従え,寝具などを携えて行列したので,これを道中と称した。吉原における花魁(おいらん)道中の原形である。
執筆者:原島 陽一
江戸時代の牢屋における特別の部屋。幕府の小伝馬町牢屋では収監者を身分によって分隔拘禁したが,武士を収容するのが揚座敷(あがりざしき)と揚屋である。500石未満の御目見(おめみえ)以上直参(じきさん)の武士は揚座敷,御目見以下の直参,陪臣は揚屋に入れ,僧侶,神職も格式により揚座敷,揚屋に分けた。いずれも雑居拘禁であるが,揚座敷に比べると揚屋は食事をはじめとする処遇,牢名主の支配など,実情は庶民の牢とそれほど差異はない。5部屋あったが,1部屋は女牢(おんなろう)と称して身分を問わず女性だけを収容し,また1部屋は遠島者を出船の前日集めておく遠島部屋に用いられた。幕府の地方の牢,藩の牢なども,武士を庶民と区別して収容した。
執筆者:平松 義郎
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遊廓(ゆうかく)で遊女を招いて遊興させる店。遊女屋とは別に、遊興の場所のみを提供する店として揚屋が登場するのは近世初期である。遊女屋での遊興に比べて費用は高くても、優雅な待遇を求める需要に応じたものである。したがって、揚屋を利用するのは太夫(たゆう)、格子(こうし)などの高級遊女の客に限られ、中以下の遊女を招く店は茶屋、私娼(ししょう)街での類似店は呼屋(よびや)といって区別した。揚屋のある遊廓でも下級妓(ぎ)は遊女屋に客を揚げた。遊女が揚屋へ往復するときは従者を連れて行列し、これを道中と称した。花魁(おいらん)道中の原型である。江戸の新吉原では、1760年(宝暦10)ごろに揚屋が消滅し、かわりに独特な引手(ひきて)茶屋の制度が生まれた。
[原島陽一]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…操り初演と同年の1780年4月に江戸森田座で通しの初演。以来現今まで主として七段目,おのぶが宮城野と再会する《揚屋》が独立して上演されてきた。全盛の太夫と奥州弁の田舎娘というコントラストが趣向として成功している。…
…京都市下京区揚屋町にある旧遊郭島原の揚屋の遺構(重要文化財)。江戸初期の1640年(寛永17)に六条三筋町の遊郭が島原に移転したときから現在地にある。…
…とくに京坂地方でこの形式が発達し,大坂の堀江,曾根崎などの遊所は茶屋株での営業であり,これを色茶屋といった。遊郭にも太夫を呼ぶ揚屋に対し,下級妓を招く茶屋(または天神茶屋)があったから,〈茶屋遊び〉といえば遊所への出入りを意味した。色茶屋の女に,茶屋女,茶立女,茶汲女,山衆(やましゆう)などいろいろな呼名が与えられたのは,類似商売の多様化を示すが,遊郭が認められない場合に茶屋として営業する例は多く,地方都市で茶屋町といえば私娼(ししよう)街のことであった。…
※「揚屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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