日本大百科全書(ニッポニカ) 「知覚の現象学」の意味・わかりやすい解説
知覚の現象学
ちかくのげんしょうがく
La phénoménologie de la perception
フランスの哲学者モーリス・メルロ・ポンティの初期の最重要著作。フッサール現象学の諸成果を踏まえ、またそれを独創的に解釈し直しつつ、主として「身体」の問題に定位しながら、西欧の伝統的な二元論的発想――精神/身体、主観/客観、観念論/実在論など――を克服しようとした。知覚についての伝統的な二つの考え方――主知主義と経験主義――が退けられたのちに「現象野」のうちに現れてくる「世界=内=存在」としての身体は、単なる物質的、物理的な客体なのではなく、まさしく人間と世界、主体と客体とが戯れ合う「両義性」の場である。身体の両義性を強調することによって、デカルト以来の対自(精神)と即自(身体・物体)との二元論的把握を転覆しようとの戦略である。
[足立和浩]
『竹内芳郎他訳『知覚の現象学』全二巻(1967、74・みすず書房)』▽『中島盛夫訳『知覚の現象学』(1982・法政大学出版局)』