出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
中国,朝鮮において,石刻の人像,怪獣をいう。始皇帝の命により対匈奴戦争に従軍した偉丈夫,阮仲翁の伝説にもとづき石人を翁仲ともいう。中国では古くから,宮殿,祠廟,墳墓などの前に石造の人物や怪獣を配置した。陝西省興平県霍去病(かくきよへい)墓の墳丘をめぐって立てられていた16体の馬,虎,人,猪(ブタ),牛,羊,蝙蝠,魚などを表した石像は,石人石獣のもっとも古い形とされている。だが,前漢の遺例はこのほかになく,後漢代に墓前に立てられた石人石獣が後代につながる形式をとる。長期間の間に,原位置から移動している場合が少なくないが,墳丘正面の参道を神道(しんどう)とよび,その両側に左右1対の石闕(せつけつ)(石でつくった入口の楼門),石獣,神道石柱(墓主の姓名を記し墓域を示す標柱。神道碑,華表ともいう)を立てたようである。石獣は虎,獅子,麒麟,羊,象などの形をとり,それらは一般に邪悪を避ける想像上の動物として辟邪とよばれている。つまり,悪霊が墓に入るのを防止する役割を担っているのである。石人の遺例は少ないが,山東省曲阜の籰相圃(ふくそうほ)にある武人の姿をとる1対の石人には〈漢故楽安太守麃(ひよう)君亭長〉〈府門之卒〉という銘文が刻まれており,墓を守る武人であることがわかる。石人石獣を墓室内に埋納する場合もあった。河北省望都2号後漢墓では騎馬の石像を入れており,山東省嘉祥県の後漢墓では,鋤を手にする石人と,頭に角を生やし舌を出して斧と紐を持つ石人を入れていた。この場合は神像であろう。墓ではないが四川省の都江堰にまつられていた李冰(りひよう)(治水の功労者)の石像と鋤を持つ石人も神像である。
魏晋南北朝時代には,後漢代の石人石獣がうけつがれている。北朝ではいくつかの石獣・石馬が知られている程度で,あまりよくわかっていない。南朝では石獣が比較的よくのこり,東晋から梁代にかけての時代的変化をたどることができる。江蘇省の南京(丹陽)付近にはその時代の陵墓が分布し,神道に石獣,神道石柱,石碑がいまなお雄姿をとどめている。南朝の石獣は後漢のものにくらべて巨大化し,彫刻的にも洗練され,仏教的な装飾文様が付け加えられている。皇帝の陵では1対の石獣を配するが,角の2本ある怪獣(天禄とよんでいる)を神道の左に置き,角が1本の怪獣(麒麟とよんでいる)を右に配する。この1対の石獣を先頭にして,その後に神道石柱1対,石碑1対を加えるのが帝陵の制度であった。それに対し,王公貴族墓では,石獅子1対,神道石柱1対,石碑1対であり,天禄と麒麟を置くことは許されなかった。
唐代になると石人石獣は,墓を悪霊から守る意味よりも帝王の威厳を誇示するものへと変化し,珍獣や服属した諸国の王の群像を加えるようになる。高祖李淵の献陵では石犀・石虎を左右に配し,これに神道石柱,石碑を加えるにとどまるが,それ以降になるとしだいに豪華さを加える。高宗の乾陵では神道の南から,神道石柱,石馬,朱雀,石人(武官),蕃酋像(服属の諸国王の像),石碑,獅子の順に並べるのであるが,石馬は3対,石人は10対,蕃酋像は60体と著しく数量を増している。このような石人石獣は将作監の属官である甄官署(けんかんしよ)で,石磐,石柱,石碑などとともにつくられ,石人石獣の数は三品以上では6体,五品以上では4体と決められていた(《大唐六典》)。事実,太宗の昭陵に葬られた長楽公主墓でも,石人,石羊,石虎,神道石柱,石碑を配置するにすぎない。唐代に行われた神道の制度は,宋以降さらに種類を増しながら,南京郊外にある明の太祖洪武帝の孝陵をはじめ,北京の明十三陵,清の東陵,西陵(清陵)にみられるように明・清時代まで引きつがれ,帝王陵の威厳を示す不可欠な要素となった(神道碑)。
朝鮮には唐の石人石獣が伝わっている。慶州の掛陵(けりよう)では神道をはさんで,神道石柱,文官石人,武官石人が各1対,獅子が2対並んでいる。表現は必ずしも唐代陵墓と同じでないが,唐の強い影響のもとでつくられたことは明らかである。日本の陵墓に石人石獣が採用されることはなかった。
執筆者:町田 章
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 墓の前に拝殿など祭祀の施設をつくることもある。また,死者を守る従者や軍馬などの彫像を立てたりすることは,漢の霍去病墓に立てた馬の石彫以来,古代中国で知られている(石人石獣)。新羅の王陵には周囲に十二支像を表現した護石(ごせき)を配している。…
※「石人石獣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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