バリウムの硫酸塩。天然には重晶石として産出する。これを粉砕して水簸(すいひ)にかけたものを水簸性硫酸バリウム(バライト粉)、また還元焙焼(ばいしょう)して硫化物とし、その水溶液に硫酸ナトリウムを加えて沈殿させたものを沈降性硫酸バリウムという。天然産のものは通常不純物で着色されているが、純粋なものは無色。沈殿の生成条件によって、コロイド状から比較的大きな結晶までさまざまな形状をとる。水にはほとんど溶けない。空気や熱に対して安定で、硫化水素によっても変色しない。白色顔料としての用途がもっとも多く、硫化亜鉛と混合したものをリトポンという。
[鳥居泰男]
広く使用されている安定な体質顔料で、沈降性硫酸バリウムとバライト粉(水簸性硫酸バリウム)がある。
(1)沈降性硫酸バリウム 重晶石粉末にコークス、石炭を加え、ロータリーキルン中、700~1000℃で還元焼成し、生成物を水で浸出、硫化バリウム水溶液を得、これにあらかじめ精製した硫酸ナトリウム水溶液を加え、硫酸バリウムを沈殿させる。原料液の濃度、反応温度が粒子の形状、大きさを左右するので、用途に応じ反応条件を設定する。斜方晶系、白色度は非常に高い。濃硫酸、溶融アルカリ以外には不溶。耐光性、耐候性、耐熱性に優れている。屈折率は1.64、バライト粉より隠蔽(いんぺい)力は大きい。体質顔料、塗料、印刷インキ、アート紙、ゴムあるいはプラスチック充填(じゅうてん)剤、蓄電池の極板充填剤、特殊なものとして、レントゲン写真の造影剤に用いられる。
(2)バライト粉 重晶石を選別し、粉砕、水洗、分級し、硫酸あるいは塩酸を加え加熱し、鉄分などの不純物を溶解除去し製品とする。化学的性質は沈降性硫酸バリウムと同じであるが、鉱石を粉砕してつくるため、さらさらした粉末で、比重4.0~4.5、体質顔料中もっとも重く、屈折率は1.63、したがって、あまに油の中では透明となる。塗料用の体質顔料、ゴムやプラスチックの充填剤、特殊な用途として、ゴムなどに充填し放射線遮蔽用にする。乾式粉砕したものは、同じく放射線遮蔽用の壁材となる。
[大塚 淳]
X線造影剤で、水溶性のバリウム塩または水酸化バリウムに希硫酸または水溶性の硫酸塩を作用させてつくる。白色の粉末で、においや味はない。X線造影用にはとくに精製し、ヒ素を含まないものが用いられる。通常、服用しやすくするために香料や甘味料などを加え、懸濁化剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを用い、均質な懸濁液として消化管のX線撮影に用いられる。
[幸保文治]
化学式BaSO4。天然には,重晶石として,セッコウ(硫酸カルシウム)とともに産出する。純粋なものは,バリウム塩の水溶液に硫酸イオンを含む水溶液を加えれば,白色の沈殿として得られる。Ba2⁺イオンとSO42⁻イオンとが,ゆがんだ岩塩NaCl型構造をつくっているイオン結晶で,融点は1580℃と高いが,1200℃以上で分解しはじめる。比重4.49(15℃)。水にはきわめて溶けにくく,100gの水への溶解度は0℃で0.115mg,30℃で0.285mg,50℃で0.336mg,100℃で0.41mgにすぎない。しかし強酸の溶液には溶けやすくなり,3%の塩酸100gには室温で約6mg溶け,さらに濃硫酸には錯体をつくるので著しく(10~20%)溶解する。この溶液を水でうすめると硫酸バリウムがふたたび沈殿するので,これによって精製することができる。美しい純白色で,空気や熱,あるいは硫化水素その他の有害なガスにあっても長く変色しないから,〈不変白permanent white〉と呼ばれ,重要な白色顔料となる。しかし被覆力が不十分なので,硫化亜鉛や有機顔料と混用されることが多い。またX線の吸収力が強いので,X線による診断の造影剤として用いられる。溶解度がきわめて小さいためにバリウム塩類特有の毒性が現れないから,胃腸内の検査にとくに具合がよい。そのほかアート紙,壁紙,写真用印画紙などの表面を白くなめらかにするための充てん剤として,また白色ゴムの製造にも用いられる。
執筆者:曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
BaSO4(233.39).天然には重晶石として産出する.バリウム塩水溶液に硫酸または硫酸塩を加えると沈殿として得られる.無色の斜方晶系結晶.1149 ℃ で単斜晶系に転移する.融点1580 ℃.密度4.50 g cm-3.水に難溶.Ba2+ およびSO42-の定性分析や定量分析に利用される.濃硫酸には硫酸水素バリウムとなって溶ける.希酸に不溶.空気や熱に対して安定である.白色顔料,塗料,ゴム,洋紙などの填料,充填剤(パテ),他のバリウム塩の製造,X線造影剤,医薬品(下痢止剤)などに用いられる.[CAS 7727-43-7]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…造影剤は,X線発見の翌年の1896年にはシュトラウスH.Straussが次硝酸ビスマス(塩基性硝酸ビスマス)などを用いて消化管造影を試み,1904年にはリーダーH.Riederによって胃X線検査の基礎が完成された。日本では昭和初期にトリウム(Th)系造影剤トロトラストが用いられたこともあるが,放射性物質であるため現在では用いられず,硫酸バリウム,ヨウ素,空気などが用いられている。 造影剤の条件としては,(1)周囲組織とのX線吸収差が大きいこと,(2)毒性がなく,副作用が少ないこと,(3)検査後,排出,吸収が迅速に行われること,(4)経口的に用いる場合は飲みやすいものであること,の4点が求められる。…
…バリウムイオンは無色,有毒である。硫酸バリウムは白色できわめて水に溶けにくいから,Ba2+の検出や定量に利用され,白色顔料ともなる。また体内に入っても安全なのでX線の造影剤になる。…
※「硫酸バリウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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