改訂新版 世界大百科事典 「社会発展」の意味・わかりやすい解説
社会発展 (しゃかいはってん)
social development
社会構造が別のものに変化したり,より単純な構造のものからより複雑な構造のものへ変化したりするときのプロセスやその形態をいう。この変化が漸進的で量的なものなのか,それとも革命的で質的なものなのか,また,この変化が望ましい状態に向けての変化であるのかどうか,あるいはまた変化の原因が社会の内部にあるのかそれとも外部にあるのか,などについて論者の意見は異なる。
この変化の過程を一定の方向に向かっての直線的で累積的なものとしてとらえるのが社会進化論の立場である。その初期の提唱者スペンサーは生物進化論の影響のもとに,社会の進化を強制的協力の支配する軍事型社会から自発的協力が支配する産業型社会への移行とみた。この進化の過程がより望ましく,よりすぐれた社会状態に向けての変化としてとらえられるとき,それは社会進歩と呼ばれる。この〈進歩の観念〉は啓蒙主義に由来しており,社会の無限の進歩と人間の完成可能性という,当時勃興しつつあった市民階級の楽観主義的な歴史意識と理性への信頼を基礎にしている。こうした伝統に立って,たとえばコントは社会の進歩は知識の進歩によって決定されるとし,サン・シモンにならって人間の知識の発展を神学的→形而上学的→実証的の3段階に分け,社会構造も知識の発展に応じて憶測的知識の支配する軍事的時期から抽象的知識が支配する法律的時期を経て,科学的知識が支配する産業的時期へ進歩するとした。
社会進化=社会進歩とする考えは,その後階級社会の矛盾や未曾有の世界大戦の経験などを経て支持者を失うことになった。また社会の進化を望ましい状態に向けての変化としてとらえるときには,〈望ましい〉ものについての判定者の価値判断の問題がからんでくる。こうしたなかで注目されるのが生産様式という客観的な基準を用いて社会の発展段階を説明しようとするマルクス主義の試みである。生産様式とはある社会の生産力とそれに対応するところの生産関係の統一をあらわす概念であり,これを基準にすると社会の発展はアジア的→古代的→封建的→近代ブルジョア的→社会主義的という五つの段階をたどるという。社会進化論や進歩の理論がどちらかというと直線的で量的な社会発展の図式を唱えるのに対し,マルクス主義では生産力と生産関係の矛盾に起因する社会構造の質的で革命的な変化を強調する。
社会学では発展段階説としては上述のスペンサーやコントのほかに,テンニースの本質意志を結合原理とするゲマインシャフト→選択意志を結合原理とするゲゼルシャフト,デュルケームの同質的分業を結合原理とする環節的社会→異質的分業を結合原理とする有機的社会,などが知られている。また最近ではパーソンズなどによって〈環境への適応能力の増大〉という観点から,社会進化論の復興が試みられている。
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執筆者:山口 節郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報